あなたから一番遠いブログ

自分が生きている世界に違和感を感じている。誰にも言えない本音を、世界の片隅になすりつけるように書きつけよう。

Nさんへの手紙(5)~戦争への道と児童ポルノ

2014年06月21日 10時13分07秒 | Weblog
Nさん

 いつもお手紙ありがとうございます。
 実はぼくはこのところ色々あって、精神的に少し疲れています。他人から見たら大したことではないと思いますが、ぼくは普段と違う状況に直面すると弱いのです。緊張が続いた後で、それと同じくらいの期間、緊張緩和というかボーっとしていました。
 そんなわけでと言うわけではありませんが、新聞もほとんど読んでいません。お手紙をいただいてはじめて、各紙が近代史の特集を継続しているということを知りました。読売と産経が毎週土曜日に近現代史特集、毎日が毎月第二土曜日、朝日が毎月第三火曜日「声」欄に戦争特集、東京新聞は不定期に中野学校特集や学徒兵特集をしているというのですね。

 ぼくは読んでいないので憶測で言うしかないのですが、これは一般的な歴史ブームというようなものではなく、歴史修正主義の台頭という方が正しいのかもしれないと思ってしまいます。
 いよいよ昭和の戦争の時代から80年以上の時が過ぎ、安倍極右絶対政権が誕生して、自衛隊の侵略軍化と国内治安体制整備が本格化してきました。まさに戦後日本が終わり、新たな軍事・警察国家として日本が再出発しようとしています。
 そうした中で、これまでの史観では新たな日本の姿を肯定することが出来ないから、再検証という名目で歴史修正が行われようとしているのではないでしょうか。もちろんそうした動きには反発や批判も起こるわけで、そうしたせめぎ合いが表出しているのかもしれません。

 ところで、治安体制の整備・強化という部分では、先般の特定秘密保持法制定もありましたが、実は数日前に、集団的自衛権に関する騒動に隠されてほとんどの人が知らないうちに、国会である重大な法改訂が行われてしまいました。
 いわゆる改正児童ポルノ禁止法です。もちろんこの法律は大変デリケートな問題を含んでいるので、なかなか反対を言いづらいところもあるのですが、今回の改訂は「児童ポルノ」の単純所持を禁じたのです。NHKのサイトによると「みずからの性的好奇心を満たす目的で所持した場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金を科すとしてい」るそうです。
 ここには大きな問題があります。そもそも何をもって「児童ポルノ」とするのかがあいまいです。歴史的な絵画には男女、老若にかかわらず多くのヌードが描かれていますが、それはポルノでしょうか。現代の画家が同じような絵を描いたらポルノになるでしょうか。誰でも知っているとおり、この境界線はどこまでもあいまいなままです。
 ましてや「みずからの性的好奇心を満たす目的」というのを、どうやって証明すると言うのでしょうか。それこそまさに人の心の中をのぞき込むと言うことですが、結局のところ取り締まる側(否定的な側)の恣意的な判断にならざるを得ないでしょう。もっと踏み込めばエロスとは何であり、どこからどこまでが<違法>な<好奇心>なのか、逆に言えばどこまでが<合法>な心情であるのか、あまりにも難しい問題に入り込まざるを得なくなってしまいます。

 このことを微細に検討しても仕方ありませんし、もちろん意見の分かれるところでもあるでしょうが、怖いのはこの法改定がほとんど報道されず、日本書籍出版協会、日本雑誌協会、日弁連などが抗議声明を出しているのに、その内容も伝えられていないという点です。
 まだ報道されるのなら良いのです。集団的自衛権の問題は報道され、世論調査が行われ、そうした中で安倍政権のニュアンスはどんどん変わっていきました。しかし報道されない、誰も知らないところで行われてしまうことは、世論さえ形成されず、国会議員のセンセイの「良識」だけでどんどん変更されてしまうのです。
 児ポ法はあまりにも多くの問題を含んでいるので、当初の成立時には単純所持の禁止が盛り込まれませんでした。これとは別ですが東京都の有害図書指定問題でも大きな反対運動が起こり大きな論争が起きたことは記憶に新しいと思います。なぜ問題になるのかと言えば、言うまでもなく、この問題は表現の自由や思想・心情の自由に深く関わっているからです。
 それがなぜ、この時期に突然、しかも事実上秘密裏に改訂されてしまったのか。ぼくはここに強い懸念を感じます。例のマルティン・ニーメラーの「彼らが最初共産主義者を攻撃したとき」を思い出します。

 集団的自衛権行使容認問題は重大な問題です。しかし戦争への道は単純にただ一本だけあるわけではありません。
 新聞の一見文化的な記事の中にも、TPPや原発・武器輸出、規制緩和などの経済活性化政策の中にも、まさに児童保護やポルノ規制問題にさえ、様々な仕掛けが仕込まれています。重要なことは、表面的な政策の是非ではなく、その根底にある思惑や思想が何なのか考え、見抜いていくことだと思います。
コメント
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