学校に向かう子供達の列が、サトルを追い越してどんどん先に進んでいった。立ち止まったままでいると、先ほど通り過ぎていったはずの行列が、すぐにまたサトルの横を通り過ぎていった。怪しげにサトルを見る顔も、先頭で黄色の旗を持つ上級生も、みんな同じ顔ぶれだった。
気になって振り返ると、サトルの母親が玄関の前に立って、こちらに手を振っていた。はじめて一人で学校に行った日の思い出を、ドキュメンタリー番組の映像で見せられているようだった。
道路の向こうから、また同じ顔ぶれの子供達がやってきた。サトルが目の当たりにしている現実は、決められた一定の条件を満たすまで、いつまでも同じ動きを繰り返しているようだった。
どうなっているのか訳もわからず、とりあえず学校に行ってみるしかないと、サトルが再び歩きはじめた時だった。
(あれっ)と、サトルはまた立ち止まった。
「風が、吹いてない――」
それだけではなかった。先ほどまで、ガヤガヤと騒々しかった音が、今はまったく聞こえなくなっていた。周りの動きは止まっていないものの、しんと静まり返っていて、こうこうとまぶしい朝の光が溢れているにもかかわらず、あたかも深夜のような静けさが、辺りに充ち満ちていた。何事もなかったように歩いてくる子供達も、靴音をひとつも立てていなかった。空気を踏むかのように地面を蹴って、サトルの前を通り過ぎていった。笑顔を浮かべている子も、まるで声を失ったかのように口だけをパクパクと動かしていた。
胸騒ぎを覚え、ランドセルのベルトを両手でしっかりとつかんだサトルは、学校に向かって、急いで駆け出した。
ヒヒーン――
と、どこからか鋭い馬のいななきが聞こえた。
サトルは、大きく足を踏み出しながら、音が聞こえてきた場所を目で探した。
ハラリ、と道の上の空がめくれあがった。風にあおられて、糊の緩んだポスターが、力なく剥がれたかのようだった。
ヒヒーン――と、また馬のいななきが聞こえた。
空がバリバリッと、紙のように裂けて内側に破れ、馬にまたがった青騎士が、大きな槍を手に飛び降りてきた。
ズドン、と馬がアスファルトの道路に蹄をめりこませて着地すると、青騎士は立ちすくんでいるサトルに鋭い槍の穂先を向けた。
青騎士は、馬の手綱を巧みに操り、後ずさりするサトルめがけて、馬の歩をゆっくりと、狙いを定めるように進め始めた。
すると、
バツン――
町が突然、停電になったような暗闇に包まれた。なにも見えない、なにも聞こえない、まさに暗黒のような闇だった。
気になって振り返ると、サトルの母親が玄関の前に立って、こちらに手を振っていた。はじめて一人で学校に行った日の思い出を、ドキュメンタリー番組の映像で見せられているようだった。
道路の向こうから、また同じ顔ぶれの子供達がやってきた。サトルが目の当たりにしている現実は、決められた一定の条件を満たすまで、いつまでも同じ動きを繰り返しているようだった。
どうなっているのか訳もわからず、とりあえず学校に行ってみるしかないと、サトルが再び歩きはじめた時だった。
(あれっ)と、サトルはまた立ち止まった。
「風が、吹いてない――」
それだけではなかった。先ほどまで、ガヤガヤと騒々しかった音が、今はまったく聞こえなくなっていた。周りの動きは止まっていないものの、しんと静まり返っていて、こうこうとまぶしい朝の光が溢れているにもかかわらず、あたかも深夜のような静けさが、辺りに充ち満ちていた。何事もなかったように歩いてくる子供達も、靴音をひとつも立てていなかった。空気を踏むかのように地面を蹴って、サトルの前を通り過ぎていった。笑顔を浮かべている子も、まるで声を失ったかのように口だけをパクパクと動かしていた。
胸騒ぎを覚え、ランドセルのベルトを両手でしっかりとつかんだサトルは、学校に向かって、急いで駆け出した。
ヒヒーン――
と、どこからか鋭い馬のいななきが聞こえた。
サトルは、大きく足を踏み出しながら、音が聞こえてきた場所を目で探した。
ハラリ、と道の上の空がめくれあがった。風にあおられて、糊の緩んだポスターが、力なく剥がれたかのようだった。
ヒヒーン――と、また馬のいななきが聞こえた。
空がバリバリッと、紙のように裂けて内側に破れ、馬にまたがった青騎士が、大きな槍を手に飛び降りてきた。
ズドン、と馬がアスファルトの道路に蹄をめりこませて着地すると、青騎士は立ちすくんでいるサトルに鋭い槍の穂先を向けた。
青騎士は、馬の手綱を巧みに操り、後ずさりするサトルめがけて、馬の歩をゆっくりと、狙いを定めるように進め始めた。
すると、
バツン――
町が突然、停電になったような暗闇に包まれた。なにも見えない、なにも聞こえない、まさに暗黒のような闇だった。