「悪名」 1961年 日本
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監督 田中徳三
出演 勝新太郎 田宮二郎 中村玉緒 中田康子 水谷良重
浪花千栄子 山茶花究
ストーリー
河内の百姓の伜朝吉は無類の暴れ者で“肝っ玉に毛の生えた奴”と恐れられていたが、盆踊の晩、隣村の人妻お千代と知りあって有馬温泉へ駆落した。
しかし働きに出るお千代を、ゴロゴロ待っている朝吉は次第に退屈し、彼女が酔客と戯れているのを見たのをシオに大阪に帰った。
彼はそこで幼馴染の青年達にあい、そのまま松島遊廓にくりこんだ。
琴糸という源氏名の女は朝吉にぞっこん惚れ込んだ。
その晩連れの青年が酔った勢いで土地の暴れん坊、モートルの貞と悶着を起し、彼らと貞は翌朝対決する羽目になった。
しかし機敏な朝吉の働きで貞は散々に打ちのめされた。
この時現れた貞の親分吉岡の客分として一家に身を預けた朝吉は、喧嘩やバクチ場で無類の強さを示し、貞も次第に彼にひかれた。
そんな時、朝吉と馴染を重ねていた琴糸が逃げて来た。
松島一家を恐れて匿うことを渋った吉岡の薄情さを怒った貞は、杯を叩き返し朝吉を親分と立て、一家を去った。
琴糸は吉岡の隣のお絹の家に匿われていたが、松島一家に捕えられて因島へ売られてしまった。
朝吉と貞は対策を練るが、その夜かねてから朝吉を好いていたお絹は“妻にする”という証文をかかせて身を任せた。
二、三日お絹と甘い生活を送っていた朝吉は、貞の仕入れたピストルと軍資金を得て因島にのりこんだ。
そして、わざと別の宿をとった貞は、毎晩琴糸のいる大和楼に、素姓を隠した大尽遊びを続けて手筈をつけ、琴糸をうまく朝吉に渡したのだが、船で沖へ出た朝吉は潮に流されてまた港へ戻されてしまう・・・。
寸評
悪名シリーズの主演は勝新太郎なのだが、僕はどちらかと言うと田宮二郎の映画だったと思っている。
ただあまりにもスマートすぎる彼が使う河内弁には違和感をもっていた。
それでも、八尾という耳慣れた地名が登場するこのシリーズを何本見たことだろう。
八尾というローカルな地名が全国的なり、河内という地域のイメージがこの映画によって形作られたと言っても過言ではない。
最初の頃の「悪名シリーズ」は良く出来ていて、プログラムピクチャとして大量放出される作品の中に、このような完成度を持った作品があったことは、当時の日本映画の底辺の広さと実力を知るのに十分だ。
第一作の「悪名」では、ギャグのようなやり取りが随所にあって、肩のこらない作品に仕上がっている。
モートルの貞が意気地のない親分を見限って去っていく時に、親分が残った子分に「ちゃんと挨拶したらんかい」と言うと、子分たちは「貞やん元気でな」と声をかける所などは包括絶倒だ。
なによりのギャグは、登場する中村玉緒に対し「貴女様を終生の妻と致します」と一筆入れていることだ。
実際私生活で、勝新太郎は中村玉緒を生涯の伴侶としているのだ。
勝新にはいろいろ浮名を流すようなこともあっただろうが、離婚することなく最後まで添い通した。
勝新太郎演ずる浅吉が、田中康子・水谷良重・中村玉緒と登場する女性になぜもてまくるのかは説明不足だと思うが、二作目までは気風のいい暴れん坊として好感がもてる存在だ。
そして最後は落ち目の大映を一人で支えた感のある勝新太郎だが、斜陽の中を歩いたスターに思えて少しかわいそうに思っている。
第二作目の「続・悪名」は何と言っても、モートルの貞の死だろう。
あっけなくチンピラに刺されて死んでしまう貞の場面は秀逸だ。
変に様式化しないで、美しいまでのカメラワークであっという間の出来事として描いている。
雨降る中を、恋女房のお照(藤原礼子)と相合傘であるいている所をあっけなく刺されるシーンを、宮川一夫が大映京都撮影所で真上から撮った有名なシーンだ。
第三作目の「新・悪名」に、貞の弟の清次が登場する。
河内弁に断片的な英語をはさんで話すイキなやくざだ。
清次 「ヘーイ、フー・アー・ユー?」
朝吉 「日本語でぬかさんかい!」
清次 「よっしゃ、誰やゆうてんねん」
朝吉 「わいは八尾の朝吉ちゅうねん」
なんてやりとりが続く。
この作品以降は清次を演じる、京都生まれで関西のアクセントを持った田宮二郎の映画になっていると思う。