おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

さよなら歌舞伎町

2021-03-04 09:25:16 | 映画
「さよなら歌舞伎町」 2014年 日本


監督 廣木隆一
出演 染谷将太 前田敦子 イ・ウンウ ロイ
   樋井明日香 我妻三輪子 忍成修吾
   田口トモロヲ 村上淳 大森南朋
   河井青葉 宮崎吐夢 松重豊 南果歩

ストーリー
一流ホテルで働くことを夢見る徹(染谷将太)はミュージシャンを目指す沙耶(前田敦子)と同棲しているが、自分が実際にはラブホテルの店長であることを、家族や沙耶には伏せていた。
ある日、徹の勤めるホテル・アトラスにアダルトビデオの撮影隊がやって来ると、そこには妹の美優(樋井明日香)の姿があった。
メジャー・デビューを目指している沙耶は、枕営業のため音楽プロデューサーの竹中(大森南朋)とホテル・アトラスに入室し、それを知った徹と部屋の外で口論したのち竹中と関係をもつ。
里美(南果歩)は、駆け落ち相手の康夫(松重豊)をアパートメントに匿いながら、ホテル・アトラスの従業員として働いているのだが、傷害事件で指名手配中の2人は、あと1日で時効成立を迎える。
そんな折、夫と子供のいる刑事の理香子(河井青葉)が、同僚の竜平(宮崎吐夢)と入室する。
里美の正体に気づいた理香子は里美を取り押さえたが、逮捕に乗り気でない竜平は帰ってしまう。
非常ベルが鳴らされた隙に、里美は理香子を振り切り、ホテルを飛び出して行った。
ブティック店を開業するという夢をもつヘナ(イ・ウンウ)は、近日中に韓国へ帰るつもりでいる。
一方、蕎麦と日本酒の店の開店資金を貯めている恋人のチョンス(ロイ)は、もうしばらく韓国料理店で働くつもりでいるが、眠っている彼女のバッグを探ったところ、コールガールである彼女の名刺を見つける。
ヘナは日本での最後の出勤日にホテル・アトラスに入室し、客の男の要求で目隠しをしたのだが、浴槽で体を洗われているうち、ヘナは男がチョンスであることに気づく。
ホテルからの帰り道でチョンスはヘナにプロポーズし、2人は一緒に韓国へ帰ることを決心する。
風俗のスカウトの正也(忍成修吾)は、家出少女の雛子(我妻三輪子)とホテル・アトラスに入室する。
雛子の不幸な生い立ちを聞いた正也は、彼女をその場に残しこの仕事から足を洗うために組織の元へ向かうが、バッティングセンターで組織員たちから凄惨な暴行を受けることになった。


寸評
新宿・歌舞伎町のラブホテルに出入りする人々を描いた群像劇で、たくさんの人々が登場するが詰め込み過ぎの感じはしない。
それぞれのエピソードで1本の映画が撮れそうな気がするほど一つ一つが切ない物語である。
主人公は徹という青年で、親からの援助と期待の手前、ラブホテルの店長をやっていると言えないでいる。
妹も故郷の塩釜市で保育士を目指していたが、東日本大震災で実家の工場が潰れたために東京でAV女優の職に就いたのだという。
「絆」という言葉が踊った東日本大震災だが、苦しんでいるのは被災者だけで、人々は無関心になり関係ないような雰囲気になってきていることが批判的に語られる。
両親は工場がつぶれ、除染作業などにも従事しているが日給は少なく、毎日あるとは限らない辛い日々を送っている。
妹の美優の登場は2014年の今を感じさせる映画としている。

南果歩と松重豊の夫婦は何か意味ありげな登場の仕方でミステリーを感じさせる。
途中で南果歩の鈴木が指名手配犯のポスターの前に立っていたことで、どうやら松重豊は指名手配犯らしいことがわかり、いつそれが判明するのかのサスペンス感が加わってくる。
あくまでも群像劇なので、そちらの緊迫感がたかっていくというより、焦点は南果歩の人物そのものに光が当たり、鈴木里美を演じた南果歩が面白い役柄を好演していた。

舞台がラブホテルだけあってヘビーなシーンも多いが、シーンの割りには描かれるのが純愛だったりしている。
切ないのがヘナとチョンスの韓国人カップルである。
ヘナはホステスをしていると言っているが実際はコールガールである。
稼ぎは勿論チョンスと比べ物にならず、韓国に帰って稼いだ金を元手に母とブティックを開こうとしている。
一方、チョンスは韓国料理店ではなく蕎麦と日本酒の店を夢見ているが、恋人のヘナがコールガールをやっていることを知って苦しむ。
ヘナはいかがわしい商売をやっているのだが、気持ちは優しい女であり客に対しても誠心誠意尽くすのである。
ヘナは客となって対面したチョンスに泣いて謝るが、チョンスは自分も女性客から金を受け取って関係をもったと告げる。
二人がお互いの嘘を許し合う場面だがこの純愛は内容の割には少し弱いと感じた。

むしろ爽やかなのが風俗のスカウトである正也と家出少女の雛子の物語だ。
組織から足を洗おうとした正也への出来事はサワリ程度だが、雛子があこがれていたチキンナゲットをいっぱい食べるという夢を二人で叶えるシーンは青春ドラマだ。
徹は沙耶を残して立ち去り、故郷の塩釜市へ向かうバスに乗り込むが、そのバスには美優も乗っている。
しかし二人はお互いの存在に気づいていない。
このラストはいい。
被災した故郷だが、自らの傷をいやしてくれて再出発させてくれるのは故郷なのだと思う。