白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

一力七段‐安達四段戦(棋譜紹介)

2016年10月31日 23時20分16秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
囲碁ライターの内藤由紀子さんから、最近出版された本を頂きました。



木谷実九段「木谷道場」については、ひらつか囲碁まつりの記事で触れました。
その木谷道場のエピソードをまとめた本です。
門下の棋士をはじめてとした、道場に関わった方々の思い出が記されています。

木谷九段は明治の終わりの生まれですから、木谷道場は歴史の中の1コマというイメージがありました。
しかし、よくよく考えてみると、木谷道場は37年間にも渡って続きましたから、私が生まれる10年ぐらい前まで存在していたのですね。
既に鬼籍に入った棋士も多い一方、小林覚九段など、まだ50代の棋士もいます。
木谷九段は、一流棋士になってからの大半の時間を、弟子と共に過ごしてきたのです。
そんな事ができるのは、囲碁をこの上なく愛していたからでしょうね。
この本のエピソードを読むと、木谷九段がどんな思いで弟子たちを育てていたのか、伝わってくる気がします。


さて、本日は幽玄の間で中継された対局をご紹介します。
第42期名人戦最終予選、安達利昌四段(黒)と一力遼七段の対局です。
この碁は、棋士である私が見ても全く分かりませんでした。
完全に2人だけの世界に入ってしまっている感じですね。
それでも、分かる部分だけ皆様にお伝えしましょう。
一手一手の意味が分からなくても、両者が必死に戦っている雰囲気を感じ取って頂きたいですね。



1図(実戦黒15)
右上、黒△までは定石進行であり、自然な石の流れです。
ここから白Aと上辺に迫ったり、白Bなどと右辺に迫る手などが定石になっています。
ところが、一力七段の選択は違いました。





2図(実戦白16~白20)
右上を無視して、白1、3、5と足早に展開!
通常、弱い石を放置する手は良くないとされます。
しかし白はあえて守らず、右上の石を捨てるつもりで打っているのです。
黒Aあたりに打たれると取られるのですが、その状態は黒石6つに対して白石2つです。
差し引き黒が4手かけたと考えれば、取っても効率が良くないだろう、と主張しました。
石の効率を重視した作戦です。





3図(実戦黒21)
一力七段の工夫に、安達四段も触発されたのでしょうか?
黒Aと打って白Bと交換するのが定石ですが、それを打たずに黒1と大場に向かいました。
その理由としては、白Bに石が来ると、右上の黒勢力がぼやけてしまうという事があります。
その代わり、白Aと打たれるとシチョウに取られるのですが・・・。





4図(実戦白22~黒27)
白1の抱えを待って、黒2のシチョウ当たり!
白3の一手ですが、黒4の連打から黒6へ先行して、黒もスピードで対抗しました。
序盤でポン抜きを許すのは珍しいですが、黒は白△がいらない石だと主張しています。
これもやはり、石の効率を重視した作戦です。
単に作戦だけではなく、安達四段の気合も感じる進行です。





5図(実戦白40)
その後、白△と下がった場面です。
中央の黒も心配ですが、下辺の黒の方が弱いので、まずそちらを守る所です。
守り方としては、中央の黒に悪影響を与えないよう、黒Aとしっかり守る手が思い浮かびます。





6図(実戦黒41~黒53)
ところが、安達四段は黒1~15まで、下辺を目一杯に広げました!
この打ち方、下辺黒の姿だけ見れば素晴らしいのですが、中央に白の壁ができるので、中央の黒が弱くなります。
しかし、そこは力でなんとかしようという事でしょう。
力自慢の安達四段らしい、豪快な打ち方です。





7図(実戦白72~黒77)
その後、攻めを小休止して白1へ向かいますが、間髪入れず黒2の踏み込み!
白3と中央の黒の急所に迫ったのに対しても、構わず黒6!
気合で前へ、前へと進んでいます。





