くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

夢の彼方に(38)

2016-04-05 22:41:19 | 「夢の彼方に」
 学校に向かう子供達の列が、サトルを追い越してどんどん先に進んでいった。立ち止まったままでいると、先ほど通り過ぎていったはずの行列が、すぐにまたサトルの横を通り過ぎていった。怪しげにサトルを見る顔も、先頭で黄色の旗を持つ上級生も、みんな同じ顔ぶれだった。
 気になって振り返ると、サトルの母親が玄関の前に立って、こちらに手を振っていた。はじめて一人で学校に行った日の思い出を、ドキュメンタリー番組の映像で見せられているようだった。
 道路の向こうから、また同じ顔ぶれの子供達がやってきた。サトルが目の当たりにしている現実は、決められた一定の条件を満たすまで、いつまでも同じ動きを繰り返しているようだった。
 どうなっているのか訳もわからず、とりあえず学校に行ってみるしかないと、サトルが再び歩きはじめた時だった。
(あれっ)と、サトルはまた立ち止まった。
「風が、吹いてない――」
 それだけではなかった。先ほどまで、ガヤガヤと騒々しかった音が、今はまったく聞こえなくなっていた。周りの動きは止まっていないものの、しんと静まり返っていて、こうこうとまぶしい朝の光が溢れているにもかかわらず、あたかも深夜のような静けさが、辺りに充ち満ちていた。何事もなかったように歩いてくる子供達も、靴音をひとつも立てていなかった。空気を踏むかのように地面を蹴って、サトルの前を通り過ぎていった。笑顔を浮かべている子も、まるで声を失ったかのように口だけをパクパクと動かしていた。
 胸騒ぎを覚え、ランドセルのベルトを両手でしっかりとつかんだサトルは、学校に向かって、急いで駆け出した。
 ヒヒーン――
 と、どこからか鋭い馬のいななきが聞こえた。
 サトルは、大きく足を踏み出しながら、音が聞こえてきた場所を目で探した。
 ハラリ、と道の上の空がめくれあがった。風にあおられて、糊の緩んだポスターが、力なく剥がれたかのようだった。
 ヒヒーン――と、また馬のいななきが聞こえた。
 空がバリバリッと、紙のように裂けて内側に破れ、馬にまたがった青騎士が、大きな槍を手に飛び降りてきた。
 ズドン、と馬がアスファルトの道路に蹄をめりこませて着地すると、青騎士は立ちすくんでいるサトルに鋭い槍の穂先を向けた。
 青騎士は、馬の手綱を巧みに操り、後ずさりするサトルめがけて、馬の歩をゆっくりと、狙いを定めるように進め始めた。
 すると、
 バツン――
 町が突然、停電になったような暗闇に包まれた。なにも見えない、なにも聞こえない、まさに暗黒のような闇だった。
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夢の彼方に(37)

2016-04-05 22:40:24 | 「夢の彼方に」
「サトルの好きなものばかりでしょ、残さないで、どんどん食べなさいね――」と言いながら、母親は次々と、食べきれないほどの料理をテーブルの上に並べていった。
 手のかかった料理は、どうしても時間がかかるからと、誕生日や仕事が休みの日以外は、お願いしてもなかなか作ってもらえなかった。ところが今日は、どういう風の吹き回しか、母親が作ってくれた料理は、どれもサトルの大好物ばかりだった。
 胸によぎった不信感はそっちのけで、サトルは元気よく「いただきます!」と言うと、ムシャムシャと、夢中になって料理を頬張っていった。
 何度ご飯をお代わりしても、「いそがしいんだから、自分でよそって食べなさい――」と、いつものように叱られることははなかった。
「父さんは?」と、サトルは料理を口いっぱいに頬張りながら聞いた。
「もう出かけたわよ――」と、母親は後片づけをしながら、明るい声で言った。
 なんだ、これじゃ本当の世界と同じじゃないか――。
(えっ?)と、サトルは自分の言葉に驚いた。
 目の前に広がっている現実を、決して疑っているわけではなかった。ただ、夢の続きを見ているように感じているのも、また、事実だった。
(これは夢なんかじゃないのに、おかしいな……)と、サトルは頭を振り振り、自分の考えを打ち消した。(もう目が覚めてるはずなんだ。はっきりしすぎる夢だったけど、もっとしっかりしなきゃ、学校で先生に怒られちゃうよ)
 料理を口に運ぶのに夢中で、サトルはほとんど気づいていなかったが、つけっぱなしの見慣れたテレビ番組が、同じニュースばかりを、何度も繰り返し放送していた。サトルの母親は、同じ映像が画面に映るたび、初めて見るかのように驚きの声を上げていた。
 見覚えのあるラジオが、ふと、サトルの目に止まった。ラジオは、テーブルに近い戸棚の上に置かれていた。
「お母さん、あれ……」いつ買ったの? と聞こうとしたが、サトルの母親はテレビのニュースに夢中で、まるで話を聞いていなかった。
(あれって、夢の中で見た風博士のラジオにそっくりじゃないか? でも、どうしてこんな所にあるんだろう。ぼくの知らないうちに父さんが買ってきたのかな……)
 耳を澄ましていると、夢の中で聞いた心地よい歌声が、ラジオからかすかに聞こえてくるような気がした。
 ほとんどの料理を食べきれないまま、ベルトを緩ませたくなるほど満腹になって朝食を終えると、サトルはゲップをしながら部屋に戻って、ランドセルに教科書を詰めこんだ。ドアを乱暴に後ろ手で閉めながら、すぐにまた部屋を出ると、階段を駆け下りて、玄関に並べてあった靴を履いた。つま先をトントンと突きながら、
「行ってきまーす!」
 と、大きな声で言うと、片足跳びをするように玄関を出た。
 サトルは家の外に出ると、しかしいくらも行かないうちに立ち止まった。はっきりとは言い切れなかったが、どこか違和感を感じた。このまま小走りに歩いていけば、毎朝一緒になる同じクラスの友達と会えるはずだった。目に映る物は、すべて見慣れた光景だった。変わっている所は、どこにもなかった。けれどそのどれもが、本物そっくりの絵にすり替えられているような気がした。もしもそのとおりなら、繋ぎ目をうまく誤魔化して、うそが見破られないようにしているが、絵に描かれた町は、空も建物も道路も、空気までもが、奥行きのない薄っぺらな、急ごしらえのまがい物でしかないはずだった。
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夢の彼方に(36)

