くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

夢の彼方に(19)

2016-04-02 14:48:18 | 「夢の彼方に」
 斬られた、と思ったとたん、マジリックはパラパラと砂のようになって、サトルの目の前から姿を消した。青騎士は大剣を構え直すと、窓のそばに立つサトルの方に向き直って、鎧を重々しく打ち鳴らしながら、近づいてきた。
「おっと、どこの誰かは知りませんが、わたしの大切な助手に手は出させませんよ」
 いつの間にか姿を現したマジリックが、青騎士を後ろから羽交い締めにした。
「礼儀を知らない人ですね。鎧ぐらい脱げばいいじゃないですか――」
 マジリックは言うと、青騎士を羽交い締めにしたまま、体ごと鎧を透り抜け、青騎士と向かい合わせになった。
「こりゃ驚いた。中身は空洞ですか――」
 まるで大蛇のような姿になって、マジリックは青騎士の体にぐるぐると巻きついた。片手をゴムのように伸ばして、部屋の外に見える階段の手すりをつかむと、青騎士もろとも宙を飛んで、階段の下に転げ落ちていった。
 サトルが「マジリック!」と叫びながら部屋を出ると、階段の手すりにつかまったまま、ゴロリと下に落ちていったマジリックが、シュルル……とバネのように巻き戻され、元の姿に戻って、サトルの目の前に立った。
「マジリック、大丈夫……」と、サトルは心配して言った。「早く逃げなきゃ」
 こくん、とマジリックは、笑顔を浮かべてうなずくと、
「ほいっ……」と、右手の指を鳴らした。
 すると、サトルの持っていた金魚鉢が、ふわりと宙に浮かんだ。暴れるように泳いでいたトッピーもろとも、金魚鉢は火花のような光を吹き出しながら回転し、窓の外に勢いよく飛び出した。
 粘土のように伸びた金魚鉢が、バスタブのような形のゴンドラに姿を変えると、トッピーは、風船のようにみるみる大きく膨らんで、飛行船に姿を変えた。金魚鉢にたっぷりと入っていた水は、ゴンドラと飛行船をつなぐ何本ものロープになった。
「さ、このゴンドラに乗るんだ――」マジリックは言うと、サトルを後ろから抱き上げて、もとは金魚鉢だったゴンドラに乗せた。
 ゴンドラに乗ったサトルは、縁から身を乗り出して、宿屋の窓に手を伸ばした。風に揺れるトッピーの飛行船は、ふらふらと窓に近づいたり離れたりを繰り返し、マジリックが窓の外に伸ばしている手を、なかなかつかむことができなかった。
 やっとの事でサトルがマジリックの手をつかむと、ガシャン、と部屋の入り口にまた青騎士が姿を現した。
 マジリックは、せっかくつかんだサトルの手を離すと、にょろりと体を蛇のように変え、大剣を振り上げようとした青騎士にぐるぐると巻きついた。
 横風を受け、トッピーの飛行船がふわりと空高く舞い上がった。
「――待って、もっと近づいて」サトルは、トッピーの顔を見上げて叫んだ。
「ダメだよ、どうやって飛んでいいかわからないんだ……」ぼよよんと間延びした声で、トッピーが答えた。
 風に吹かれた飛行船が、再び窓に近づくと、サトルはゴンドラの縁から、下に落ちそうなほどうんと身を乗り出して、
「マジリック――」
 と、痛いほど手を伸ばして叫んだ。
 しかし飛行船は、またもや強い横風を受けて、さらに空高く舞い上がった。宿屋の窓がみるみるうちに小さくなるほど、遠く離されてしまった。「マジリック――」と叫ぶサトルの声は、もはやマジリックの耳には、届かなかった。
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夢の彼方に(18)