8図(実戦白110~白112)
その後の難解な戦いの中、白1、3が鮮やか!
黒Aには白B、黒C、白Dと進んで、黒は粘りの無い姿になります。
黒、困ったように見えますが・・・。





9図(実戦黒113~121)
「困った時は手を抜けという」格言(?)があります。
ひとまず、黒は中央の凌ぎに戻りました。
黒1を打っておいてから黒3と打ったのが意味深な手順です。
黒9の後、白は3子を逃げる事ができません。





10図(変化図)
白1と逃げても、黒6が先手になり、黒8までゲタで取られます。





11図(実戦白122~黒125)
という事で白1と抜き、黒2と取らせたのは仕方ありません。
白3は気付き難い手ですが、白全体の眼形を確保した意味があります。
そこで黒に先手が回り、黒4と再び上辺に戻りました。





12図(実戦白126~黒131)
白5まで、先手で白地を大幅に削りながら生還、黒6と下辺の囲いにも回りました。
黒、目一杯の頑張りを見せましたが・・・。





13図(実戦白132~白140)
白1、3で確実に生きを確保、白5、7も先手で打ち、白9に回りました。
こう打たれてみると、白△は取っているものの、全体の黒がまだ生きていません。
しかし、手を入れているようでは、白の勝ちは明らかです。
安達四段、覚悟を決めて、手を入れずに頑張ります。





14図(投了図)
白△となって、安達四段投了しました。
黒Aには白B、黒Cとなって白が先手生き、そして白Dと打たれると中央の黒が3目中手で死にます。
黒、覚悟の討ち死にでした。


最終予選のトーナメント表をご覧頂くとお気付きになるでしょうが、10代、20代の棋士が物凄く多いのです。
囲碁界の世代交代は、着実に進んでいます。
そして、この対局に勝った一力七段は、リーグ入りをかけて羽根直樹九段と戦います。
昇竜の勢いの一力七段を、「四天王」の一角である羽根九段は止められるでしょうか?
また一つ楽しみな対局ができました。
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攻めを貫く

2016年10月30日 23時21分07秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
大学囲碁部のリーグ戦は残念な結果になりました。
悔しさをバネに、また頑張って欲しいですね。

さて、本日は有楽町での指導碁を題材にします。
題して「攻めを貫く」です。
今回登場する黒さんは有段者~高段者なので、そのぐらいのレベルの方向けの講座という事になります。
級位者の方であれば、必ずしも真似をする必要はありません。
強くなれば、いずれこういう打ち方ができるようになる、と知って頂ければ十分です。
もちろん、失敗を恐れないのであれば、チャレンジして頂くのも良いでしょう。



1図(テーマ図1)
5子局です。
黒1と左上隅を守り、白2と入られました。





2図(テーマ図2)
黒1、3と攻めかかりましたが、白4と黒の根拠を脅かしてきました。
黒、どう対応しますか?





3図(実戦)
実戦は黒1、3と受けました。
一つのパターンですし、迷わずこう受けられる方が多いですね。
しかし、これは守り第一の手です。
白4までと進むと、まだ心配だった白△が強い石に変わってしまいました。
そして右上黒は、まだ白Aを狙われています。
それを防いでいるようでは、右辺白への攻めのチャンスも逃してしまうでしょう(実際にそうなりました)。





4図(正解①)
置碁で白が強い手を打ってくると、気圧されてしまう方が多いですね。
しかし、黒が石数の優位を保っている限り、戦いは黒が有利なのです。
相手が強い手を打ってきたのであれば、必ず隙が生じています。
そこを衝いて行かなければいけません。

黒1、3など、白の左右を分断しに行くのが正解です。
黒1や3で、黒Aと打つなども良いでしょう。
常々お話ししているように、悪い形でなければ、色々な打ち方があります。
発想を間違えない事が大事です。





