「そりゃ大変だったな」と、父親は言った。「希望の町って言えば、ねむり王様の城のそばじゃないか。若い頃に一度行ったきりだが、今度はトミヨ達も連れて、一緒に行ってみたいもんだなぁ」
サトルは、おいしい食事を腹一杯ご馳走になると、その夜はトミヨの部屋に泊めてもらった。
二人とも、ベッドに潜るなり、すぐにぐっすりと深い眠りについてしまった。
………
「サトル、起きて、サトル……」
うっすらと目を開いたサトルは、体を揺すられながら、寝ぼけ眼のまま言った。
「うるさいなぁ……いま何時」サトルは言うと、ハッとして上体を起こした。
「ごめん、トミヨ」と、サトルは言った。「母さんが起こしに来たと思ったんだ……」
まだ、外は朝日が昇ったばかりで、薄暗かった。けれどサトルを起こしたトミヨは、もうちゃんと服に着替えていた。
「おはよう、サトル」と、トミヨはあわてたように言った。「早く起きてよ、牛の世話をしていたら、空からこっちに向かって何か飛んできたんだ――」
「えっ」と、サトルは言うと、いそいでベッドから飛び起きた。きちんとたたんで脱いだ服に着替えると、トミヨと一緒に家の外に出た。
「ほら、こっちに向かって飛んでくる――」
トミヨが指さす方を見ると、大きな赤い風船が、ゆったりと上下しながらこちらに飛んで来るのが見えた。風船は、近づきながら、次第に高度を下げていった。見ると、風船の先には、サトルのランドセルと、トッピーが泳ぐ金魚鉢が結わえられていた。低い所を吹く横風を受け、フラフラとトミヨの家を過ぎていった風船を、二人は懸命に追いかけた。
トミヨが、地面に落ちそうになった風船を、右手をうんと伸ばして捕まえた。
「ありがとう、トミヨ――」と、サトルは息を切らせながらお礼を言った。
トミヨは、風船に結わえてあった荷物を降ろすと、サトルに手渡した。
トッピーが、金魚鉢の縁に飛びあがって言った。
「サトル、大丈夫か? 心配したんだぞ」
「ごめんよ、トッピー」と、サトルは言った。
トミヨは、言葉を話す金魚を見て、目を丸くしていた。
トッピーが、風博士からの伝言を伝えてくれた。博士によると、青騎士は、サトルを追いかけて、砂漠の町に向かっているという。一刻も早く町を離れて、積木の山のふもとにある町へ向かえ、とのことだった。
サトルは、積木の山がどこにあるのか、トミヨに聞いた。トミヨは、
「あそこに行くの?」
と驚きながらも、詳しい行き方を教えてくれた。
「――ただ気をつけなきゃならないのは、上の物は上向きに、下の物は下向きに、重い物は下、軽い物は上だよ」
「ありがとう、トミヨ」と、サトルは言った。「もう、行かなきゃ――」
「もう、行っちゃうの――」と、トミヨが言った。「朝ぐらい、一緒に食べてから行けばいいのに」
「うん。でも、一刻も早く町を出なきゃ、みんなに迷惑がかかるから……」と、サトルがさびしそうに言った。
「楽しかったよ」と、トミヨは名残惜しそうに言った。「いつでもいいから、また、遊びにおいでよ。待ってる」
サトルは、「うん」と大きくうなずいた。
「ちょっと待って……」と、トミヨは背を向けて歩きはじめたサトルに言った。「ちょっと待って、サトル」
トミヨは玄関のドアを開けっ放しで家に戻ると、手に何かを持って戻ってきた。
「これ、持って行きなよ」
トミヨが差し出したのは、布に包まれたパンと水筒。おそろいのサボテンの帽子と、小さなナイフ、それと、丸められた絵だった。
「これは、ぼく達の地図さ」と、トミヨは言った。「ぼく達がいる町は、この辺だよ。昨日行った人形サボテンの森がこの丸印で、緑色をした三角模様が、積木の山さ。地図を見ても、ここをまっすぐに行くだけだって、わかるだろ」
「ありがとう」と、サトルは言って、トミヨと握手をした。
「あと――」と、トミヨは言った。「この風船、もらっていいかな。コリナが起きたら、きっと喜ぶと思うんだ」