2016-04-02 14:47:26 | 「夢の彼方に」
 自動販売機は、ぴくりとも動かなかった。
「……あれ」と、サトルが何度ボタンを押しても、中からジュースは出てこなかった。
「どうしてだろう……」と、サトルは自動販売機におかしな所がないか調べた。すると、原因がすぐにわかった。自動販売機は、電源が入っていなかった。サトルは部屋を調べたが、コンセントはどこにも見あたらなかった。
「デンキ?」と、マジリックはくすくす笑いながら言った。「聞いたことないなぁ……」
「はーあ、先が思いやられるな……」トッピーがぶくぶくとあぶくを吹きながら、あきれたように言った。
「もう一回やってみるよ。これ、元に戻すにはどうしたらいいの……」サトルが教科書を持って目をつぶると、
 ガシャン、ガシャン……
 どこからか、鉄を打ち鳴らすような、耳障りな音が聞こえてきた。
「何の音?」
「わからない――」マジリックは緊張した面持ちで、耳をそばだてるように言うと、窓から顔を出して、外を見た。
 サトルは教科書をランドセルに戻すと、マジリックと並んで窓から外を見た。窓の外には、ちょうど斜め下に宿屋の入り口があった。大きな人の影が、たった今宿屋に入ってきたように見えた。
 ガチャン、と言う重々しい音の後、
「ギャー」と、おかみさんの悲鳴が聞こえた。
「なんだ、なんだ」トッピーが、金魚鉢の中をぐるぐる回り始めた。
 シャリーン、ガシャン……
 鉄がぶつかり合う耳障りな音が、だんだんとサトル達の部屋に近づいてきた。部屋の外から、逃げまどう人達の悲鳴が聞こえてきた。
 マジリックは窓から離れ、ドアの横に立って身を潜めた。
 サトルは、ランドセルを背負うと、トッピーの泳ぐ金魚鉢を脇に抱えて、マジリックの後ろに立った。
 バタン、とドアが壊され、部屋の中にどしんと倒れてきた。ガシャン、ガシャンと音を立て、部屋の中に入って来たのは、頭から足の先まで、全身を青い鎧で覆った騎士だった。ギラリ、と光る幅広の大剣を手にしていた。目の所だけ、細いすき間を開けた兜を頭からすっぽりと被っていた。ぐるりと部屋の中を見回すその表情は、まったくうかがい知ることができなかった。
 青騎士は、出入り口のそばに立つマジリックに気がつくと、おもむろに大剣を振り上げ、振り返りざまに切り下ろした。
 マジリックは、サトルが出した自動販売機を、軽々と引き寄せた。
 ぶつん、と鈍い音がしたかと思うと、赤い自動販売機が斜めに線を引かれたように切れ、中に入っていた赤茶色の炭酸ジュースが、部屋の中に飛び散った。
「マジリック!」サトルは窓の方へ逃げながら、大声で叫んだ。
 青騎士はすぐに大剣を振り上げ、壁を背にしたマジリックに振り下ろした。
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夢の彼方に(17)

2016-04-02 14:45:50 | 「夢の彼方に」
 マジリックは、おかみさんの両手をしっかり取りながら、何度も「ありがとう」と大げさな握手をした。
 二人が借りた部屋は、テーブルがひとつと椅子が二脚、そしてベッドがあるきりの、決して広いとは言えない部屋だった。
「いいかい。貸してあげるけどね、これだけは守っておくれよ」と、見た目にも不機嫌なおかみさんが、マジリックに条件をつけた。
「部屋の中では、絶対に魔法は使わないこと――。これが守れなければ、すぐにでも出て行ってもらうからね」
 おかみさんは、受付のテーブルに鍵を置くと、奥の部屋に入り、バタン、とわざと大きな音を立てて、ドアを閉めた。
「しようがないねぇ……まったく人騒がせな魔法使いだよ」と、不機嫌なおかみさんの声が、ドアが閉まった奥の部屋から、低く漏れ聞こえた。
 ロバを外につなぐと、サトルはトッピーを持って宿に入った。酒宴でにぎわっている食堂で、久しぶりのご馳走をたらふく平らげると、重たくなった腹を両手で持ち上げるようにして、部屋に戻った。
「さてと、ちょっと明日の出し物の練習をしようか」と、ベッドに腰をおろしたマジリックが言った。
「オレは知らないぞ」と、トッピーが怒ったように言った。「見つかったら、追い出されちまうんだからな……」
「いいさ、魔法なんて、手品のタネにちょっと使っただけじゃないか」と、マジリックはむくれたように言うと、被っていた大きなシルクハットをとり、右手を中に突っこんで、サトルのランドセルを取り出した。
 サトルが驚いて目をぱちくりさせていると、マジリックが教科書を出すように言った。
「さあ、やってみよう」と、マジリックがうれしそうに言った。「小さな物でいいから、本を使って、思った物を出してみなよ」
 サトルは教科書を出すと、左手に持って、右手を表紙に乗せた。
「えーと」と、サトルはぎゅっと目を閉じながら言った。
「自販機、出ろ!」
 ピカッ――
 と、サトルは目を閉じていても、教科書が金色にまぶしく光ったのがわかった。
「なんだこれ……」と、マジリックが言った。
 サトルが目を開けると、イメージしたとおりの赤い自動販売機が、部屋に現れていた。
「これ、ほんとにぼくが出したの……」と、サトルは自動販売機にさわりながら言った。
「ま、本のおかげだけどな」と、マジリックが言った。「だけどこいつは何だ、サトルの町にある機械かい?」
「そうさ、これは自動販売機って言うんだ。ほら、ここにボタンがあるだろ――」サトルは自動販売機の横に立つと、指で示しながら言った。「ここを押すと、中から缶に入った飲み物が出てくるんだ」
「いいかい、押すよ」と、サトルは自動販売機のボタンを押した。
「……」マジリックとトッピーが、固唾を呑んで見守っていた。
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夢の彼方に(16)