5図(正解②)
白は分断されたので、とりあえず隅を生きました。
黒も4、6と自分の石を守っておくと・・・おや、外側の白が随分心細いですね?
外側に黒石が増えた分、周囲の白石がさらに弱くなっているのです。





6図(正解③)
黒2から2つの白を裂いて行くと、どちらの白も心配になります。
典型的な「絡み攻め」で、白は苦しくなりました。
1図黒1と守った手も、上辺白への攻めとして働いている事がお分かり頂けるでしょう。





7図(正解変化①)
黒1、3に対し、左右を分断されたくないと、白4から連絡を目指すかもしれませんが・・・。





8図(正解変化②)
そこは無理に遮らず、黒1から連絡させておいて十分です。
序盤で2線を6本も這っては、あまりにも効率が悪く、碁は即負けといっても過言ではありません。
黒11までの攻めも厳しく、黒楽勝です。


上手に攻めの姿勢を見せられると、怖がってしまう方が非常に多いですね。
しかし、そこで冷静になる事が大切です。
上手の力と自分の力を比べる必要はありません。
比べるべきは、黒石の強さと白石の強さです。
明らかに黒石の方が強いのであれば、相手が上手でも遠慮する必要はありません。
積極的に攻撃を仕掛けましょう!
時には失敗する事もあるでしょうが、間違いなく上達への近道になるでしょう。
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部分の形・効率の良い形

2016年10月29日 23時35分45秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
現在、関東の大学囲碁部のリーグ戦が行われています。
リーグ戦には、私の出身である中央大学囲碁部も参加しています。

駅伝と同様、囲碁部もかつて名門と呼ばれました。
このリーグ戦でも、18回の優勝を誇っています。
最年長の河合哲之五段以下、プロも4人輩出しています。
しかしいつしか優勝から遠ざかり、近年では1部リーグ(上位8校)と2部リーグを行ったり来たりしています。
そして今回はアクシデントもあり、3部陥落の危機・・・。
ちなみに中央大学は、リーグ戦創設以来80年間、3部に落ちた事がありません。
駅伝とそっくりの状況ですね。

長年守ってきた伝統とは、重みがあるものです。
強い気持ちで、しかし責任は感じずに頑張って欲しいですね。
結果がどうなろうとも、OBとしては現役部員の頑張りを応援します。
明日の最終日は日本棋院で行われるそうなので、見に行こうかな。


さて、本日は久しぶりに五反田での指導碁を題材にしましょう。
テーマは部分の形効率の良い形です。



1図(テーマ図)
白△と打たれた場面です。
黒、どう打ちますか?

ここまで、黒はしっかりした形の手をノータイムで選んでいました。
その雰囲気から、次にどこに打たれるかは分かっていました。





2図(実戦)
実戦は、ノータイムで黒1と打ちました。
△からのケイマであり、ここだけ見れば自然な形です。
しかし、問題は黒〇の存在です。
この図で黒〇は、一手の役割を与えられているでしょうか?





3図(続・実戦)
白5まで、隅に根拠と地を確保したのは大きな手です。
全体の白が、ゆったりした事が感じられるでしょう。
碁は一手打つごとに、大きく景色が変わるゲームです。
では、黒△によって景色が変わっているでしょうか?





4図(参考図)
前図から黒AとBを抜かしてみました。
ここから2手かける事に、効率の悪さを感じませんか?
どちらか1手だけで十分であり、もう1手は他に回した方が良さそうですね。

碁の上達には、石の形を学ぶ事は欠かせません。
しかし、多くの方が見落としている事ですが、石の形には2種類あります。
それが部分の形効率の良い(悪い)形です。

例えば「ポン抜き」は良い形ですし、「空き三角」や、「2目の頭」をハネられた形は、悪い形といわれています。
ここで言う形とは、部分の形です。
部分の形を覚えておくと、石が取られるようなケースが減りますし、逆に相手の形を崩す事もできるようになるでしょう。

