最寄駅から7〜8分ほど歩いただけで、額から流れるような汗。
神戸のある修道院の大きなガラス張りのドアを開けると、
修道女の高木麗子さんが笑顔で迎えてくださった。
「まあまあ、暑かったことでしょう! 早くお上がりになって! 冷たいものを用意します……」と。
取材での初めての出会いなのに、
高木さんから不思議な「温もり」のようなものが瞬時に伝わってきて、
その言葉だけで私の心はほっこりとしてしまった。
グリーフケアの第一人者であり、上智大学グリーフケア研究所の名誉所長である高木慶子さんだ。
高木さんの存在を知ったのは、4〜5年前のこと。
一昨年に上梓した拙著『あなたが介護で後悔する35のこと』を
まとめている途中で、つまずいたことがあった。
この本は、介護者の後悔した体験から、後悔しない方法を学んでいく内容だが、
多くの方が一生懸命介護を続けて、大切な人を看取った後、
その「深い悲しみ・悲嘆」からなかなか立ち直れずに、その後の歩み方に戸惑ってしまわれるのだ。
こんな時、どうすればいいのか。
私は、立ち直るためのケアについて書きたいと思った。
医学が進歩した現代に何かサポートする方法はないのだろうか?
専門家はいないのだろうか?
その時、探し回って出会ったのが、高木さんの『悲しんでいい』という本だった。
「悲しみを一人でかかえ込んでいるだけでは悲嘆は癒されない。
表に出すことで少しずつ回復に向かう」という内容で、
「これだ!」と思った。
「1人では乗り越えられない悲嘆も、同じ喪失体験を持つ人に気持ちを打ち明けると、
辛いのは自分だけではないことが分かって、孤独から解放される」のだという。
さらに、
「人はそうした喪失体験をバネにして、以前より高いレベルの人生を送ることができる」と記されていた。
「なるほど」と納得できた。
私が取材させてもらった介護者も、懸命に介護をしてきた人ほど、同じ体験者に本音を聞いてもらい、
大泣きされた後は、一回りもふた回りも大きくなって、新しいことを始められたりするのだ。
35年間にわたって、大地震や大事故、大災害などの多くの被害者や加害者、
またホスピス病棟でのがん患者さんに寄り添い、
グリーフケアとターミナルケアを続けてこられた宗教家・高木さんならではの教えだった。
執筆の折には、本からの引用させていただいただけで、
今回、事後報告となったが、拙著も渡すことができた。
そして、間近でお顔をまじまじと拝見して、
取材中に思わず場違いな質問をしてしまった。
84歳という年齢を知っていたからである。
「なぜ、そんなにお綺麗なんですか?」