〔赤とんぼ〕
夜勤明け、別件で残るため仮眠をとっていたらイベントにかりだされる。
……というかもう見てられないオペレーションだったためもあり。
「あれっ、まだいたの?」
と先輩社員さん。
「別件で残っていたんですが……こうてんやわんやな状況をみるといてもたってもいられなくなるのが私の悪い癖なもので」
「なんか右京さんみたいな台詞だなあ」
ここんとこ全身状態がイマイチなおばあちゃんを、バイタル一式とってから案内する。
「離床していいですか。本人も行きたいと」
「音楽でしょ、3曲くらいで帰ってきて。顔色よく見といて」
とのナース指示を受け、3曲くらいでまた帰る。
バイタルの調子がよかったので、ついでにそのまま飲水介助。
2人で赤とんぼを歌っていた。
「お嫁いけるかな」
「じゃあ赤とんぼ捕まえなきゃ」
「赤とんぼかあ……この時期の横浜に飛んでますかね」
「まだ時期じゃないわね」
「いつか時期が来ますよね」
「こない場合もあるけどね」
「ええ……」
おばあちゃんと私の大笑いの声が聞こえたらしい。
おばあちゃんに一度横になってもらったあと、ナースとのおしゃべり。
「案内してよかったね。さっきよりずっと顔色よくなってるじゃん」
「そうですね、このまま安定続けばいいですね」
「大丈夫、あとは任せて。とりあえず帰って寝なよ。夜勤明けでしょ」
「はーい」
ちょっと清々しい夜勤明けの帰り道。
眠れたのは16時を回っていたけど別にいいんだ。
〔吉日前夜の戦い〕
そんな夜勤明けの翌日の休みは、寿退社した先輩の披露宴にお呼ばれ予定。
ブライダルフラワーの仕事は何度かバイトでしたことはあるけど、お呼ばれそのものは初めて。
「……田舎は出来婚が多いせいかしらん」
ぼんやり考えながら、夜勤続きの肌を必死でお手入れしてネイルアートして。
おめかしって楽しい♪
しかしムダ毛処理は途中で諦めた。
母からの遺伝らしい剛毛には勝てなかった。
「髪が直毛ならまだしも、なんでムダ毛まで直毛で剛毛なんだよ……」
「こんな毛根なんてなくていいのに……」
「爬虫類か両生類になりたい…」
まさかこんなことで母の強さを実感するとは知らなんだ。
〔吉日〕
当日朝、同期と待ち合わせ。
「赤とんぼは飛んでるといいなあ…」
「は?赤とんぼ?」
「うん、赤とんぼ。15歳と100ヶ月超で姉やはお嫁に行くために、赤とんぼ捕まえるの」
「100ヶ月って」
肝心の披露宴は、みなとみらいを一望する超オシャレなレストランで。
でも大桟橋の溝にピンヒールがひっかかって、
「ちょっと歩くの手伝って」
なんて要介護状態になっていたり。
披露宴では幸せをおすそわけして頂いたりもして。
爆笑のあとはちょっと感動したりもして。
花嫁姿の先輩に感動。
「あたし早く結婚したい!」
と横に座った同期に耳打ち。
〔オブラート〕
懐かしい、というかお世話になった上司たちに再会。
「誰だかわかんなかったよ、どうしたの?」
「おまえきちんと食べてるのか?」
やっぱり聞かれたけど、うまくオブラートに包めたかな。
せっかくのお祝いの席だもの。
暗い話は避せるべきだ。
「今日はいい笑顔してるね」
セクション違いだけど同僚のナースさんがそう言ってくれたから、多分大丈夫だと思う。
だって本当に楽しかったから。
〔語りあう〕
二次会に向かう途中、ケアマネの姉さんと海を見ながら語りあう。
「赤とんぼいた?」
「やっぱり時期外れですね、きっと埼玉に飛んでますよ」
「そうね、きっと埼玉には大沢たかおの顔した赤とんぼでも飛んでるわよ」
「……それはそれで気持ち悪い」
「でも、あんたの敗因は彼氏をつくらなかったことね」
「気が付いたら仕事が彼氏になってました」
「きちんと休むことと、誰かに甘えること、充分判ったでしょ」
「はい、身に染みて実感しました」
「後悔は?してない?」
「してません。ただちょっと心配ですけど」
「案外どうにかなるもんよ。それにあんたよく頑張ったよ」
「……ありがとうございます」
「でも寂しくなるな。あの申し送りがなくなるのか」
「特変の申し送りがなくなるんだからある意味いいじゃないですか?」
「違うの、きちんと特変に気付いて適切な申し送りや処置をしてくれる人がいないと。あんたは気付ける人よ」
「……ありがとうございます」
そこまで話して、後ろから合流があったので話が終わった。
横浜港の風は、ノースリーブのドレスにストールだけだと少し寒かったけど。
最後に言えなかった言葉。
「埼玉で赤とんぼ捕まえたら報告しますね」
それは最後の最後にとっておこうかな、なんて潮風に呟いてみた。
夜勤明け、別件で残るため仮眠をとっていたらイベントにかりだされる。