2016-04-02 14:43:24 | 「夢の彼方に」
「なに言ってるんだ、下手クソな手品の方が悪いんじゃないか」と、怒って水面に跳ねあがったトッピーが、胸びれで金魚鉢の縁につかまりながら言った。「タネが見え見えで、お客さんがくすくす笑いしてるのがわかんないのかよ」
「あーあ、なんにも聞こえないなぁ」と、マジリックはロバを引いて、先に歩いて行ってしまった。
「待ってよ、マジリック……」と、サトルは怒るトッピーをなだめながら、水をこぼさないように駆け足で追いかけた。
 町はそろそろ日が暮れ始め、通りでは、遊んでいた子供達があわてて家路を急ぎ、夕飯の買い物をするおかみさんや、仕事帰りのお父さん達で、あふれ始めていた。ところ狭しと並んだ店からは、景気のいい声が止むことなく聞こえ、おいしそうな臭いがプンと漂ってきた。
 サトルのお腹の虫も、おいしそうな臭いにたまらず根を上げ、ぐうぐうと大きな音で鳴き始めた。
「ねえマジリック、今日はどこに泊まるの?」と、サトルは腹を押さえながら、恥ずかしそうに聞いた。
「ごめん、忘れてた――」振り返ったマジリックは、顔の横を指でかきかき言った。
 宿を探して歩き回るうち、もうすっかり日も暮れ、自分達の影も見えなくなるほど、夜が深くなってきた。空き部屋を訪ねたどの宿屋も、マジリックの顔をひと目見るなり、誰もが急な予約を思い出し、今晩は満室です、と断られてしまった。お願いしますと頼んでも、ぴしゃりと一度閉められたドアは、いくら呼んでも、二度と開けてはもらえなかった。
「ここは、ぼくが頼んでみるよ――」と、まだ訪ねていない宿屋の明かりを見つけて、サトルが言った。
「うん……」と、がっくりと肩を落としたマジリックが、子供のようにべそをかきながらうなずいた。
「そこの陰に隠れてて――」サトルは声をひそめながら、マジリックに塀の陰に隠れているように言うと、宿屋のドアを叩いた。
 トントン、トントン……
「――はいはい、夜分にご用ですか」と、宿屋のドアを開けてくれたのは、ふっくらとしたおかみさんだった。
「どうぞ、中に入ってください」
「あの、泊めてくれませんか?」と、宿屋に入るなり、サトルは言った。
「あら、坊や一人だけかい?」おかみさんが、きょとんとした顔で言った。「うちは宿屋だから、部屋はいくらでも貸してあげられるんだけど――。それにしてもこんな時分に、どうかしたのかい……」
「泊めてもらえるんですか!」と、サトルはうれしそうに言った。
「いいけど……」と、おかみさんは戸惑ったように言った。
「――やあ、これはありがたい」と、塀の陰に隠れていたマジリックが、両手を広げて大げさに出てきた。明るく微笑む顔には、べそをかいていた様子はどこにもなく、いかにも自信ありげな紳士のようだった。
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夢の彼方に(15)

2016-04-02 14:41:27 | 「夢の彼方に」
「そうだなぁ……」と、マジリックは星空を見上げながら言った。「手品を始める前は、ほかの魔法使いと同じように、町から町に旅をしながら、調合した薬を売ったりしていたからね。知っている人は、少なくないと思うよ」
「でも、どうして魔法が使えるのに、わざわざタネがある手品をやりながら、旅をしているの」
「ハハン……」と、マジリックはほくそ笑みながら言った。「みんなをあっと言わせてやりたいんだよ。なぜって? そりゃ、魔法使いが魔法を使っても、当たり前すぎて、誰も驚いたり笑ったりしてくれないだろ? タネがあるのはわかっていても、まるで見破れない手品だからこそ、みんなを楽しませてあげることができると思うんだ」

