妄想ジャンキー。202x

人生はネタだらけ、と書き続けてはや20年以上が経ちました。

相場英雄『震える牛』

2014-09-16 11:01:23 | 読書


とりあえず、世の中を見る目が変わりそうな「小説」らしからぬ「小説」だと思いました。現実に起きていても何らの不思議はありません。ドキュメンタリー番組だと言われても納得しそうです。

震える牛 (小学館文庫)
相場 英雄




Amazonの内容紹介より。

警視庁捜査一課継続捜査班に勤務する田川信一は、発生から二年が経ち未解決となっている「中野駅前 居酒屋強盗殺人事件」の捜査を命じられる。初動捜査では、その手口から犯人を「金目当ての不良外国人」に絞り込んでいた。 田川は事件現場周辺の目撃証言を徹底的に洗い直し、犯人が逃走する際ベンツに乗車したことを掴む。ベンツに乗れるような人間が、金ほしさにチェーンの居酒屋を襲うだろうか。居酒屋で偶然同時に殺害されたかに見える二人の被害者、仙台在住の獣医師と東京・大久保在住の産廃業者。
田川は二人の繋がりを探るうち大手ショッピングセンターの地方進出、それに伴う地元商店街の苦境など、日本の構造変化と食の安全が事件に大きく関連していることに気付く。



居酒屋強盗、獣医師と産廃業者の死、地方に展開する大手スーパー・オックスマート。全然関係のなさそうな三者ですが、迷宮入り直前だった居酒屋強盗の捜査が展開するにつれて、それぞれのコマが結ばれていきます。

結んで行くのはベテラン刑事の田川なんだけれど、田川が愛用している蛇腹メモというのがこの話の世界観をうまく表現しているとおもう。

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こんな感じのメモ帳だよね?

一頁めくるごとに次の手がかり、次の手がかりが明らかになって、気がついたら全部の点が横一線に結ばれる。田川の捜査も淡々としながらも着実に距離を詰めていく感じで、アクション映画とは異なるハラハラドキドキがありました。

久々に良作に出会ったな、とは思いましたが「これぞエンターテイメント!」とは言い切れない。
むしろ
「え、これ本当にフィクション?」
と疑いたくなるくらいのリアリティのある出来栄えだと思います。


ところで、Amazonのレビューのほうで興味深い話を見たのですが。

「ある小説本をターゲットに徹底的に潰してしまえという動きがあり、特にAmazonにおけるレビューで完膚なきまで叩けとの指示が出ているという」

確かに、コテンパンに叩いてるレビューもちらほら。いや、そこまで言わなくても……みたいな。小説の中の話はフィクションだとしても、Amazonのレビューの星合戦は目の前で起きてる現実の話。ひょっとして小説の話も本当なんじゃないか?と怖くなりました。

食の安全と、地方経済の維持の両立は果たして出来ないのでしょうか。とにかくだだっ広いショッピングモール、国道沿いのチェーン店、お値引きの札がついた加工食品……いろいろと見る目が変わりました。

私はお昼はコンビニのお世話になっています。便利ですから。食品添加物とけはあまり気にしていません。さすがにどぎつい着色料使われてるようなのは、ちょっとは避けますが。一般的な食品に関しては、
「国が検査してるんだし大丈夫だろ」
と安心しきっています。というか知らないんです。何をどれくらい食べたらどんな被害があるのか、とか。だから情けないことながら消費者としては悉く無知です。

BSEの発生した東北の農場、それを公開しようとする獣医師。隠蔽する流通業者。何が正しいのかそうでないのかがわからないです。そんなモヤモヤ感の残る結末もまた真実なのかもしれません。





「電話をもらったんだ。震える牛が出たって」
の一文にビビりました。ミステリーの伏線が回収される瞬間は本当に気持ちがいい。


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