おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

2021-09-23 07:06:00 | 映画
「光」 2017年 日本


監督 大森立嗣
出演 井浦新 瑛太 長谷川京子 橋本マナミ
   梅沢昌代 金子清文 足立正生
   福崎那由他 紅甘 早坂ひらら
   岡田篤哉 南果歩 平田満

ストーリー
東京の離島、美浜島。
記録的な暑さが続くなか、中学生の信之(福崎那由他)は閉塞感を抱きながら日々を過ごしている。
だが、同級生の恋人・美花(紅甘)がいることで、毎日は彼女を中心に回っていた。
信之を慕う年下の輔(タスク)(岡田篤哉)は、父親から虐待を受けているが、誰もが見て見ぬふりをしていた。
そんなある夜、信之は美花と待ち合わせをした神社の境内で、美花が男に犯されている姿を目撃する。
美花を救うため、激高した信之は男を殺してしまう。
一部始終を目撃していた輔はこっそりとその惨状をカメラに収めた
次の日、理不尽で容赦ない自然の圧倒的な力、津波が島に襲いかかり、全てが消滅してしまう。
生き残りは、信之のほかには美花と輔とろくでもない大人たちだけで、信之の罪も消し去られたかに思われた。
25年後、信之(井浦新)は結婚し、一人娘にも恵まれ、穏やかな生活を送っていたが、島を出てバラバラになった彼らのもとに過去の罪が迫ってくる。
妻の南海子(橋本マナミ)と一人娘とともに暮らしている信之の前に25年前の秘密を知る輔(瑛太)が現れ、過去の事件の真相を仄めかす。
南海子は育児につかれ、住まいの団地の閉そく感に辟易して素性も知らない男のもとに通い体を重ねていたが、その男こそ輔だった。
密会の相手が夫と因縁深い輔であること知らない南海子は密会を続けるが、地元を離れていたスキに椿が変質者にいたずらされるという事件が起き、一方では輔の前に暴力をふるっていた父の洋一が現れる。
封じ込めていた過去の真相が明らかになっていくなか、信之は、一切の過去を捨ててきらびやかな芸能界で貪欲に生き続ける美花(長谷川京子)を守ろうとするのだが……。


寸評
一つの犯罪がさらなる罪を生んでいく悲劇なのだが、その悲劇は極めて暴力的だ。
東日本大震災を思わせるような大災害で信之の犯罪は闇に葬られるが、生き残った信之と輔のその後がどうだったのかは不明である。
しかし信之はエリートコースを歩んだようだし、輔は下層の生活になっているらしきことは分かる。
二人の格差が確執となったのかもしれないが、直接的要因はよくわからない。
それでいながら信之、輔、美花に潜む暴力は、原生林の中から生まれてきたような神秘性を感じさせる。
ジェフ・ミルズによる大音量のサウンドと、原生林の巨木が彼等の心証を象徴するように流れ描かれる。
巨木の穴倉にカメラが入っていき、奥の方の小さな穴を通して差し込む光かと思われたものがタイトルとなって出てくるのは、先ずは映画の世界に引き込むという流れで僕の気に入る処理だ。

一般的に言って、愛されている側が愛している側を支配するという構図が存在しているのではないかと思う。
ここでも美花が子供のころから信之を支配している。
待ち合わせの時間を決めるのも美花なら待ち合わせ場所を指定するのも美花だ。
最初の事件の時も美花は信之に「殺して」と指示し、信之は従うようにして殺人を犯す。
子供の頃には信之を慕ってした輔だが、大人になった輔は信之の奥さんと関係を持つことで信之との関係が逆転したかのように見える。
しかし、冷静な信之の狂気がよみがえってくるとともに、信之は次第に輔を支配していく。
いつの間にか子供の頃の関係に立ち戻っていて、その頃のトラウマから脱却することができない。
腕力ではすでに勝っているはずの輔は、虐待されていた父親の暴力から今もって逃げることができないでいる。

信之は南海子と結婚し女の子がいるが、二人の間に愛情があるとは言えない。
信之の心は美花にあり、同じ島で生まれ育った信之、輔、美花に比べ南海子だけが部外者の様でもある。
足をなめるという信之が美花に行った行為を幼い輔は眺めていた。
何も知らない南海子が輔に「あなたと同じように足をなめる」と告げるのは、南海子の疎外感を表している。
南海子が輔と不倫を重ねていることを信之は知っていて、しかもそれは輔から知らされたことなのだが、信之は荒れ狂う気持ちを押さえて南海子の前では知らないふりを装っている。
ここでも南海子は信之と輔という男たちの枠の外に置かれているのだ。
人間は牛や豚と言う動物を殺して生きている。
人間という動物を殺しても生きていかねばならない人という生き物にとって、生きると言うことは何なのか。

男優たちは静かで冷酷な信之を演じる井浦新、狂気を発散する輔役の瑛太は抜群に良い。
比べると信之の妻を演じた橋本マナミの浮いた演技はいただけない。
亀裂の入った夫婦関係を表現するには物足りない。
篠浦未喜となった長谷川京子にも小悪魔的雰囲気が欲しかったところで、女優がよくないと映画は面白くない。
暴力と欺瞞を描く情け容赦ない映画だが、原始の世界から生み出される生命賛歌のようなものも感じたかったが、そんな映画ではないな。