……というかもう見てられないオペレーションだったためもあり。
「あれっ、まだいたの?」
と先輩社員さん。
「別件で残っていたんですが……こうてんやわんやな状況をみるといてもたってもいられなくなるのが私の悪い癖なもので」
「なんか右京さんみたいな台詞だなあ」
ここんとこ全身状態がイマイチなおばあちゃんを、バイタル一式とってから案内する。
「離床していいですか。本人も行きたいと」
「音楽でしょ、3曲くらいで帰ってきて。顔色よく見といて」
とのナース指示を受け、3曲くらいでまた帰る。
バイタルの調子がよかったので、ついでにそのまま飲水介助。
2人で赤とんぼを歌っていた。
「お嫁いけるかな」
「じゃあ赤とんぼ捕まえなきゃ」
「赤とんぼかあ……この時期の横浜に飛んでますかね」
「まだ時期じゃないわね」
「いつか時期が来ますよね」
「こない場合もあるけどね」
「ええ……」
おばあちゃんと私の大笑いの声が聞こえたらしい。
おばあちゃんに一度横になってもらったあと、ナースとのおしゃべり。
「案内してよかったね。さっきよりずっと顔色よくなってるじゃん」
「そうですね、このまま安定続けばいいですね」
「大丈夫、あとは任せて。とりあえず帰って寝なよ。夜勤明けでしょ」
「はーい」
ちょっと清々しい夜勤明けの帰り道。
眠れたのは16時を回っていたけど別にいいんだ。
〔吉日前夜の戦い〕
そんな夜勤明けの翌日の休みは、寿退社した先輩の披露宴にお呼ばれ予定。
ブライダルフラワーの仕事は何度かバイトでしたことはあるけど、お呼ばれそのものは初めて。
「……田舎は出来婚が多いせいかしらん」
ぼんやり考えながら、夜勤続きの肌を必死でお手入れしてネイルアートして。
おめかしって楽しい♪
しかしムダ毛処理は途中で諦めた。
母からの遺伝らしい剛毛には勝てなかった。
「髪が直毛ならまだしも、なんでムダ毛まで直毛で剛毛なんだよ……」
「こんな毛根なんてなくていいのに……」
「爬虫類か両生類になりたい…」
まさかこんなことで母の強さを実感するとは知らなんだ。
〔吉日〕
当日朝、同期と待ち合わせ。
「赤とんぼは飛んでるといいなあ…」
「は?赤とんぼ?」
「うん、赤とんぼ。15歳と100ヶ月超で姉やはお嫁に行くために、赤とんぼ捕まえるの」
「100ヶ月って」
肝心の披露宴は、みなとみらいを一望する超オシャレなレストランで。
でも大桟橋の溝にピンヒールがひっかかって、
「ちょっと歩くの手伝って」
なんて要介護状態になっていたり。
披露宴では幸せをおすそわけして頂いたりもして。
爆笑のあとはちょっと感動したりもして。
花嫁姿の先輩に感動。
「あたし早く結婚したい!」
と横に座った同期に耳打ち。
〔オブラート〕
懐かしい、というかお世話になった上司たちに再会。
「誰だかわかんなかったよ、どうしたの?」
「おまえきちんと食べてるのか?」
やっぱり聞かれたけど、うまくオブラートに包めたかな。
せっかくのお祝いの席だもの。
暗い話は避せるべきだ。
「今日はいい笑顔してるね」
セクション違いだけど同僚のナースさんがそう言ってくれたから、多分大丈夫だと思う。
だって本当に楽しかったから。
〔語りあう〕
二次会に向かう途中、ケアマネの姉さんと海を見ながら語りあう。
「赤とんぼいた?」
「やっぱり時期外れですね、きっと埼玉に飛んでますよ」
「そうね、きっと埼玉には大沢たかおの顔した赤とんぼでも飛んでるわよ」
「……それはそれで気持ち悪い」
「でも、あんたの敗因は彼氏をつくらなかったことね」
「気が付いたら仕事が彼氏になってました」
「きちんと休むことと、誰かに甘えること、充分判ったでしょ」
「はい、身に染みて実感しました」
「後悔は?してない?」
「してません。ただちょっと心配ですけど」
「案外どうにかなるもんよ。それにあんたよく頑張ったよ」
「……ありがとうございます」
「でも寂しくなるな。あの申し送りがなくなるのか」
「特変の申し送りがなくなるんだからある意味いいじゃないですか?」
「違うの、きちんと特変に気付いて適切な申し送りや処置をしてくれる人がいないと。あんたは気付ける人よ」
「……ありがとうございます」
そこまで話して、後ろから合流があったので話が終わった。
横浜港の風は、ノースリーブのドレスにストールだけだと少し寒かったけど。
最後に言えなかった言葉。
「埼玉で赤とんぼ捕まえたら報告しますね」
それは最後の最後にとっておこうかな、なんて潮風に呟いてみた。
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