バーンステインのマーラーの交響曲９番

正月早々にHMVに注文していたL.Bernsteinとベルリンフイルとのマーラーの交響曲９番のCDが届いた。FM放送されたときにテープに録音し長年９番のベストと思っていた演奏だ。そのためだろうか？、１月は身近な人の逝去の知らせが続いた。この曲の解説によく取り上げられることだが、マーラーが交響曲に９番の番号をつけると自身が死んでしまうと思い９番目の交響曲だったものに敢えて番号を付与せずに「大地の歌」と名づけたが、次に作曲した曲に９番をつけたため最後の曲になってしまったと・・・・。
確かにこの曲には全編にわたってペシミズムが支配している。だがこの曲はマーラーの中では「大地の歌」についで好きな曲だ。しかしながら癌の宣告を受けた時に聴いていた曲が「大地の歌」であったことから、さすがに今年の最初の「癌」治療日にはこの曲を聴く気にはなれなかった。
マーラーの９番は就職してすぐにニューヨークフィルとの６番とのセット３枚組のＬＰを買ったのが最初だ。

このときのバーンステインの９番の演奏は「ボヘミアにあってはユダヤ人として、ウィーンにあってはボヘミア人としての疎外感」と戦い続けたマーラーの語り部としてまた伝道者そのものだった。確信に満ちた自信の解釈をグイグイと引っ張り６番も９番も長大な曲にもかかわらず長さを感じさせずに終わってしまう感じだった。しかしベルリンとの９番はウィーンフィルの時にも感じたマーラーの影を背負った「アメリカにあってはユダヤ人、ヨーロッパにあってはアメリカ人」の自身の感情が異常な高まりで演奏に反映している。カラヤンの極限にまで高められたマーラーの美しさの対極に位置するマーラーだ。それにしても両者を演じたベルリンの力量には驚嘆する。


蛇足だがLPの解説書は山根銀二なる者がマーラーの魅力なる文を載せている。学生時代に一番反発し嫌っていた教条主義知識人なる者の典型が「マーラーの魅力」を語る「冗談」があることに驚いた。
１．マーラーはブルジョア交響曲作家の最後の巨匠。資本主義社会からは以後出ない。以後の交響曲作曲家はショスタコービッチのごとく社会主義国から生まれる。
２．R.シュトラウスはブルジョア支配者の立場で虐げられた弱者の音楽であるマーラーの対極に位置する。したがって彼は好色好きなドイツ人に「ばらの騎士」を持って大衆迎合し、ナチスに貢献しドイツ音楽の栄光を台無にし、マーラーと対極にある。

よくもまーこれだけのことを1970年に言い切ったものだと、そのおろかさに当時ですら「これで良くSONYは原稿料を払ったな」と思ったほどだ。
当時の日本の「インチキ現者」および「音楽評論家」の質を表す貴重な資料がこのマーラーには添付されていたのだ。