くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

夢の彼方に(47)

2016-04-06 22:31:48 | 「夢の彼方に」
「そりゃ大変だったな」と、父親は言った。「希望の町って言えば、ねむり王様の城のそばじゃないか。若い頃に一度行ったきりだが、今度はトミヨ達も連れて、一緒に行ってみたいもんだなぁ」
 サトルは、おいしい食事を腹一杯ご馳走になると、その夜はトミヨの部屋に泊めてもらった。
 二人とも、ベッドに潜るなり、すぐにぐっすりと深い眠りについてしまった。
 ………
「サトル、起きて、サトル……」
 うっすらと目を開いたサトルは、体を揺すられながら、寝ぼけ眼のまま言った。
「うるさいなぁ……いま何時」サトルは言うと、ハッとして上体を起こした。
「ごめん、トミヨ」と、サトルは言った。「母さんが起こしに来たと思ったんだ……」
 まだ、外は朝日が昇ったばかりで、薄暗かった。けれどサトルを起こしたトミヨは、もうちゃんと服に着替えていた。
「おはよう、サトル」と、トミヨはあわてたように言った。「早く起きてよ、牛の世話をしていたら、空からこっちに向かって何か飛んできたんだ――」
「えっ」と、サトルは言うと、いそいでベッドから飛び起きた。きちんとたたんで脱いだ服に着替えると、トミヨと一緒に家の外に出た。
「ほら、こっちに向かって飛んでくる――」
 トミヨが指さす方を見ると、大きな赤い風船が、ゆったりと上下しながらこちらに飛んで来るのが見えた。風船は、近づきながら、次第に高度を下げていった。見ると、風船の先には、サトルのランドセルと、トッピーが泳ぐ金魚鉢が結わえられていた。低い所を吹く横風を受け、フラフラとトミヨの家を過ぎていった風船を、二人は懸命に追いかけた。
 トミヨが、地面に落ちそうになった風船を、右手をうんと伸ばして捕まえた。
「ありがとう、トミヨ――」と、サトルは息を切らせながらお礼を言った。
 トミヨは、風船に結わえてあった荷物を降ろすと、サトルに手渡した。
 トッピーが、金魚鉢の縁に飛びあがって言った。
「サトル、大丈夫か? 心配したんだぞ」
「ごめんよ、トッピー」と、サトルは言った。
 トミヨは、言葉を話す金魚を見て、目を丸くしていた。
 トッピーが、風博士からの伝言を伝えてくれた。博士によると、青騎士は、サトルを追いかけて、砂漠の町に向かっているという。一刻も早く町を離れて、積木の山のふもとにある町へ向かえ、とのことだった。
 サトルは、積木の山がどこにあるのか、トミヨに聞いた。トミヨは、
「あそこに行くの?」
 と驚きながらも、詳しい行き方を教えてくれた。
「――ただ気をつけなきゃならないのは、上の物は上向きに、下の物は下向きに、重い物は下、軽い物は上だよ」
「ありがとう、トミヨ」と、サトルは言った。「もう、行かなきゃ――」
「もう、行っちゃうの――」と、トミヨが言った。「朝ぐらい、一緒に食べてから行けばいいのに」
「うん。でも、一刻も早く町を出なきゃ、みんなに迷惑がかかるから……」と、サトルがさびしそうに言った。
「楽しかったよ」と、トミヨは名残惜しそうに言った。「いつでもいいから、また、遊びにおいでよ。待ってる」
 サトルは、「うん」と大きくうなずいた。
「ちょっと待って……」と、トミヨは背を向けて歩きはじめたサトルに言った。「ちょっと待って、サトル」
 トミヨは玄関のドアを開けっ放しで家に戻ると、手に何かを持って戻ってきた。
「これ、持って行きなよ」
 トミヨが差し出したのは、布に包まれたパンと水筒。おそろいのサボテンの帽子と、小さなナイフ、それと、丸められた絵だった。
「これは、ぼく達の地図さ」と、トミヨは言った。「ぼく達がいる町は、この辺だよ。昨日行った人形サボテンの森がこの丸印で、緑色をした三角模様が、積木の山さ。地図を見ても、ここをまっすぐに行くだけだって、わかるだろ」
「ありがとう」と、サトルは言って、トミヨと握手をした。
「あと――」と、トミヨは言った。「この風船、もらっていいかな。コリナが起きたら、きっと喜ぶと思うんだ」
 サトルは、「いいよ」と笑顔を見せると、トミヨに手を振って、歩きはじめた。
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夢の彼方に(46)