しかし、部分の形を覚えるだけでは、石の形は半分しか身に付いていません。
もう一つ石の形として重要なのが、効率の良い形です。
基本的に石は、手をかければかけるほど強くなります。
しかし、1手で済む所を2手、3手かけてしまうと、効率が悪くなります。
酷い場合には、丸々1手、2手パスしたも同然の結果になってしまう事もあるでしょう。
お互いに1手ずつしか打てないゲームですから、序盤・中盤でパスしてしまうとなかなか勝てません。
パターンとしての部分の形と、周辺の状況に合わせた効率の良い形、両方学ぶ必要があります。
特に有段者が高段者を目指すような場合は、絶対に避けては通れません。

ちなみに、よく中国や韓国のプロは形に拘らないと言われますが、その意味を誤解されている方が多いように思います。
実際は、彼らも石の形を非常に重視しています。
形に拘らないのではなく、部分の形に拘らないのです。
その分、効率の良い形を心がけて打っています。
プロによって、それぞれの形への比重の置き方が違うだけなのです。






5図(正解その1)
さて、それでは正解を見ていきましょう。
といっても、唯一絶対の正解がある訳ではありません。
碁は自由ですから、悪い手を打たなければ、色々な打ち方ができるのです。

まず、読みに自信がある方なら黒1の押さえです。
これで隅を守るというのは、部分の形ですし、同時に効率の良い形でもあります。
何故効率が良いかと言えば、この手は隅を守るだけの手ではないからです。
1手で複数の意味がある手は、効率が良いと言えます。





6図(続・正解その1)
下辺の白を守らなければ、黒2から動き出す狙いがあります。
黒14まで、前図の押さえが働き、黒攻め合い勝ちとなります。
尤も、これは高段者クラスの読みが必要ですから、この図を目指さなければいけないという事ではありません。
前図の押さえが、効率が良い手である事の証明です。





7図(正解その2)
中央を止められそうで心配、という方もいらっしゃるでしょう。
それなら、効率の良い形で守りましょう。
黒1が一例です。
ただ中央に頭を出すだけではなく、具体的な狙いを持っている事がポイントです。





8図(続・正解その2)
白が下辺を放っておけば、ここでも黒2が狙いになります。
黒8まで、△が働いて脱出できます。





9図(正解その2・変化)
黒1に白2と守れば、先手で中央に進出できたことになります。
黒3、7と大場に回り、3図とは1手の差が生じました。





10図(正解その3)
そもそも、右辺の黒が強いと見れば、最初から黒1と大場に向かう事も可能です。
黒7まで、やはり3図とは1手違います。


如何ですか?
悪い手を打っていない筈なのに上手くいかない、とお悩みの方は多いと思います。
しかし実際は、効率の悪い手を打ってしまっているケースが多いのです。
多くの方に共通の弱点ですから、上達にお悩みの方は、確認してみましょう!
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余-清成戦(棋譜紹介)

2016年10月28日 23時59分59秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
本日は昨日の名人戦の裏で行われていた対局をご紹介します。
第42期名人戦最終予選、余正麒七段(黒)と清成哲也九段の対局です。
来期の名人挑戦を目指す戦いですね。
大熱戦となりましたので、皆様にもご紹介しましょう。
なお、総譜は幽玄の間でご覧頂けます。



1図(実戦白8)
白△はあまり見慣れない手かもしれませんが、古くからある手です。
1960年の橋本昌二九段梶原武雄九段の対局にも出現しました。
その碁は、次に黒Aとじっくり打った所で、なんと封じ手!
有名な「今日の蛤は重い」の1局ですね。
その話は、中山典之七段の「実録囲碁講談」等に収録されています。
本局も確か、殆ど配置は同じ筈です。





2図(実戦黒9~黒17)
ところが実戦は余七段、黒1から強引に白を押さえ付けていきました。
現代の棋士は、序盤から厳しい手を打っていく傾向があります。
白も2と強く対応したので、必然的に戦いが始まりました。