2016-04-05 22:39:24 | 「夢の彼方に」
         6
 サトルが目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。
 淡いカーテンを透して、晴れ渡った空にたっぷりと溢れるまぶしい光が、部屋をうっすらと彩り、夜の間だけ真っ暗闇に失っていた色を清々しく甦らせていた。
 眠い目をこすりながら、体を起こした。カーペットの上には、ランドセルが口を開けたまま投げ出され、乱暴に積み上げられた教科書と、お気に入りのキャラクターのシ-ルが貼られた筆箱が、その横に置かれていた。
 パジャマに着替えた時、机の椅子の後ろで脱いだ服も、そのままカーペットの上に落ちていた。部屋のドアに顔を向けると、すぐ横の壁に口を開けていた大きな穴は、影も形もなくなっていた。そのまま後ろを振り返って見ると、ベッドの頭の方の壁に口を開けていた穴も、跡形もなく消えてしまっていた。
「変な夢だったな――」と、サトルは大きなあくびをしながら言った。
 ホゥーホゥー……
 フクロウの目覚まし時計が、ジリッジリッという鈍い機械音に体を震わせながら、本物そっくりの鳴き声で、サトルに朝が来たことを知らせた。いつもなら、フクロウの鳴き声で目を覚ましても、ベッドからどうしても起き上がることができず、学校に行く時間が刻々と迫っても、毛布の中にいつまでも頭を潜らせて、ぐずぐずと寝過ごしていた。業を煮やした母親が、「早く起きなさい!」と鬼のような形相で、耳が痛くなるほど「だらしがない」と小言を繰り返しながら、サトルを叩き起こしに来ることも、めずらしくなかった。
 しかし、今日はなぜかスッキリと、目覚まし時計が鳴るよりも早く目を覚まして、母親の手をわずらわせることなく、一人で起きることができた。ムフフ……と、母親の鼻をあかしたような気がして、妙にうれしくなった。夢だったかもしれないが、ドリーブランドで経験した冒険のことが、なんだか人に自慢したいほど、得意に思えた。
 ベッドに腰を下ろしたまま、ぼんやりと、いつまでも夢の世界に思いを馳せている暇はなかった。現実の時計の針は、気がつかないうちにどんどん進んでいった。いつものあわただしい朝と、ほとんど変わらない時刻になろうとしていた。サトルは急いでベッドから降りると、クローゼットの引き出しを開け、目についた服に手を伸ばすと、素早く着替えを済ませて、駆け足で階段を降りて行った。
 朝は、いつも髪がぼさぼさのまま、不機嫌に台所に立っている母親が、
「おはよう、今日は早いのね――」
 と、今朝はいつになく上機嫌で、包丁を振るう手を休め、にっこりと笑顔で振り返った。
「おはよう……」と、サトルは戸惑ったように挨拶を返すと、テーブルの自分の席に腰を下ろした。
 てきぱきと動く母親は、化粧こそしてはいないものの、髪もすっかりとかした後で、すぐにでも外に出かけられほど、しっかりと身支度を調えていた。サトルは冷蔵庫に目を向けて、マグネットで扉に留められているカレンダーを見た。日付を目で追って、今日の曜日を確かめた。平日に間違いなかった。めずらしくパートの仕事に早くから出かけるのか、それとも仕事を休んでどこかに行く予定だったのか、母親からそんな話しを聞いた記憶は、ひとつもなかった。ほかになにか忘れていることはないか、思い出そうと、うんと頭をひねって考えた。
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よもよも

2016-04-05 06:28:26 | Weblog
なんとも、

コマーシャルでもニュースでも

最近、桜の映像が出てくるようになってきたけど

なんかうらやましい。。

ほうっとけば

あたりまえだけど北海道の桜も花が咲くんだけどさ、

なんか流行に乗り遅れてやっと咲いた、

みたいな感が毎年あるから、

ちょっと残念だよね。
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