渋谷の夜。

渋谷の街は眠らない。

土曜日、23時。
ハチ公前は相変わらず人でごったがえしてて、犬の姿がみえない。
待ち合わせ場所の意味を成してない。

スクランブル交差点。
所在なげに大スクリーンを眺める。
酔っぱらう若者。
路上の段ボール。
足早に歩くサラリーマン。

駅に向かう人より街へ出る人のほうが多いんじゃないか。
交差点を渡った人々はセンター街に道玄坂に吸い込まれていく。
吸い込まれていく。
吸い込まれて、どうなるんだろう。
大スクリーンは何も答えずに流行の歌を歌う。

渋谷には何でも揃っている。
カラオケ、飲み屋、ビリヤード、漫画喫茶。
やることはいっぱいある。

酔っぱらいに絡まれる。
けちらす救急車。
電話中のサラリーマン。
いわくありげなカップル。
ケータイをぶらさげる中学生。
道の端すわりこみ。
頼りない新聞紙の布団。

いろんな通りを歩いた。
水晶に入った街をクルクルまわしてみた。
わからなくなった。
今はいつで、ここはどこなの。
上は上で下は下なの。

渋谷の中心で何かを叫んだ。

愛なんかじゃない、もっとドス黒い。
痰のようにこみあげる。
目眩がする。

街をクルクルまわしているうちに、私がまわってしまった。

眠らない町で私の意識は眠りにつく。

渋谷はいつ眠るんだろう。
それともずっと眠っているんだろうか。

回りながら、回されながら。
眠りについているのはどちらなんだろう。

目を閉じても何も見えない。
何も感じない。
ただ流行の歌が右から左へ流れていった。