くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

夢の彼方に(69)

2016-04-19 00:19:02 | 「夢の彼方に」
 歩きながら、又三郎はサトルに聞いた。
「私は、どのくらい眠っていたんでしょう――」
「二日だよ」と、サトルは言った。「もう目を覚まさないんじゃないかって、ドキドキしちゃったよ。でも、トッピーが様子を見に来てくれて、あいつなら心配いらないから、目が覚めるまで寝かせてやって欲しいって、そう頼まれたんだ」
「トッピー?」と、又三郎が顔をしかめながら言った。「あいつが、湖に戻ってきたんですか……」
「知ってるの?」サトルが聞くと、又三郎はもちろん、とうなずいた。
 サトルが、一緒に旅をしてきたトッピーのことを話すと、又三郎は残念そうに言った。
「――もっと早く気がついていれば、あのヒラヒラした尾びれにひと囓りして、私の力を認めさせてやれたんですが」
 食堂の隣の調理場に入ると、又三郎が「ウッ……」と顔をしかめて声をもらした。
「どうしたんですか、この有様は――」又三郎は、食材の切れ端や、焦げついた鍋が山積みになっているのを見て言った。
「ごめんね……」サトルは言うと、恥ずかしそうに頭を掻いた。「料理なんてろくにしたことなかったから――」
「これじゃ、猫でも食べられませんよ」と、又三郎は、あきれたように言った。「青騎士と戦う勇気ももちろん必要ですが、お城から知らせが届くまで無事に戦い抜くためにも、食事はしっかり取らなければいけません」
 又三郎は、サトルに代わって腕を振るうと、具のたっぷり入ったおいしそうなスープを手早くこしらえた。
「ドリーブランドに来る前、見よう見まねで覚えたスープです。人の味覚に合わせたつもりですが、なにぶん猫の身ゆえ、お口に合うかどうか自信はありません――」
 ひと匙スープをすすったサトルは、
「おいしい……」
 目を丸くして言うと、あっというまに平らげてしまった。
 又三郎は、スープのおかわりを皿に盛りつけながら、サトルに聞いた。
「ところでここ最近、覚えていたはずのことがなかなか思い出せない、そんなことはありませんでしたか」
 料理を目の前に舌なめずりをしながら、サトルは首を振った。
「早く食べないと、全部なくなっちゃうよ――」スープがたっぷりと入った皿を受け取りながら、サトルは少し怒ったように言った。
 又三郎はなにか言いかけたが、「それでは私も、いただきます」と言って、自分の皿にスープをよそうと、スプーンを器用に使って食べ始めた。
 食事を終えると、又三郎はサトルを砦の中に残し、見回りのために城壁の上に登っていった。
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夢の彼方に(68)

2016-04-19 00:17:40 | 「夢の彼方に」
         10
 又三郎は夢を見ていた。
 夢の中で、死の砂漠をさまよっていた。
 ここはどこなのか。一体何が起こったのか。思い出そうとすると、頭の中がキリキリと針を刺すような痛みに襲われた。
 ほとんど失われてしまった記憶の中で、青騎士と対決したことだけは、はっきりと覚えていた。
 どのくらいさまよっていたのか、たどり着いたところは、山のように大きな樹の根本だった。樹は、草木のまったくない乾ききった砂漠の中にあって、なぜか青々と、葉を茂らせていた。
「迷える者よ――」と、大きな樹は言った。「君がまた信念を取り戻し、自分の存在に感じた疑問を振り払うことができたなら、落ちてきた世界へ戻ることができるだろう」
 青騎士を捜して、又三郎は、再び死の砂漠をさまよっていた。もうろうとした意識の中で、砂漠の樹王が言っていた言葉を、繰り返し思い出していた。
「ワシの葉は、死の砂漠に落ちた者を地上に戻す力を持っている。自分を見失い、風に流されるがままの砂に姿を変えたくなければ、手に取った葉を肌身離さず、己の幻影に打ち勝つがいい」
 振り返ると、見上げるほど背の高い青騎士が、恐ろしげな大剣を手にして立っていた。
「フッフッフッ――どうだ、驚いたか、私はいつもおまえのそばにいる」憎々しげに笑う青騎士が、兜の面を片手で持ち上げた。
 ギリリ……と耳障りな金属音を軋ませ、兜の下から、もう一人の又三郎が顔を出した。
「おまえがおまえであったのは、ここまでだ。ここからは、オレが本物のオレになる……」
 又三郎は、青騎士から目を離さず、足下の砂に手を入れると、鋼鉄のドン突き棒を引き抜いた。
 青騎士が、大剣を両手で持ち、ゆっくりと高く構えた。
 鋼鉄の棒を腰だめに構えた又三郎が、ヒュッと短い息を吐き、砂を蹴った。ためらうことなく、真正面から青騎士に向かっていった。
 大剣と鋼鉄の棒が、同時に閃いた。
 勝負は、一瞬で決まった。

 ―――又三郎は、目を覚ました。
 ふかふかのベッドで横になっていた又三郎は、むくりと体を起こすと、二本足で床に立ち上がった。すぐにおぼつかない足取りで部屋を出ると、空腹で腹がキリキリと痛むのをこらえながら、サトルを捜した。
 廊下の窓から、城壁の上にいるサトルの姿が見えた。
 又三郎は砦の外に出ると、城壁に登る階段に向かった。すると、ちょうどサトルが階段を駆け下りてきた。
 歩いてくる又三郎を見つけると、サトルは驚いたように言った。
「もう、大丈夫なの……」
「手間をかけさせてしまって、申し訳ありませんでした」と、又三郎は頭を下げた。「それより、なにをされていたんですか。不用心に城壁の外へ姿を見せては、危険です」
「ごめんよ――」と、サトルはきびしい表情を浮かべた又三郎に言った。「ちょっと見回りをしてただけなんだ。それより、お腹は空いてない? ずっと寝ていたから、きっとお腹がペコペコでしょ……。もうそろそろお昼だし、食事にしようよ」
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