サトルは、「いいよ」と笑顔を見せると、トミヨに手を振って、歩きはじめた。
サトルは、おいしい食事を腹一杯ご馳走になると、その夜はトミヨの部屋に泊めてもらった。
二人とも、ベッドに潜るなり、すぐにぐっすりと深い眠りについてしまった。
………
「サトル、起きて、サトル……」
うっすらと目を開いたサトルは、体を揺すられながら、寝ぼけ眼のまま言った。
「うるさいなぁ……いま何時」サトルは言うと、ハッとして上体を起こした。
「ごめん、トミヨ」と、サトルは言った。「母さんが起こしに来たと思ったんだ……」
まだ、外は朝日が昇ったばかりで、薄暗かった。けれどサトルを起こしたトミヨは、もうちゃんと服に着替えていた。
「おはよう、サトル」と、トミヨはあわてたように言った。「早く起きてよ、牛の世話をしていたら、空からこっちに向かって何か飛んできたんだ――」
「えっ」と、サトルは言うと、いそいでベッドから飛び起きた。きちんとたたんで脱いだ服に着替えると、トミヨと一緒に家の外に出た。
「ほら、こっちに向かって飛んでくる――」
トミヨが指さす方を見ると、大きな赤い風船が、ゆったりと上下しながらこちらに飛んで来るのが見えた。風船は、近づきながら、次第に高度を下げていった。見ると、風船の先には、サトルのランドセルと、トッピーが泳ぐ金魚鉢が結わえられていた。低い所を吹く横風を受け、フラフラとトミヨの家を過ぎていった風船を、二人は懸命に追いかけた。
トミヨが、地面に落ちそうになった風船を、右手をうんと伸ばして捕まえた。
「ありがとう、トミヨ――」と、サトルは息を切らせながらお礼を言った。
トミヨは、風船に結わえてあった荷物を降ろすと、サトルに手渡した。
トッピーが、金魚鉢の縁に飛びあがって言った。
「サトル、大丈夫か? 心配したんだぞ」
「ごめんよ、トッピー」と、サトルは言った。
トミヨは、言葉を話す金魚を見て、目を丸くしていた。
トッピーが、風博士からの伝言を伝えてくれた。博士によると、青騎士は、サトルを追いかけて、砂漠の町に向かっているという。一刻も早く町を離れて、積木の山のふもとにある町へ向かえ、とのことだった。
サトルは、積木の山がどこにあるのか、トミヨに聞いた。トミヨは、
「あそこに行くの?」
と驚きながらも、詳しい行き方を教えてくれた。
「――ただ気をつけなきゃならないのは、上の物は上向きに、下の物は下向きに、重い物は下、軽い物は上だよ」
「ありがとう、トミヨ」と、サトルは言った。「もう、行かなきゃ――」
「もう、行っちゃうの――」と、トミヨが言った。「朝ぐらい、一緒に食べてから行けばいいのに」
「うん。でも、一刻も早く町を出なきゃ、みんなに迷惑がかかるから……」と、サトルがさびしそうに言った。
「楽しかったよ」と、トミヨは名残惜しそうに言った。「いつでもいいから、また、遊びにおいでよ。待ってる」
サトルは、「うん」と大きくうなずいた。
「ちょっと待って……」と、トミヨは背を向けて歩きはじめたサトルに言った。「ちょっと待って、サトル」
トミヨは玄関のドアを開けっ放しで家に戻ると、手に何かを持って戻ってきた。
「これ、持って行きなよ」
トミヨが差し出したのは、布に包まれたパンと水筒。おそろいのサボテンの帽子と、小さなナイフ、それと、丸められた絵だった。
「これは、ぼく達の地図さ」と、トミヨは言った。「ぼく達がいる町は、この辺だよ。昨日行った人形サボテンの森がこの丸印で、緑色をした三角模様が、積木の山さ。地図を見ても、ここをまっすぐに行くだけだって、わかるだろ」
「ありがとう」と、サトルは言って、トミヨと握手をした。
「あと――」と、トミヨは言った。「この風船、もらっていいかな。コリナが起きたら、きっと喜ぶと思うんだ」
サトルは、「いいよ」と笑顔を見せると、トミヨに手を振って、歩きはじめた。