ひったくりに遭って2カ月くらい経ったころのこと。
事情聴取された刑事さんが、再び我が家にやってきた。
「ピンポーン」
突然のチャイムの音に、インターホンに出ると、「警察です」との声。
なぜか恐る恐る玄関のドアを開けると、
タイミング悪くお掃除のオバサンがわが家の前の階段の掃除をしていて、一瞬だけ振り返ったのが気になった。
「オバサン、何も警察のお世話になるようなことをやってないからね」
と心の中でつぶやきながら、刑事さんには玄関に入ってもらった。
「先日のひったくり。やったと思われる子らの顔写真があるので、見てほしいんです」
と渋い声で言う。
卒業アルバムのように15~16人の顔が並んでいる写真をのぞき込むと、
なんと中高校生風の男の子ばかり。
驚いたことに、いかにも悪そうな人相の子ではなく、
ジャニーズ系の可愛い顔の子もいるもんだから、
「ヘエー、こういうもんなんだ」
と、思わず見入ってしまっていた。
「顔を見たはずなんですが、こう並んでるとわかりませんね」
という私に、
「実は、この中に犯人と思われる子がいて、現場も、取った物も、奥さんから聞いた話と合うんですよ」
と刑事さん。
さらに
「お金だけ抜き取って、バックは中身ごと近くの池に放ったそうですよ。
まあ、バックは返ってこないと思っていただいたほうがいいですね」
と、慣れた口調で言う。
池でずぶ濡れになったバックを返してもらったってどうしようもないんだけど、
やっぱり悪いことをすると捕まるもんなんだと妙に納得させられた。
それにしても「えっ!うちの子がひったくりを?」と事実を知った母親が腰を抜かしてしまいそうな、
普通の家庭の子ばかりというのだから、ホントにびっくり。
学校や塾では問題なく過ごしている子が、何かの魔が刺して、やってしまうのがひったくりなんだろうか。
お金がほしいなら、アルバイトをすればいいじゃないの。
スリルを味わいたいなら、ダイビング・ジャンプって手もあるでしょう。
バイクが好きなら、ツーリングに行ったほうがずっと思い出になると思うのだが……。
青春期のもっとも多感な時期に
「盗んだバイクでひったくりをしてしまった」というツケは、
彼らの人生にどう影響するのだろう。