上村悦子の暮らしのつづり

日々の生活のあれやこれやを思いつくままに。

10月 ないものねだり

2021-10-21 16:47:09 | エッセイ
10月も半ばになると、早く買いに行かねばと焦ってしまう黒豆の枝豆。
今年も近くの産直販売所で大きな枝の束を2つ手に入れて、その味を堪能した。

大豆の枝豆より丸っこくて、大きさも1,5倍はあろうか。
もっちりとした深い味わいで、黒豆特有の甘みとコクがある。
食べ始めると、止まらなくなってしまうのだ。

もう30年ほど前、鉄道会社の情報誌で産直食品を毎月紹介していた。
その時初めて出会ったのが、丹波の黒豆の枝豆だ。
今ではブランド商品になってしまったけれど、
当時は現地に行かなければ手に入らず、畑の宝石を見つけた感じだった。

見た目は宝石とは程遠く、
豆が熟して皮が黒くなりかけの頃がもっとも美味しいのだが、
最近では見栄えを優先するのか、キレイな緑色の時期に出荷されている。
今の季節なら西条柿と並んで私の大好物である。

食欲の秋。

この時期になると妙に切なく思い出す食べ物がある。
子どもの頃、秋祭りをはじめ何か祝い事があるごとに
母が誇らしげに大皿いっぱいに作っていた「ツナシずし」だ。

後から知ったのだが、ツナシは方言で正式名はコノシロ。
秋が旬の瀬戸内の魚で、開いて酢漬けにしたツナシに、
しっかり握ったすし飯を詰め、頭の裏に千切りの生姜を添えた大振りの姿寿司。
資料によると、
その昔、備前ではお祭りの時の客へのお土産や、稲刈りの時の保存食として重宝されたらしい。

祖父母や両親、姉たちは「美味しいなあ」と頷き合うように食べるのだが、
幼い私は魚特有の生臭さと頭付きがイヤで、楽しく食べた記憶がない。

今やお寿司は大好物の一つ(大好物が多すぎる)。
中でも鰯や鯵、鯖など光ものには目がない。
あの頃のツナシずしを今の年齢で味わうことができるなら、
どんなに満ち足りた気持ちになれることか。

ないものねだりもここまで来れば、笑い話である。