2016-04-06 22:30:54 | 「夢の彼方に」
「ぼくって、そんなに変かな……」と、サトルはトミヨに聞いた。
「いいや、そんなことないよ」
 と、二人は笑った。
 夜は扉が閉まるという門をくぐると、コリナが人形サボテンを模した像の陰に隠れていた。
「コリナ! 一緒に帰ろう」と、トミヨが言うと、ひょっこりと像の陰から姿を出したコリナが、ぐるりと大回りをしながら駆け寄ってきた。
 砂漠の町に入ると、それまで鳴らなかったラジオが、雑音混じりながら、また聞こえ始めた。
「それ、なに――」と、トミヨは興味ありげにラジオを覗きこんだ。トミヨは、ラジオを見るのが初めてだった。
 サトルは、ラジオのことをうまく説明することができなかった。しかしトミヨは、不思議な機械のことを熱心に話すサトルを見て、サトルが本当に別の世界からやって来たのかもしれない、と今度は真剣に話を聞いてくれた。
 と、雑音混じりだった曲が途切れ、サトルの名前が呼ばれた。
「元気か、サトル――。
 風博士から、新しいメッセージが届いたぜ。
『君がいる場所は、届いた風の便りを読んで確認した。さっそく、風船郵便で君あてに荷物を届けることにする。君が持ってきたバッグと、本、それにトッピー君もだ。私も飛んでいきたいところだが、ねむり王様の捜索に力を貸してくれるよう、お城から緊急の便りが届いた。迎えに行く事はできなくなってしまったが、荷物はエクスプレス風に乗って、明日にも君の手元に届くはずだ。詳しいことは、トッピー君に伝えておいた。気をつけて、無事を祈っている』
 さあ、風博士からのメッセージだ。しっかり受け止めてくれよ――」
 メッセージが読まれると、早いリズムの曲が流れたが、すぐに音が小さくなって、雑音にかき消されてしまった。聞こえはじめた放送が、またうそのように聞こえなくなった。
 サトルは風博士が送ったという荷物が届くまで、トミヨにお願いして、砂漠の町にいることにした。
 トミヨの家は、にぎやかな町の中心部から離れ、砂漠と同じ、何もない平地を進んだ所にあった。レンガを積んだ平屋の家で、小さな窓から暖かな明かりが漏れていた。屋根から空に延びる煙突からは、ゆるゆると細い煙が上がっていた。もしも石積みの壁が遠くに見えなければ、ここが町の中だとは思えないほど広々としていた。家の隣には、延々と続く木の柵で囲いが作られていた。
 たくさんの牛達をすべて囲いの中に入れると、三人は家の中に入った。家の中では、トミヨの母親が、アツアツのご馳走を作って待っていた。
「ただいま」と、コリナが母親に抱きついた。
「お帰りなさい――」と、母親は笑顔で言った。「あら、お友達」
 トミヨは、人形サボテンの森でサトルに出会ったことを話した。母親は、食事の支度をしながら、トミヨの話に熱心に耳を傾けていた。すぐにトミヨの父親も仕事から戻り、サトルが挨拶をすると、トミヨが母親に聞かせたのと同じように父親にもサトルのことを話した。
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夢の彼方に(45)

