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気ままに生活してるシニアの残日録

映画「ふたりのマエストロ」を観る

2023年08月19日 | 映画

シネリーブル池袋で「ふたりのマエストロ」(2022、仏、監督ブリュノ・シッシュ、原題La Scala)を観た。原題はLa Scalaとしているが映画ではMaestro(s)と出ていた。クラシック音楽が題材と言うことで観なくてはと思った。シニア料金1,300円、小さい劇場だったが半分近く入っていたか、若い女性が結構入っていたのには驚いた、音楽関係の人か。

ストーリーは、今はときめく話題の指揮者ドニ・デュマール(イヴァン・アタル)、有名な賞を受賞して人気があるが、父のフランソワ・デュマール(ピエール・アルディティ)は大ベテランの指揮者、ただ全盛期は過ぎている。親子は日頃からうまくいっていない。ある日、父の携帯にミラノスカラ座から次期の音楽監督就任依頼の電話がある。ところがこれがスカラ座の担当者のミスで本来は息子のドニへの就任依頼だったことから難しいことになっていく・・・・

この映画は、2011年のイスラエル映画「フットノート」のリメイクとのこと。フットノートではユダヤ教の聖典タルムードを専門とするライバル研究者の父と息子という設定だった。ストーリー設定としてはなかなか面白い着眼だと思った。

観た感想をいくつか述べよう

  • フランス映画はパリが舞台になる映画が多いが、この映画もそうだ、パリの街や家の中の様子が多く映っているところが好きだ。パリには1回だけしか行ったことがないが好きな街なので、年に1回は行ってみたいというのが私の願望だ。ただ、最近は物騒な騒動があるから難しくなったかもしれないが。
  • 父が本当のことを妻から言われてショックを受け、パリの街をさまよった末、息子の家に行く、そこで酒を飲みながら初めて父子で本音で話をすると、父の口から衝撃の事実が・・・、と言う公式サイトの説明だが、映画を観ていてちっとも衝撃など感じなかった、何なの?という感じだ。実の親子ではなかったのか、父の愛人の子だったのかハッキリ覚えてないが、観てる観客が驚くような話ではないと思った。
  • これも公式サイトによると、「最悪の不協和音は、やがて圧巻のフィナーレへ」と言うことだが、映画の最後の場面を観ると、私には「何だこれ?」と言う感じだった。どうしてこれが圧巻のフィナーレなのか、こんなのあり得ないだろう、と感じた。
  • そこで更に考えると、結末はハッピーエンドな感じだが、はたして監督や脚本家はそう観てほしいと思って制作したのか。結末部分からエンドロールが流れる時にシューベルトのセレナーデが静かにかかっていた。セレナーデは、恋人の家の窓の下で演奏する音楽で、シューベルトが詩人レルシュタープによる詩に音楽をつけたもの。詩の内容は恋する人への想いをせつせつと歌い上げるもの、これとこの映画の父子の関係とに何か暗喩があるのか。
  • このセレナーデを含む「白鳥の歌」は未完に終わったが第7曲まであり、さらに第8曲から第13曲まではハイネの詩に音楽をつける予定だった。これらの詩を全部読めば監督や脚本家が暗示していることも分かるかもしれないが、セレナーデのもの悲しいメロディーはハッピーエンドではないよ、と言っているようにも思う。シューベルトは「冬の旅」などで恋に破れる若者の詩に作曲している。なんとなく和解したように見えるが、結局はこの先、破局を迎えることを暗示しているのではないか、だとしたら、この単純でないところがフランス映画らしいと言えよう。
  • ミラノスカラ座の芸術監督というポジションはフランス人指揮者が喉から手が出るほどほしいものとして描かれているが、はたして本当にそう感じているのか。フランス人の気質からすると、表面上は「何だ、そんなもん、何がスカラ座だ」となるのではないか。確かにクラシック音楽はオペラにはじまり、それはイタリアで始まって全盛を迎え、フランスやドイツに普及していった歴史がある。しかし、そうだとしてもフランス人というのはスカラ座なんかよりパリオペラ座が最高のものと思っているのではないか。たとえ心の中ではスカラ座にも憧れていても、そうとは簡単に言わないひねくれたところがあるような気がするけど。

クラシック音楽ファンであれば観て良い映画だと思う。