3図(実戦白30)
その後、白1と黒に食い付いていったのも凄い手です。
この手では白Aとでも打っておけば無難ですが、守るだけでは不満とみたのでしょう。
ベテランの清成九段も、非常に気合が入っている事が感じ取れます。





4図(実戦黒31~黒39)
黒3、5に石が来て、中の白が弱くなっています。
しかし、白8と当てて黒の眼を奪い、あくまで黒に食い付いていきました。





5図(実戦白40~白48)
白3~7は、所謂「車の後押し」で、悪手の見本とされます。
あえてそれを打ったのは、白9に先行するためです。
右辺の黒4子を狙っています。





6図(実戦黒49~白54)
黒1と守りましたが、白2、4を打っておいて、さらに白6と追及しました。
黒AやBと手を入れてください、という手です。





7図(実戦黒55~黒61)
が、目一杯の打ち方を好む余七段は、ただ生きるだけの手は打ちません。
黒1、3と逆に白に迫りました!
黒7までと進み、白Aなら黒Bと生きる手が、白への攻めにもなります。
それでは白は何をやっているのか分からないので・・・。





8図(実戦白62~白66)
勢い、白1と黒の眼を取りに行きました!
黒も2と反発して、白5子との攻め合いに発展しました。
序盤早々、大変な事になったものです。





9図(実戦黒85)
その後、こんな形になりました。
右辺は黒Aと当てれば、白Bと取ってコウになります。
しかし、黒には大きなコウ立てが見当たりません。
そこで、黒△とコウ立て作りにいきました。





10図(変化図)
白1と受ければ、そこで黒2を決行しようという事です。
右辺を取られても、黒4、6と連打すれば黒良しです。
外側が真っ黒ですし、左上の形も白がバラバラです。





11図(実戦白108~白110)
その後、実戦もやはりコウになりました。
白は右辺の黒を取っても、コウ立てでどこかに連打されては、勝てそうもない状況になっています。

そこで、逆にコウを譲り、白1、3と切っていきました!
黒がコウに勝った事で、中の白は黒Aと打たれると眼が無くなります。
しかし、その前に要の黒△、〇、✖から連なる一団のいずれかを取ってしまおうというのです。
白、決死の勝負手です!





12図(実戦白126)
その後、白△と打った場面です。
中の黒が危なくなっていますし、下辺の黒もはっきり生きている訳ではありません。
そして中央の白も、Aと打てば生きられます。
白にチャンスが来たように見えましたが・・・。





13図(実戦黒127~黒131)
ここで何と、黒1~5と反撃!
しかし、中の黒は大丈夫なのでしょうか?





14図(実戦白132~黒141)
白1、3で、中の黒6子は取られました。
しかし黒10まで、被害を中の6子だけに限定しては、あっという間に黒の勝ちが決まりました。
黒はコウに勝ったので、既に大きな利益を挙げているのです。
鮮やかな捨て石作戦で、白投了となりました。





15図(投了後)
投了後、白1から追及しても、うまくいきません。
攻め合いの関係で白7に手を入れなければならず、黒8に回られてしまいます。
その後白9と切っても上手く行かない事は、勿論両者読み切りです。
次代を担う若手と百戦錬磨のベテランの、物凄い力比べの一局でした。

勝った余七段、次はこの碁に勝った平田智也七段と、名人リーグ入りをかけて戦います。
どんな戦いになるのか、楽しみに待ちたいと思います。
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井山名人、3連勝!