2016-04-06 22:29:59 | 「夢の彼方に」
「ごめんね」と、サトルは言いながら、申し訳なさそうに頭をかいた。「ここって、どこなの……」
 サトルは、砂漠で迷子になってしまったことを、戸惑っているトミヨに短く説明した。
「危なかったね」と、トミヨは言った。「この辺は食べ物が少ないから、弱々しい生き物でも、食べられそうな物を見ると、とたんに目の色を変えて襲ってくるんだ。人形サボテンの森に逃げこまなかったら、本当に食べられていたかもしれないよ」
 サトルは聞くと、ぞくっと肩をすくめた。
「”人形サボテン”って、ここのサボテンの名前?」
「ああ」と、トミヨはうなずいた。「よその町から来たんなら、知らないかもしれないね。このサボテンは、形も人間そっくりだけど、とっても頭がいいんだ。きっと、サトルがやってきた時、放牧にやってきた人間だと思ったんだね。それで守ってくれたのさ。もしも危害を加えるような動物が近づいてきたら、サボテンはトゲで撃退しちゃうんだもの」
「けど、牛に食べられても、サボテンはトゲを刺さなかったね」と、サトルは聞いた。
 トミヨは、急にきょとんとした表情を浮かべたが、すぐに思いついたように言った。
「ああ、牛は、人形サボテンをエサにしてるからね。その代わりに牛は、サボテンに必要な物を残していくんだ」
「必要な物って?」と、サトルは不思議に思って聞いた。
「サボテンを食べるかわりに、牛はたくさんのフンを落としていくんだ」と、トミヨは言うと、そばにいた牛を指さした。
「砂漠は土が少ないから、サボテンは食べられるかわりに、牛から養分をもらっているんだよ」
 サトルは、トミヨの水筒から水を分けてもらってノドを潤すと、自分がドリーブランドにいる訳や、青騎士に追いかけられていることを詳しく話した。しかしトミヨは、真剣な話を聞いても、面白がってクスクス笑うばかりで、サトルの話をまるで信じていないようだった。
「迷子になったんなら、しょうがないさ」と、すっかり仲良くなったトミヨは、笑いながら言った。「迎えに来てくれるまで、家においでよ。この辺で町はひとつしかないから、サトルを捜している人だって、きっと町を訪ねてくるはずだよ」
 トミヨの後について、カレー粉の砂漠を進むと、ぐるりを石積みの壁で囲まれた町が、広い砂漠の平地に現れた。すでに日は暮れはじめ、日中の暑さがウソのように気温が下がっていた。
「ほら、見えた」と、トミヨは手に持っていた杖で町を指した。「あれが、ぼくの町さ」
 牛を追いながら町に近づくと、トミヨと同じサボテンの帽子を被った女の子が、門の扉を抜けてこちらに駆けてきた。
「お兄ちゃん、おかえりなさい!」と、女の子は言うと、見知らぬサトルに目を止め、不安そうな表情を浮かべて、ピタリと立ち止まった。
「ただいま、コリナ」と、トミヨは言った。
 女の子は指をくわえながら、こくんとうなずいた。しかし、それ以上トミヨに近づこうとはせず、くるりと踵をかえすと、走って町に戻って行ってしまった。
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夢の彼方に(44)

