上村悦子の暮らしのつづり

日々の生活のあれやこれやを思いつくままに。

11月 旅行

2019-11-13 10:48:14 | エッセイ

ここ数年、11月には「つどい場さくらちゃん」(西宮市)主催の「車イスツアー」に参加している。
私が参加してから台湾に4回、今年は韓国だった。このところの国際情勢から、
韓国と聞いて「大丈夫?」とは思ったが、実際に行ってみると庶民レベルではとてもフレンドリーだった。

つどい場さくらちゃんとは、
介護者や介護職など介護関係者が集ってランチを楽しみ、日ごろの悩みや疑問、グチなどを思いっきり話せる場。

雑誌の取材で初めて訪ねた時には、とにかく驚いてしまった。
一般の介護関係者の集まりというのは、妙に静かで独特の空気が流れているのだが、
さくらちゃんでは部屋の外まで笑い声が聞こえていて、みんな明るかった。
集まっている人に話を聞くと、10年以上介護している人もいるのだが、不思議な余裕があるのだ。
何度も通ううちにわかったのが、不安なことがあれば何でも相談しあえる介護者同士の「つながり」ができていたこと。
「安心できる」というつながりは、遠く離れたきょうだいよりも頼もしいそうだ。

代表の丸尾多重子さん(愛称まるちゃん)は、10年間で両親、兄と3人の家族を看取った、いわば介護のベテラン。
自身が介護者の時、外出がままならず、人と話すことの大切さを痛感して、
介護者がいつでも集まれる場所ができたらと長年願い続けてきた。
その場を自身で14年前に作ったのだ。
「お茶だけやと会議になるけど、みんなで一緒にご飯を食べたら、親近感が湧いて本音で話し合える場になるねん」と。 

さらに自身の体験から、介護者は家に閉じこもって煮詰まってしまうから、
どんどん外出しようと「おでかけ」が始まった。
2004年のオープン当初から、車イスを押して介護する人もされる人も一緒にお花見や果物狩りなどの出かけているのだが、
飛行機での旅行もスタート。これまで北海道から伊勢、沖縄、台湾、韓国まで計15回のツアーを実現している。

参加する前から、旅行に出ると車イスの人の表情がどんどん変わって笑顔や増えるという話を聞いていたのが、
参加してみて納得。
いつもと違う社会の風や空気には人は敏感なのだろう。開放感からか本当にイキイキとされるのだ。

だから当然、食欲も出る。ミキサー食の人が機内食が出た途端に、もう長く食べたことのなかったレタスをパリパリ食べたり、
中華料理の春巻きや小籠包を片手にモグモグ。
私たちが食べきれないほどの料理を、ナイフとフォークを上手に使ってペロリと平らげた認知症の89歳のおばあちゃんもいた。
不思議と嚥下にも問題ないのだ。
小さな良い変化が次々と起きて、それを発見してはみんなでまた大笑いする。

海外旅行をすすめるまるちゃんの考え方も素晴らしい。
行き先の飛行時間は、車イスの人が頑張れる2時間半まで。
介護される側になると、個人の肩書きなどなくなってしまうからこそ、顔写真入りのパスポートで堂々と税関を通り、
一人の人間として認められる心の満足感は大きいというのだ。
 
また、他の介護者の様子が見られ、情報が得られて勉強になる。家族だけでは難しい旅行も、
介護職なども参加するさくらちゃんのツアーでは、さり気なく大いにサポートしてもらえる。
「楽しいことがあるとお年寄りは笑顔になれる。そういう姿を子どもに見せるのが教育」
「車イスの人を実際に見なければ社会は変わらない」とも。

残念ながら、車イスの人が出かけるのに欠かせない「リフト付きバス(車体中央に車イスで乗り降りできるリフトが付いている)」は、
日本にはまだまだ少ない。でも、介護度4や5になっても旅行を楽しむ気持ちさえあれば、いつでも参加できることを知っておきたい。
コメント
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