 ――サトルは、マジリックが言っていたことを思い出しながら、教科書をランドセルにしまうと、幌馬車の幌をめくって荷台に載せた。
「あっ――」と、荷台を見ていたサトルが、声を上げた。
「どうしたんだい」と、ロバに話しかけていたマジリックが、驚いたような顔を向けた。
「どうしよう……トッピーが変だよ」サトルは手を伸ばすと、ゆらゆらと水が揺れる金魚鉢を取り出した。見ると、たった一匹しかいない金魚が、白いお腹を上にしながら、ぷかぷかと水面に漂っていた。
 マジリックは、サトルから金魚鉢を受け取ると、そっとガラスに耳を当てた。
「……」
「どうしよう……」と、サトルは顔を青ざめさせた。
 トッピーは、ただの金魚ではなかった。人の言葉を話し、理解することもできた。サトルが、マジリックと一緒に旅を始める前から、共に手品の舞台に立ってきたのだという。希望の町では、マジリックが立つ舞台の最後を締めくくる手品で、重要な役を担うことになっていた。旅の間、サトルがロープの手品を練習してきたのと同じく、何度も繰り返し練習してきた出し物だった。お城を模した仕掛けの中で、助手のサトルが姿を消すと、代わってトッピーが現れる、という筋立てだった。
「なんだ、また居眠りしてるよ」と、マジリックは金魚をのぞきこみながら言った。
「えっ?」と、サトルはマジリックから金魚鉢を受け取ると、同じように中をのぞきこんだ。
 グウ、グウ……と、いびきのような音を立て、トッピーはお腹を水面に浮かべて眠っていた。
「こらっ、起きろ」と、マジリックが、金魚鉢の横を人差し指でピンと弾いた。
「うっぷ……なんだよ、出番か?」
 トッピーはびくっと体を揺すると、金魚鉢の中を寝ぼけたようにぐるりと泳いで、驚いたように言った。
「大事な出演者が、居眠りなんかしちゃだめじゃないか」と、マジリックは金魚鉢をのぞきこみながら、怒ったように言った。
「出番がありゃあな。どこにお客がいるんだよ」と、トッピーは金魚鉢の中をぐるぐる泳ぎながら、ばかにしたように言った。
「言ってくれるじゃないか。この前みたいな失敗をしたら、今度こそ湖に帰ってもらうからな」マジリックは言うと「ふん」と背中を向けた。
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夢の彼方に(14)

2016-04-02 14:40:31 | 「夢の彼方に」
「いいけど、どうするの……」と、サトルは不安そうに聞いた。
「いいことを考えたんだ」と、マジリックはランドセルの中から、たった一冊だけ入っている国語の教科書を取り出した。
「まかせとけって……」
 マジリックは、不安そうに見守るサトルに言うと、手にした教科書にふーっと静かに息を吹きかけ、パチンと右手の指を鳴らした。
「今度はね、この本を使った手品を教えてあげるよ。ロープは、勝手に動いてしまうからうまくできなかったようだけど、この本を使った手品なら、ぶきっちょなサトルだって、きっと大成功するはずさ。題して、”物語をかなえる本”。この本を持ちながら、サトルが物語を作って本に話すと、そのお話のとおりになるんだ――」
「物語をかなえる本……?」
 マジリックは、うんうんと楽しそうにうなずいた。
「今日の宿が決まったら、さっそく練習してみようじゃないか」
 サトルは教科書を受け取ると、パラパラとページをめくってみた。見た目には、どこにも変わったところはなかった。どこにタネを隠したのか、どんな手品になるのか、見当もつかなかった。
(魔法使いって、本当なのかな……)と、後かたづけをするマジリックの背中を見ながら、サトルは思った。
 旅の途中で、マジリックは、自分が本当は魔法使いなんだと、教えてくれた。