2016-04-06 22:28:57 | 「夢の彼方に」
 空から様子を見守っていたワシの群れは、サトルがサボテンの森に向かった時から、襲ってくる様子もなく、トカゲの群れが帰って行くのを確認すると、空の向こうへ飛び去って行った。
 岩山の影から逃げ出して、どのくらいたったのか。雲ひとつない空から降り注いでいる暑い日差しが、少し傾き始めていた。
 サトルは、地面から顔を出した平らな岩の上に腰を下ろした。風の流れが悪いのか、ラジオからは雑音ばかりが聞こえてきた。強い日差しは弱まったものの、葉の茂らないサボテンの森は、人の姿に似た細い影が、幾筋も地面に延びるばかりで、体を休められるほどの広い木陰は、どこにもなかった。サトルはやむを得ず、日が落ちて涼しくなるまで、サボテンの細い影の下で窮屈なのを我慢しながら、体を小さくして隠れていることにした。
 そこへ、ドドド……と、地響きのような音が聞こえてきた。テロリンテロリン、という鈴の音が、時おり地響きの音に重なって聞こえてきた。また、新しい追っ手なのだろうか――。サトルは立ち上がると、サボテンの陰に身を潜めながら、恐る恐る様子をうかがった。
 近づいてきたのは、たくさんの黒い牛の群れだった。大きな牛の頭には、螺旋を描く二本の鋭い角が、左右から天を突くように生えていた。ガッチリと太い体躯は、ぼろぼろになった黒い毛布を、何枚も肩から羽織ったような毛に覆われていた。ちょろちょろと、群れの外を無邪気に駆け回っている子牛の首からは、テロリンテロリンと音を立てる、口の広い鈴がぶら下がっていた。
 襲われる心配はないのか、サトルは不安だった。しかしサボテンは、こちらに牛が近づいてきても、トカゲを撃退した鋭いトゲを吹き出さなかった。それどころか、牛がそばに寄ってくると、森の中へ招待するように体を曲げ、通りやすいように道を開けた。鋭い角で体を引っ掻かれても、そのままじっとしていた。剥き出しになった赤い幹を、ムシャムシャと囓られても、決して抵抗しようとしなかった。
(どうして――?)と、サトルは首をかしげた。
「きみ、誰?」と、後ろから不意に声をかけられて、サトルは驚いて振り返った。
 サボテンのような、とげとげのある帽子を被った同い年ぐらいの少年が、後ろに立っていた。長い木の杖を持った少年は、不思議そうな顔でサトルを見ていた。
「ぼくは――」と、サトルは小さな声で言った。「サトル」
「ふーん」と、帽子を被った少年は、小さくうなずきながら言った。「ぼくは、トミヨ。君の牛はどこにいるの……」
「えっ」と、サトルは聞き返した。「牛って……」
「――そう言えば、見ない格好だよね」と、少年はサトルを見ながら言った。「放牧に来たんじゃないの?」
 サトルはこくりとうなずくと、言った。
「これは、みんな君の牛なの」
「ううん、ぼくの牛は一頭だけ。ほかは、全部ぼくのお父さんの牛さ。放牧してたっぷりエサを食べさせるのが、ぼくの仕事なんだ」と、少年は牛を指さしながら言った。「サトルは、どこから来たの?」
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夢の彼方に(43)

2016-04-06 22:28:01 | 「夢の彼方に」
 サトルは、障害物の少ない走りやすそうな方角へ、クルリと素早く回れ右をすると、脱兎のごとく走り始めた。それが合図になったのか、トカゲの大群が砂の中から一斉に姿を現し、大波がうねり上がるように踊り出した。
 ザザッ、ザザザッ―― と、トカゲはカレー粉の砂を煙のように舞い上げ、目を見張るほどの早さで追いかけてきた。サトルは岩を飛び越え、灌木を縫うように走って、無我夢中で逃げていった。
 トカゲだけではなかった。灌木と灌木の間の距離が開いて、ぽっかりと広い空間ができると、大きな黒い影が、その隙を待っていたかのように空から迫ってきた。鋭い両足の爪を立て、バサリッと翼を翻しながら、ワシが襲いかかってきた。
「アッ……」と、サトルは頭を押さえた。とっさに背を屈めたたものの、髪の毛をひとつかみ、むしり取られてしまった。
 痛さで涙をにじませながら、サトルは息せき切って走り続けた。
 だんだんと、トカゲとの距離が縮まってきた。
(あんなに手足が短いのに、どうしてこんなに速く走れるんだろう……)
 頭上からワシに襲われないため、なるべく灌木のそばに近づきながら走っているせいもあった。追いかけてくるトカゲは、いくらか数を減らしたものの、あきらめずに追いかけてくるトカゲは、鋭い歯をむき出して、サトルとの距離を少しずつ縮めてきた。
 サトルの目に、こちらを向いて大きく手を挙げている人の姿が見えた。
(助かった――)と、サトルの足にどこからか新しい力がみなぎってきた。
 見知らぬ人が、こっちに来いと言っているように思い、サトルは一目散に砂の坂を駆け上がった。
 坂を登り切ると、そこに人の姿はなかった。かわって人の姿にそっくりなサボテンが、丘の上に広く群生していた。まるで、サボテンの森のようだった。
 ガックリと、肩を落としている暇はなかった。腹を空かせて、我を忘れているトカゲを振り切るには、サボテンのチクチクするトゲの中へ、意を決して進むしかなかった。トゲが突き刺さって、怪我をするかもしれなかったが、しつこく追いかけてくるトカゲを少しでもひるませて、まんまと逃げおおせるには、それしか方法がなかった。
 サトルは、あとわずかな距離でトカゲに追いつかれそうになりながら、足を止めることなく、覚悟を決めて、一気にサボテンの林の中へ駆けこんだ。
 ギャッとトカゲが悲鳴を上げた。
 ギャッ、ギャッと続けて、トカゲの悲鳴が後ろから聞こえてきた。
 サトルは両腕で頭をかばいながら、痛みをこらえて、サボテンの中をまっしぐらに突き進んだ。トカゲは、しかしなぜかサトルの後を追いかけてこなかった。
 ギャッ、と途切れる事のない悲鳴を不審に思い、サトルはチクチクと痛いトゲをよけながら、立ち止まった。恐る恐る後ろを振り返ると、森の中に入ろうとするトカゲが、次々と白い腹を見せて、もんどり打って倒れているのが目に入った。
 トカゲがサボテンの森に近づくと、ゆるゆると身を振るわせたサボテンが、ヒュンと吹き矢のように何かを飛ばした。串のように長く鋭いトゲが、硬いウロコに覆われたトカゲの背に突き刺さった。トカゲは、弾かれたようにポンと飛びあがると、白い腹を見せて砂の上に倒れ、クネクネと長い体をよじらせた。苦しそうに身もだえしながら、砂に背中をこすりつけてトゲを抜き取ると、トカゲは二度とサボテンに近づくことなく、あきらめてサボテンが群生する丘から遠ざかっていった。
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夢の彼方に(42)

