5月31日に所沢ミューズにS.クイケンとラ・プティッと・バンドのバッハ、管弦楽組曲の全曲とブランデンブルグの5番のコンサートを聴きに行った。
正直バッハは好きな作曲家だが、どういう訳か2番のフルート、3番のG線上のアリアが中学の音楽時間に聞かされたこともあり子供音楽会のイメージから管弦楽組曲からは遠ざかり、普段聴く機会は殆どなかった。
そんなことからもむしろ読売ホールでのブランデンブルグ協奏曲の全曲演奏会にするか迷ったが日程が合わずに管弦楽組曲にした程だった。
だが久しぶりに聴く、しかも古楽演奏を広めてきたクイケンの演奏を聴くことができた管弦楽組曲は面白かった。音楽そのものよりも、オリジナル楽器の演奏スタイルそのものが面白かった。何時もはミューズ全体に広がる響きが好きで(最も料金の安さが第一だが、)3階一番後ろが定席だが今回は楽器演奏が見たくてステージ至近で聴いた(見た)。主催者の見識なのか、お客が集まらないことを予想してのことか、3階席はクローズだった。しかしそれでも客の入りは悪く6割り程度の入りだった。
今回の演奏でギターのように首からぶら下げて演奏された「ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ」を初めて観て、聴けた。しかし結果はそれがこの曲に無くてはならない音色かは疑問だった。古楽ブームも一時の勢いは感じない。それは音楽を感じる感性は時代とともに変わるからだろう。音程の微妙なズレ、歯切れの悪い音、くすんだ音色はおしゃべりのバックミュージックには合うが、コンサートホールの緊張感の中では私には受け入れられない面があった。今から思えば、古楽器ブームと言える時代は、コンピュータの急激な拡大によるデジタルか社会のアンチテーゼのように、アナログ回帰の時代を反映したのだろう。若き演奏家の正確無比で研ぎ澄まされた感性をほとばしる演奏を受け入れない者がたどり着いた演奏スタイルだったのだろう。
当日ブランデンブルグ協奏曲が1曲だけ、しかも数あるバッハの名曲の中でも傑作中の傑作の5番が演奏された。管弦楽組曲と違って、ブランデンブルグ協奏曲はビバルディーをはじめとして、先進のイタリアンバロックに追いつき追い越そうとするバッハの意気込みの最たるものだろう。だからしてこの曲に演奏に必要なのは従来のカラを打ち破るエネンルギーがほしい。しかしこの日の演奏からはこの曲に限らず、時代背景という大きな殻に包まれ古楽器の表現のからを初め、奏法、表現のからをまといすぎた演奏で博物館でき聴くには楽しめるが、芸術表現としてはなにか物足りなく思った。「オリジナル楽器で聴くバッハ」は聴けたが、「オリジナル楽器で聴く今日のバッハ」は響かなかった。この曲は好きなだけに手持ちも多いが、中でも若きグレン・グールドがピアノで演奏したDVDは「俺のバッハ」が響くし、シューリヒトとチューリッヒバロックアンサンブルの5番は御大がホリガー、アンドレ、ジャコティーのそれこそ当時新進気鋭の若手と組んだ演奏は半世紀過ぎた今日でも新鮮さが伝わる。この日の演奏会で、今ひとつ感動しきれなかったのは、オリジナル楽器で表現したのが何だったのか私にはわからなかった。
私に唯一の手持ちは、1963年に録音され、学生時代に入手した管弦楽組曲全5曲盤だ。レコードジャケットには解説として新発見とされた第五番は「レコード化されたことは、バッハを愛するものとしてこころから喜びたい」と結んでいる。1987年版の三省堂音楽作品名辞典では、「おそらくバッハの作品ではない。」とされ、ウキペディアのコピペでは「 なお、第5組曲 BWV1070は、今日では長男フリーデマンの作とされる。」となっている。
私が管弦楽組曲があまり好きでは無いのは、たとえは良くないが、ラーメンライスかカレーラーメンみたいな曲だからだ。この曲自体が貴族のために飯の種として作られたもので「ちょっとラーメンだけでは物足りないが、金も無いので、御飯だけ入れてよ」の乗りで作曲したものや、「今日の客はカレー好きとラーメン好きに二分されているけど2曲作るのは面倒だから混ぜちゃい」みたいな曲が好きではない。
でもこのレコードは単に5番を含んだ「珍品」としての価値では無く、私は食べたいとは思わない「ラーメンライス」と「カレーラーメン」をうまく味付けした演奏だからだ。指揮者でありフルート奏者のレーデルの見識の高さ、そして何よりもジャコティーよりは劣るもののホカンソンのチェンバロ、そしてアンドレのトランペットと薬味もお出しもいい味を出している。そして問題の偽物5番だが、なぜこれを外すかも疑問だ。ビバルディーのパクリで作ったチェンバロ協奏曲と、長男のオリジナル作品との差は何かが曲そのもので説明がつかないし1-4番と5番の間に違和感を感じるだろうか。そもそも4曲がばらばらで統一感は無く、個々の曲自体が楽器編成だけの相違で自己主張している曲だと思う。
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