 ――パチパチとはぜる火のそばで、毛布にくるまって横になっていたサトルは、顔を上げて、マジリックに聞いた。
「魔法使いって、本当にいるの?」
「サトルがいたところには、魔法が使える人はいなかったのかい」
「うん」と、サトルはうなずいた。「ぼくがいたところでは、魔法使いなんてお話の中にしか出てこないよ。ほうきで空を飛んだり、呪文を唱えてカボチャを馬車にしたりね」
「そりゃきっと、魔法が使えなくなったんだよ」と、マジリックは言った。「お話に出てくるんだから、魔法使いはきっといたのさ。うちのじいさんが言っていたんだけど、なんだかワクワクすることや、こうだったらいいのになってことが思い浮かばなくなると、どんな偉大な魔法使いでも、いつの間にか魔法が使えなくなっちゃうらしい――」
「マジリックは、どんな魔法が使えるの」と、サトルは聞いた。
「そうだなぁ」と、マジリックは考えるように言った。「この仕事を始める前だけど、乳の出が悪くなった牛に、いつまでも泉のように乳が出るようにしてあげたり、庭に生えた大きなドングリの木に、果物が成らなくてつまらないって言う人がいたから、季節の果物が、一年中実をつけるようにしてあげたこともあるよ」
 サトルは黙って、信じられないというように顔をしかめていた。
「――だけど舞台で披露する手品じゃ、ほとんど魔法は使っていないんだ」と、火にたきぎをくべながら、マジリックは言った。
「町の人達は、マジリックが本当は魔法が使えるんだってこと、知ってるの?」
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夢の彼方に(13)

2016-04-02 14:39:23 | 「夢の彼方に」
 幌馬車を繋いだロバを引いて、サトル達は村を出た。日が暮れると、太い大きな木が茂る森で足を止め、火をおこして休んだ。次の日は、ゆったりと弧を描いた緑の草原を抜け、とうとうと流れる大河のほとりで、一日を終えた。別の日は、刈り取りを終えた畑を横に見ながら、狭い農道を進んだ。幌馬車の車輪が、何度も道をはみ出して、畑の際にはまりこみ、動けなくなった。希望の町が近づくと、街道で多くの旅人とすれ違うようになった。気持ちがはやり、いつの間にか足取りが速くなっていた。最後の難所は、ゆったりとした傾斜の山道だった。なるべく体力を消耗しないように登ったはずが、息が切れて、途中で何度も休まなければならなかった。眼下に希望の町を望む広大な景色に感嘆しながら、やっとの事で、息が白くなるほど寒い峠を越えた。
 旅の間、サトルは希望の町で披露する舞台の練習とあわせて、ロープを使った簡単な手品を習った。
「次の舞台では、誰もが想像もしないほど大仕掛けの手品を披露して、お客さん達をアッと驚かせてやるんだ――」と、マジリックは身振りを交えて、楽しそうに話をした。「もちろん、サトルも助手として、しっかり舞台を盛り上げなくちゃならないよ」と、念を押すように真剣な顔で言った。
 希望の町に到着するまで、残りわずかな日数しかなかった。サトルはがんばって、時間の許す限り、教わった手品の練習を何度も繰り返した。
 マジリックがサトルに教えた”生きているロープ”は、その名のとおり、生きているとしか思えないロープを使う手品だった。どんな仕掛けになっているのか、サトルがロープを固く結ぶと、独りでにロープが動き出し、いともやすやすとほどいてしまった。ロープが結び目をほどいてしまうより早く、サトルが次から次に急いでロープを結んでいくが、結び目を作る時間がほんの少し遅くなるだけで、ロープは何事もなかったように元どおりになってしまった。
 マジリックは、何度もお手本を見せてくれた。ロープを手にして、あっという間にいくつも結び目を作ると、ほどこうとするロープが、あたかも楽しく踊っている犬のように見えた。サトルも、なんとかロープを結ぼうとがんばるが、結局最後は、いつも自分自身をぐるぐる巻きにして、身動きがとれなくなってしまうのだった。
 希望の町は、低い谷の間にあった。町の中心を流れる澄み切った川を挟むようにして、左右の町に分かれていた。ゆったりと流れる広い川には、橋がいくつも渡されていた。町の入り口には、背の高い樫の木が二本並んで立っていて、『ここから希望の町』と書かれた看板が、少し右にかしげながら、二本の木の間に架けられていた。
「ごめん、ごめん……」と、あやまりながら、けれど止まらない笑いをくつくつとこらえて、マジリックは言った。
「ロープに絡まったサトルのおかしいことといったら、お客さん達の誰一人として、笑っていない人はいなかったよ――」
「ふん」と、サトルはぷいと横を向いた。
 たったいま、公演の宣伝を兼ねた簡単な手品を、人通りの多い大通りで終えたばかりだった。マジリックと聞いて、なぜか顔をしかめる人も大勢いたが、新しく仲間に加わったサトルが、旅の途中で繰り返し練習した手品を披露し始めると、道行く人達は興味を覚えたのか、一人二人と足を止め始めた。表情は硬く、動きは終始ぎこちなかったが、サトルが一生懸命に演じた手品を終えると、周りには意外なほどたくさんの人々が集まって、多くの拍手と声援を送ってくれた。
「――けど大きな舞台まで、ほとんど時間もないからな……」と、後かたづけをしながら、マジリックが考えるように言った。
「そうだ……」マジリックはロバに繋いだ幌馬車の中から、サトルのランドセルを取りだした。「開けてもいいかい?」

