斉東野人の斉東野語 「コトノハとりっく」

野蛮人(=斉東野人)による珍論奇説(=斉東野語)。コトノハ(言葉)に潜(ひそ)むトリックを覗(のぞ)いてみました。

断想片々(36) 【悩ましい記事】

2022年02月06日 | 言葉
 小泉純一郎氏ら5人の首相経験者が、福島原電事故で「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しんでいる」とする書簡を、欧州連合(EU)の執行機関あてに送った。これに対し政府は「誤った情報」と強く批判しているという(2月5日付け読売新聞朝刊13S版4面)。分かりにくい記事だ。

 5人は小泉氏(自民)のほか菅直人(旧民主)、細川護熙(旧日本新党)、鳩山由紀夫(旧民主)、村山富市(旧社会)の”超党派”各氏。まず、なぜEUへ送ったのかが、記事からでは分からない。まして現在のEUはウクライナ問題で大忙しのはずで、タイミング的にもどうなのか。政権側からは「誤った情報を広めている」(西銘復興相、高市自民党政調会長)といった強い批判が出ているらしい。

 補強取材は必須
 補強取材の必要は他にもある。福島原発事故のせいで「多くの子どもが甲状腺がんに苦しんでいる」という部分の数字的な裏付けだ。重大な実態の告発か、無責任なフェイクニュースか--の分岐点は、「多くの子ども」の数字的裏付けの有無である。そもそも最初から書簡内に数字的な裏付けの件(くだり)は無かったのか、あったのに記事にする段階で削られたのか--も重要な点だろう。
 
 元首相たちでさえ数字的裏付けが出来ないとなれば、かえって5人連名の重みは薄れ、書簡を送る意味も薄れる。「元首相が5人もいて、なぜデータを調べられないのか?」と、欧米の人たちは不思議がるだろう。一方、政権側が数字を出せないなら、事実の隠ぺいとしか言いようがない。記者は、双方にこの点を確認してから記事にすべきだった。