2016-04-06 22:26:59 | 「夢の彼方に」
 口に残った赤い実を、ペッと地面に吐き出すと、上着の袖で口をぬぐった。と、袖口に付いていたカレー粉が、口をぬぐった拍子に唇の端にこびりつき、とっても甘辛いカレーの味が、口の中に溶けて広がった。
「おいしい……」と、サトルは驚いて言った。
 赤い実は、それだけではまったく味がしなかった。しかし、カレー粉をわずかでもまぶすと、とたんにおいしい果物に変わった。サトルは、赤い実が成っている場所を探した。トカゲの足跡をたどると、岩山の壁が少し崩れた場所で、いくつも実をつけている草の群れを見つけた。地面からそれほど高くない場所の実は、既に食べられてしまっていたが、サトルがちょっと背伸びをすれば手の届く場所は、まだほとんど手つかずで、たくさんの実がなっていた。
 サトルは、鷲づかみをするように実を採ると、足下のカレー粉をほんのひと摘み振りかけて、モグモグと口に頬張った。おいしかった。
 夢中になって赤い実を食べていると、ポツリ、と額に雨粒が落ちてきた。
「あっ」と、サトルは額をぬぐいながら空を見上げた。厚い雲が、いつの間にか空一面に垂れこめ、ポツリポツリと雨を落とし始めた。
 サトルは、急いで岩山から離れた。カミナリは落ちてこなかったが、雨宿りができる場所は、どこにもなかった。仕方なく、低い茂みの下に潜りこむと、地面より少し高くなっている場所に両膝を抱えて座った。雨は、夕立のように勢いを増し、砂漠があっと言う間に水びたしになった。しかし、雨が降ったのもそれまでで、カラリとすぐに止んでしまった。
「よかった……」と、サトルはホッと胸をなで下ろした。しかし、頭から足の先まで、雨でびしょ濡れになってしまった。しかも、水に溶けたカレー粉が服に跳ね上がり、まるでフライドチキンのような有様になっていた。
 にわかに降った激しい雨で、一度はできた水たまりも、再び暑い日差しが戻ると、ウソのようにかき消えて、もとの乾ききった砂漠に戻ってしまった。サトルは、カレー粉まみれになった服を払いながら、茂みの外に這い出して立ち上がった。靴の中にも背中にも、雨で濡れそぼったうえにカレー粉が入りこんで、モゾモゾと気持ちが悪かった。
 と、さっきまで逃げ回っていたトカゲが、ひょっこりと地面から顔を出した。一匹だけではなかった。砂からのぞく目の数が、見ている間にも次々と増えていき、こちらに向かってゆっくりと近づいてくるようだった。
 ルーッ――と、どこから現れたのか、見上げるとワシのような大型の鳥の群れが、空にいくつも輪を描きながら飛んでいた。
(もしかして……)と、サトルは後ずさりを始めた。
 サトルが後ろに下がると、同じ距離だけトカゲがズルリと前に出てきた。レロレロと出入りする舌が、背筋をぞっと強ばらせた。
 自分の姿を見て、カレー粉をまぶしたフライドチキンのようだと思ったのは、サトル自身だけではなかった。さっきまで、弱々しい生き物だと思っていたトカゲが、今では人を襲う餓えた天敵に変わっていた。
 後ろに下がりながら、サトルはちらりちらりと振り返り、逃げる場所を横目で探った。
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夢の彼方に(41)

