斬られた、と思ったとたん、マジリックはパラパラと砂のようになって、サトルの目の前から姿を消した。青騎士は大剣を構え直すと、窓のそばに立つサトルの方に向き直って、鎧を重々しく打ち鳴らしながら、近づいてきた。
「おっと、どこの誰かは知りませんが、わたしの大切な助手に手は出させませんよ」
いつの間にか姿を現したマジリックが、青騎士を後ろから羽交い締めにした。
「礼儀を知らない人ですね。鎧ぐらい脱げばいいじゃないですか――」
マジリックは言うと、青騎士を羽交い締めにしたまま、体ごと鎧を透り抜け、青騎士と向かい合わせになった。
「こりゃ驚いた。中身は空洞ですか――」
まるで大蛇のような姿になって、マジリックは青騎士の体にぐるぐると巻きついた。片手をゴムのように伸ばして、部屋の外に見える階段の手すりをつかむと、青騎士もろとも宙を飛んで、階段の下に転げ落ちていった。
サトルが「マジリック!」と叫びながら部屋を出ると、階段の手すりにつかまったまま、ゴロリと下に落ちていったマジリックが、シュルル……とバネのように巻き戻され、元の姿に戻って、サトルの目の前に立った。
「マジリック、大丈夫……」と、サトルは心配して言った。「早く逃げなきゃ」
こくん、とマジリックは、笑顔を浮かべてうなずくと、
「ほいっ……」と、右手の指を鳴らした。
すると、サトルの持っていた金魚鉢が、ふわりと宙に浮かんだ。暴れるように泳いでいたトッピーもろとも、金魚鉢は火花のような光を吹き出しながら回転し、窓の外に勢いよく飛び出した。
粘土のように伸びた金魚鉢が、バスタブのような形のゴンドラに姿を変えると、トッピーは、風船のようにみるみる大きく膨らんで、飛行船に姿を変えた。金魚鉢にたっぷりと入っていた水は、ゴンドラと飛行船をつなぐ何本ものロープになった。
「さ、このゴンドラに乗るんだ――」マジリックは言うと、サトルを後ろから抱き上げて、もとは金魚鉢だったゴンドラに乗せた。
ゴンドラに乗ったサトルは、縁から身を乗り出して、宿屋の窓に手を伸ばした。風に揺れるトッピーの飛行船は、ふらふらと窓に近づいたり離れたりを繰り返し、マジリックが窓の外に伸ばしている手を、なかなかつかむことができなかった。
やっとの事でサトルがマジリックの手をつかむと、ガシャン、と部屋の入り口にまた青騎士が姿を現した。
マジリックは、せっかくつかんだサトルの手を離すと、にょろりと体を蛇のように変え、大剣を振り上げようとした青騎士にぐるぐると巻きついた。
横風を受け、トッピーの飛行船がふわりと空高く舞い上がった。
「――待って、もっと近づいて」サトルは、トッピーの顔を見上げて叫んだ。
「ダメだよ、どうやって飛んでいいかわからないんだ……」ぼよよんと間延びした声で、トッピーが答えた。
風に吹かれた飛行船が、再び窓に近づくと、サトルはゴンドラの縁から、下に落ちそうなほどうんと身を乗り出して、
「マジリック――」
と、痛いほど手を伸ばして叫んだ。
しかし飛行船は、またもや強い横風を受けて、さらに空高く舞い上がった。宿屋の窓がみるみるうちに小さくなるほど、遠く離されてしまった。「マジリック――」と叫ぶサトルの声は、もはやマジリックの耳には、届かなかった。
「おっと、どこの誰かは知りませんが、わたしの大切な助手に手は出させませんよ」
いつの間にか姿を現したマジリックが、青騎士を後ろから羽交い締めにした。
「礼儀を知らない人ですね。鎧ぐらい脱げばいいじゃないですか――」
マジリックは言うと、青騎士を羽交い締めにしたまま、体ごと鎧を透り抜け、青騎士と向かい合わせになった。
「こりゃ驚いた。中身は空洞ですか――」
まるで大蛇のような姿になって、マジリックは青騎士の体にぐるぐると巻きついた。片手をゴムのように伸ばして、部屋の外に見える階段の手すりをつかむと、青騎士もろとも宙を飛んで、階段の下に転げ落ちていった。
サトルが「マジリック!」と叫びながら部屋を出ると、階段の手すりにつかまったまま、ゴロリと下に落ちていったマジリックが、シュルル……とバネのように巻き戻され、元の姿に戻って、サトルの目の前に立った。
「マジリック、大丈夫……」と、サトルは心配して言った。「早く逃げなきゃ」
こくん、とマジリックは、笑顔を浮かべてうなずくと、
「ほいっ……」と、右手の指を鳴らした。
すると、サトルの持っていた金魚鉢が、ふわりと宙に浮かんだ。暴れるように泳いでいたトッピーもろとも、金魚鉢は火花のような光を吹き出しながら回転し、窓の外に勢いよく飛び出した。
粘土のように伸びた金魚鉢が、バスタブのような形のゴンドラに姿を変えると、トッピーは、風船のようにみるみる大きく膨らんで、飛行船に姿を変えた。金魚鉢にたっぷりと入っていた水は、ゴンドラと飛行船をつなぐ何本ものロープになった。
「さ、このゴンドラに乗るんだ――」マジリックは言うと、サトルを後ろから抱き上げて、もとは金魚鉢だったゴンドラに乗せた。
ゴンドラに乗ったサトルは、縁から身を乗り出して、宿屋の窓に手を伸ばした。風に揺れるトッピーの飛行船は、ふらふらと窓に近づいたり離れたりを繰り返し、マジリックが窓の外に伸ばしている手を、なかなかつかむことができなかった。
やっとの事でサトルがマジリックの手をつかむと、ガシャン、と部屋の入り口にまた青騎士が姿を現した。
マジリックは、せっかくつかんだサトルの手を離すと、にょろりと体を蛇のように変え、大剣を振り上げようとした青騎士にぐるぐると巻きついた。
横風を受け、トッピーの飛行船がふわりと空高く舞い上がった。
「――待って、もっと近づいて」サトルは、トッピーの顔を見上げて叫んだ。
「ダメだよ、どうやって飛んでいいかわからないんだ……」ぼよよんと間延びした声で、トッピーが答えた。
風に吹かれた飛行船が、再び窓に近づくと、サトルはゴンドラの縁から、下に落ちそうなほどうんと身を乗り出して、
「マジリック――」
と、痛いほど手を伸ばして叫んだ。
しかし飛行船は、またもや強い横風を受けて、さらに空高く舞い上がった。宿屋の窓がみるみるうちに小さくなるほど、遠く離されてしまった。「マジリック――」と叫ぶサトルの声は、もはやマジリックの耳には、届かなかった。