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夢の彼方に(12)

2016-04-02 14:37:57 | 「夢の彼方に」
         3
「ハッハッハッ――」と、マジリックは腹を抱えて大笑いした。
「なんで笑うのさ、ぼくだって失敗なんかしたくなかったよ……」と、サトルはむすりとふくれっ面をした。
 町から町へ、マジリックは手品を披露する舞台に立ちながら、旅をしていた。サトルは、マジリックの助手として、希望の町にやってきた。
「ねむり王様の城に行くには、この町を過ぎれば、あとはまっすぐ一本道さ」と、マジリックは教えてくれた。「二、三日も行けば、大きな湖の向こうに白いお城が見えてくる」
 タマネギ畑で目を覚ましてから、サトルはもう何年も過ぎたのではないかと思うほど、長く旅をしているように感じていた。しかしまだ、新しい季節が訪れるほど、多くの日付は変わっていなかった。
 モネアに連れられて行った村長の家で、マジリックは言った。
「ちょうど一人、助手を雇おうと思ってたところなんです」
「それはよかった」と、村長は言った。「だったらぜひ、この子を一緒に連れて行ってくれないだろうか。君も知っていると思うが、大風が村を襲った。誰もが多かれ少なかれ被害を受けて、もとどおりの生活を取り戻すには、ややしばらく時間がかかるだろう。嵐のような大風が村を襲ったのは、私も含めて初めて経験することだ。はっきりとした原因は、気象の専門家に聞かなければわからないだろうが、にわかに吹き荒れた風に乗って、ねむり王様の扉が畑の空に現れたらしい。見ていた者によると、大風は扉が消えるとウソのように治まったというが、扉が煙のように消えてしまう前、この子を中から吐き出したのだという。君が席をはずしている間、この子の口から詳しい話を聞かせてもらったが、どうやら夢に迷った王様の後を追いかけて、我々の知らないところから、この土地に迷いこんで来てしまったらしい」
「ほう、それはめずらしい」マジリックは驚いたように言うと、サトルに顔を近づけて、じっと目をのぞきこんだ。「どれどれ……」
 サトルはどうしていいかわからず、おどおどと、おびえたように肩をすくませながら、マジリックと目を合わせた。
「ねぇ、おまえさん――」と、モネアが、硬くなったサトルの肩にそっと手を乗せながら言った。「お願いだよ、この子を無事に帰してやれるのは、ねむり王様しかいないんだ」
 マジリックは体を屈めたまま、あごに手をやって「うーん」と首をかしげていたが、
「――そうだ。よしっ、決めた!」
 にっこりと笑顔を浮かべて背を伸ばすと、村長とモネアの顔をかわるがわる見ながら、うれしそうに言った。
「次に行く希望の町では、まだ誰も見たことがない新しい手品で、みんなをアッと驚かせてみせますよ――」
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ひやひや

2016-04-02 07:09:27 | Weblog
なんとも、

気をつけてほしいわ。

仕事終わって深夜に札幌。。

苫小牧で高速乗ってたんだけど、

レースまがいの追い越しかけてる車と数台すれ違った。。

交通量はいつも多いけど

なんかいつもと雰囲気が違うんで

危なっかしいなぁと思ってたら、

札幌南に近づいたところで急な通行止め。。

救急車は走ってくるし

もしかしたら巻きこまれてたかも…

って考えたらぞっとするわ。。

事故起こした人無事ならいいけど、

4月に入って走りやすくなったから、

気をつけなきゃね。
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