2016-04-06 22:25:57 | 「夢の彼方に」
 砂の上にクッキーのかけらを撒き散らしたような地面は、足を踏み出すたびにバランスを崩し、ズルリと滑った。別の一歩を踏み出すと、蹴り足が空回りして、体がまた反対側によろめき、なかなか思うように前へ進むことができなかった。
 足下をふらつかせながら、やっとの思いで岩山にたどり着くと、サトルは大きく地面に伸びた日陰に入って、どっかりと腰を下ろした。額からも首筋からも、玉のような汗がびっしりと流れ落ちていた。服も、大きな染みになって見えるほど、大量の汗をかいていた。
 日陰の中に入ると、ひんやりとうそのように涼しかった。サトルは、手足を投げ出して大の字になった。雲ひとつない空を見上げると、太陽はとうとう一番高い所に昇りきっていた。モヤモヤとくゆる陽炎が、殺風景な砂漠の中にゆらゆらと、柔らかな仕切ガラスをはめこんだように見えていた。生暖かな風が、サトルの頬をそっとなでて行った。
 ググウ……と、腹が鳴った。
 サトルは、手で腹をさすりながら顔を上げた。すると、砂を小さく舞い上げて、チョロチョロっとすばしこく走る生き物の姿が目に入った。
 驚いたサトルは、後ろに両手をついて、あわてて上体を起こした。砂に潜った輪郭の、こんもりとした盛り上がりを見ると、トカゲのような生き物に間違いなかった。頭まで砂を被って、どうやら隠れているつもりらしかった。砂の中からギョロリと両の目だけを突きだして、興味ありげにこちらの様子をうかがっていた。それほど大きくはなかったが、しっぽの先まで入れると、小型犬ぐらいの大きさは十分ありそうだった。
 サトルが近づこうとすると、臆病なトカゲは、サッと素早くカレー粉の砂の中に身を隠した。
 周りの砂をよく見ると、トカゲの足跡がくっきりと残っていた。サトルが日陰に来るまで、トカゲも日陰で休んでいたようだった。
 足跡は、岩山の裏側に続いていた。(何かあるのかな?)と、サトルは岩山の後ろにそっと回ってみた。岩肌の色が、黒く変わっている場所があった。緑色のコケのような草が、張りつくようにびっしりと生えていた。手で触ると、冷たい水が指先を伝って流れてきた。サトルは舌なめずりをしながら、岩肌から流れ落ちてくる水を手の平に貯めると、ゴクリと喉を鳴らして飲み干した。
「おいしい!」と、サトルは声を上げた。
 サトルは、もう一度水を飲もうと、岩肌に手の平を当てた。すると、小さな赤い実が、足下にバラバラと落ちているのに気がついた。見たことのない、なにかの木の実のようだった。もしかすると、トカゲが食べていたんじゃないだろうか……。サトルは、手の平に貯まった水を一口で飲むと、その場にしゃがんで、赤い実をひと粒手に取った。
(トカゲが食べていたんなら、人が食べたって大丈夫さ  )そうは思っても、なかなか口には運べなかった。しかし迷っている間にも、空っぽの胃袋がシクシクと痛み始めた。毒でない限り、何でもいいから食べてしまいたかった。サトルは思い切って、赤い実をパクリと口の中に放りこむと、目をつぶってガリッと噛みしめた。
「ウエッ――」と、サトルは口に入れた実を吐き出した。味も香りもない、チューインガムのようだった。
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夢の彼方に(40)

