おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

東京タワー オカンとボクと、時々、オトン

2024-01-08 07:05:24 | 映画
「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」 2007年 日本


監督 松岡錠司
出演 オダギリジョー 樹木希林 内田也哉子 松たか子
   小林薫 冨浦智嗣 田中祥平 谷端奏人 渡辺美佐子
   佐々木すみ江 原知佐子 結城美栄子 猫背椿
   伊藤歩 勝地涼 平山広行 荒川良々 寺島進

ストーリー
飲んだくれの自由人である“オトン”の家を出て、“オカン”と幼い“ボク”は筑豊の実家で暮し始める。
炭坑町でオカンとその姉妹たちと暮す日々が続くが、高校進学を間近にひかえたボクはオカンのもとを離れて大分の美術高校に行くことを決めた。
オカンが小料理屋で働きつつ送ってくれる仕送りでボクは、自堕落な高校生活を送る。
やがて憧れていた東京に出て美大生になるに至っても、ボクは自堕落な生活を送り続けていた。
故郷のオカンの励ましと学費の援助によってなんとか大学を卒業したものの、就職はせず、町金融で借金をかさねながら暮らす日々も次第に窮まっていった。
今の暮しぶりを知ったらオカンはどんなに落胆するだろうかと思い立ち、故郷との連絡を絶ち、心を入れ替えて生活を立て直す決心をするボク。
何でもかんでも仕事を引き受けてがむしゃらに働く内に、イラストレーター兼コラムニストとしていつの間にか食えるようになる。
借金も完済し、これでオカンに心配をかけることも無いと思っていた矢先、久々に連絡をとった故郷の叔母からオカンがガンの手術で入院していた事を知らされる。
ボクがオカンを心配させまいと連絡を絶っていた間、オカンも心配させまいと連絡を絶っていたのだ。
ボクはオカンを東京に呼び寄せ、再び二人で暮らすことにする。
上京したオカンを東京見物につれていき、今の仕事が一段落ついたら一緒に東京タワーの展望室に登ろうと約束するボク。
料理が上手で世話好きなオカンを慕い、家に入り浸るボクの友人たち。
訪ねてくる彼らにオカンは料理を振る舞い、オトンとののろけ話で彼らを笑わせていたのだが…。


寸評
テレビの単発ドラマに連続ドラマ、そして今回の映画版と立て続けにリリー・フランキー原作の「東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~」を見せられると、流石に食傷気味になってくる。
オマケにこの映画版が内容的に一番希薄だったので、なおさら乗れなかった。

見終わった素直な感想は「いったい何が描きたかったのかなあ」だった。
母親の息子への盲愛でもないし、息子の母親への感謝の記憶でもない。
もちろん、亡き母のすごい人生を描いているわけでもない。
いや、描いているのだけれども、それぞれが中途半端で描いていないように思えてしまう。
これだと樹木希林、オダギリジョーのキャスティングがどうこう言う以前の問題になってくる。
思いっきり泣こうと思ってハンカチを用意して臨んだのだが、ついにそれを手にする事はなかった。

この作品は第31回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞したのだが、これを最優秀作品にしてしまうので僕は日本アカデミー賞の存在そのものを評価していない。
日本アカデミー賞主催の日本テレビがこの作品に出資していたことが影響していたのかもしれない。
主演女優賞も受賞していて、受賞者の樹木希林が受賞インタビューで「これは組織票だ、この結果はおかしい」と言ったのはさすが!

キャスティングで言えば、松たか子のミズエの存在がよく解らなかった。
ボクの別れた元カノだったことはわかるのだが、しかも母親はまだ別れたことを知らないでいるらしいこともわかるのだが、その設定がはたして何なのかと言いたくなるような、実にあっさりした描き方だった。
最後の手紙には一体なんて書いてあったのだろう?
連続ドラマの香椎由宇演じる佐々木まなみの描き方の方が存在感があったし、存在意義もあった。

渡辺美佐子のオカンのオカンがバスを見送るシーンと、オカンがボクを見送るシーンは、結局のところ親は見ているだけしか出来ないのだと言っているようで、この二つの対比シーンが一番印象に残った。
今時珍しいとも言える親子の愛情物語なので、母一人子一人で育った僕としてはもう少し同化出来ても良かったと思うし、繰り返しになるけれど、もう少し泣きたかったなあ~。
「泣ける・泣けない」が映画の良し悪しの基準ではないが、この映画は間違いなく泣かせることを意図していた。
オカンの闘病生活が始まってオカンが苦しむ姿を延々と見せる。
それまで一貫して流れていたトーンと違う演出は、オカンの死をより際立たせて涙を誘うための道具にしているのだが、しかしその押しつけは結局作品を不発弾にしてしまっている。

救いは、セリフのない病院の借家の老婆として千石規子、ラジオ局のディレクターとして仲村トオル、小泉今日子は不動産屋の事務員、宮崎あおいはアイドルDJ、柄本明は診療所の医者、また郵便配達として田口トモロヲ、岩松了が催促する編集者の声として登場するなど、チョイ役で出てくる人が多士済々だったことかな・・・・。