2016-04-06 22:24:52 | 「夢の彼方に」
「イヤォ!」と、ラジオの声が叫んだ。スピーカーに耳を近づけていたサトルは、あわててラジオを耳から離した。
「それじゃ次も新曲だ、メッセージもじゃんじゃん待ってるぜ――」
 ドラムの音がズズン、と腹の底に響くほど激しく演奏される曲だった。サトルは、そばに生えている灌木の下にあぐらを組んで座ると、目の前にラジオを置いて、膝に両肘をついた。
 聴いたことのない曲が、何曲も流れてきた。
「はぁー……」と、思わずため息がもれた。
 頼みのラジオだったが、いくら待っても音楽が繰り返し流れるばかりで、役に立ちそうな情報やニュースは、ひとつも放送されなかった。ここはどこなのか、ラジオがあてにできないとすれば、やはり砂漠の中を歩いて調べるしか方法はなかった。だが、一体どこに向かって行けばいいのか、わずかばかりのヒントも手にできないサトルは、困り果ててしまった。何もせずにこのまま黙っていたところで、空腹になれば、自然に腹が鳴りだすのは明らかだった。少なくとも、夜になるまでに食べ物と、休む場所を探さなければならなかった。思わず、風博士の奥さんが作ったおいしい手料理が、脳裏をよぎった。
「ヨウ、聞いてるか、サトル――」
 と、自分の名前が不意に呼ばれて、サトルはうつむいていた顔を上げた。
「――君へのメッセージだ。
『どこにいるかわからないが、これを聞いていたら、あきらめないでがんばってほしい。君はまだ、死の砂漠に落ちちゃいない。君の後を追いかけている青騎士の反応が、また見つかった。君の居場所は、いま風の便りを読んで全力で捜している』
 いいかサトル、聞いてるなら、簡単にあきらめちゃいけないぜ……。
 さあ、風博士からのメッセージだ。確かに届けたぜ――」
 ズドドン――と、ドラムの音が空気を振るわせ、中断されていた演奏が、再び始まった。
 風博士からのメッセージを、サトルは確かに受け取った。青騎士にまたいつ襲われるかわからなかったが、死の砂漠に落ちていないと言うことがわかっただけでも、元の世界に戻る希望が甦ってきた。
 サトルはまた、立ち上がった。遮る物のない暑い日差しが、見えない針のように降り注いできた。一番近くに見える山の方へ、とにかく進むことにした。
 一歩一歩、暑さに耐えながら進んでいくと、空腹で腹が鳴り始めた。どのくらい時間がたったのか、立ち止まって顔を上げると、燦々と輝く太陽が、空の一番高い所に近づいていた。
(こんなに日差しがきつい中、無理して歩いたら、山にたどり着く前にのびちゃうよ)
 と、壁のように聳える岩山のひとつが、サトルからそれほど遠くない所に見えた。
(あそこの日陰なら、少し横になって休めるかもしれない。水も食べ物もないし、もう少し涼しくなるまで、動かないようにしよう……)
 サトルは、なるべく体力を使わないように注意しながら、灌木の影をたどるようにして、近くに聳えている切り立った岩山に向かった。太陽はまだ完全に昇りきっていないものの、地面から伝わってくる熱気とあわせて、サトルを上と下から、こんがりと照り焼きにでもしようとしているかのようだった。
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夢の彼方に(39)

2016-04-06 22:23:09 | 「夢の彼方に」
         7
「ヒャッハー! 今日も元気に行ってみようか。
 銀河放送局がドリーブランドの君達に送る熱いメッセージ。
 キャッチしてくれぇ――」
(……うるさいな――)と、サトルは顔をしかめながら、ハッと目を覚ました。
 気がつくと、真っ青な空を見上げて、仰向けに倒れていた。耳元で聞こえる大きな声は、左手でしっかりとつかんでいるラジオから聞こえてきた。
 背中が、ごつごつとした硬い物に当たって、痛かった。
「いたたた……」と、サトルは右手で体を支えながら、ゆっくりと上体を起こした。
(ちゃんと、元の世界に戻ったはずなのに―― )そう思ったとたん、急に涙がこみ上げてきた。
 目をぬぐいながら立ち上がると、辺りを見回した。サトルがいる場所は、石と砂に覆われた砂漠のようだった。粗く角張った岩石が、砂の上にゴロゴロと転がっていた。奇妙な形に風化した岩山が、あちらこちらに点々と聳え立ち、大きな長い影を落としていた。自分の背丈ほどしかない灌木が、濃い緑の葉を茂らせて、細い枝をからみつかせるように伸ばしながら、遙か遠くに連なって見える山々まで、延々と根を下ろしていた。
 木枯らしが、砂煙を巻き上げながら、サトルの横を吹きすぎていった。風博士がいた緑豊かな草原とは、まるで正反対の世界だった。青々と、命に充ち溢れた風が吹くことはなく、焼け焦げた石の無機質な臭いだけが、乾燥した空気に混じって漂っていた。人が住んでいるような気配は、どこにもなかった。
(もしかすると、ここが風博士の言っていた、”死の砂漠”……)
 サトルは、体中の砂をはたき落とした。気を失って地面に倒れていたせいで、髪の毛から靴の先まで、全身砂まみれで黄色くなっていた。と、風に舞い上がった砂埃を吸いこんで、思わず「ウッ」とむせ返ってしまった。とても辛いカレーの味がした。恐る恐る、手に残った砂に鼻を近づけた。間違いなく、カレーの臭いだった。地面を覆う黄色い砂は、すべてカレー粉だった。サトルが立っているのは、カレー粉に覆い尽くされた砂漠のただ中だった。
 手に残った砂を払い落とすと、サトルは顔を上げた。頬には、涙の後がうっすらと残っていた。ここは果たして、どこなのだろうか……。もしも本当に死の砂漠なら、もう二度と元の世界には戻れないかもしれなかった。しかし、ラジオから聞こえてきたとおり、ここがまだドリーブランドなら、一刻も早くねむり王の所に行かなければならなかった。どちらが正解なのか、答えは、自分で見つけるしかなかった。
 風博士のラジオから、小気味のいいポップスのリズムが、休むことなく聞こえてきた。サトルはラジオを持ち上げると、ギザギザのついたつまみを回して、チャンネルを変えていった。放送がしっかりと聞こえるチャンネルは、たったひとつだけだった。電波の状態が悪いのか、サトルはいろいろと、場所を変えてみた。ラジオに吹く風が弱まると、音量が低くなり、耳障りな雑音が混じってきた。風に背を向けて、ラジオに風が当たらないようにすると、とたんに放送が聞こえなくなってしまった。ラジオの裏側を見ると、取り外しのできるカバーがついていた。電池を入れるボックスかと思い、開けてみると、中には小さな風車がひとつ、静かに回り続けていた。息を吹きかけると、勢いよく回り始める風車が、電池の替わりにラジオを動かしているようだった。サトルには、どんな仕組みになっているのか、さっぱりわからなかった。だが少なくとも、風車の働きによって動くラジオは、電池の消耗を気にすることなく、いつまでも放送を聞く事ができるはずだった。
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よもよも

2016-04-06 06:24:49 | Weblog
なんとも、

カロリーが高いってのはわかってんだけど、

風呂上がりのソフトクリームがたまらん・・・。

最近は

某セイコマのミルクソフトいちご味。。

イチゴのつぶつぶが入ってんのがさ、

なんか本物のイチゴにかじりついてるみたいで

うまいのよ。。

だけどさ、

ストックしとくのはいいんだけど

冬はよかったんだけど

コンビニまでの中途半端な距離が

クリーム溶かしちまう。。

アイスクーラー買うべか??
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