2016年10月27日 22時40分39秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日は名人戦第6局、2日目が行われました。
結果は井山裕太名人が、高尾紳路挑戦者に黒番中押し勝ちを収めました。
これでなんと、3連敗後の3連勝!
決着は最終第7局に持ち越されました。
それでは早速、2日目の模様を振り返っていきましょう。

なお前日同様、この対局は幽玄の間にて、高梨聖健八段の解説付きで中継されました。
また、ニコニコ生放送でも生中継されました。



1図(実戦黒69)
さあ注目の封じ手は・・・黒△のツケコシ!
見事に外れました。
この部分だけ見ればよくある手筋ですが、まさかこの局面で打つとは思いませんでした。
朝日新聞デジタルで解説を務めた望月研一七段は、この手がある事を解説していましたが・・・。
左上の這い以外の手を、一応出してみたという感じで、やはり当たるとは思っていなかったでしょうね。





2図(実戦白70~74)
というのは、実戦のように進むと、左辺黒△が弱くなってしまうからです。
白5の後、黒Aと頭を出す手が自然ですが・・・。





3図(変化図)
黒1と伸びると、このような進行になりそうです。
左辺の黒はまだ生きていませんし、上辺の黒は白Aの打ち込みが心配です。
心配が多すぎて、黒が大変でしょう。
井山名人、失敗したのではないかと思っていましたが・・・。





4図(実戦黒75~黒79)
実戦は、井山名人が予想外の打ち回しを見せました。
黒1~5のコウ仕掛け!
ここで眼形を確保し、黒Aを省略してしまおうという狙いですね。
打たれてみれば、なるほどと思いますが・・・私では絶対に気付きませんね




5図(実戦黒83~黒87)
その後黒1、3とコウを解消、白はコウ替わりで黒△を取りました。
白としては相当な利益です。
しかし黒5と飛んで、黒は白△を丸飲みする態勢です。
思いもよらない大変化になりました。





6図(実戦白88~90)
白は丸飲みされてはたまらないので、動き出していきました。
白1、3は、高尾挑戦者らしい力強い打ち方です。





7図(実戦白112)
その後白△まで、隅の白は完璧に生きました。
後は周りの白がどうなるかの問題です。
地は白が多いので、黒は攻めによって大きなポイントを挙げなければいけません。
ただし上辺や右上隅の黒も不完全なので、上手くいくかどうか?
このあたりの場面を昼休み中に見ていましたが、黒が勝つのは大変なのではないかと思っていました。





8図(変化図)
このように黒がのんびり打っていると、攻めるどころか大きく地を作らせてしまいます。
一瞬にして白勝ちが決まるでしょう。





9図(実戦黒113)
ですが、実戦は黒1!
これが急所なのです。
直接的には黒Aの切りを狙っていますが、他にも上下の白の分断、全体の眼取りと、様々な意味のある手です。
この場面になれば私でも思い付くかもしれませんが、井山名人はずっと前から見ていたのでしょう。
そこが名人と並の棋士の違いですね。





10図(実戦白114~白118)
白5まで進行しましたが、白全体の眼が無くなっています。
8図とは全く違いますね。
これが急所の効果です。
次に黒Aの切りが目に付きますが、上辺の黒が弱いので・・・。





11図(実戦黒119~黒123)
黒1と上辺を補強し、白2を待ってから黒3と切りました。
自分の弱い石を守りながら攻めるという、攻め方のお手本ですね。
もう上辺の黒は安全とみて、白4には黒5と強気に攻めました。





12図(実戦白124~白126)
しかし、白1、3と反撃が来ました。
白AとBを見合いにしていますが、黒大丈夫でしょうか?





13図(実戦黒127~黒131)
もちろん、井山名人には対策がありました。
黒1、3でぎりぎり凌いでいます。
さらに白4の手筋が飛んで来ましたが、ここも黒5が好手で凌げています。





14図(実戦白132~白140)
黒8となって、上辺の黒は生きました。
後は周辺の白がどうなるかです。
まず白9と、こちらの凌ぎを図りました。
黒Aと出口を止めると、白Bで黒2子が危なくなります。
黒としては、何か対策しなければいけませんが・・・。





15図(実戦黒141)
実戦は、黒1の格好良いツケ!
白Aと受ければそこで黒Bと打ち、白Cには黒Dで脱出できます。
このツケは、幽玄の間解説の高梨八段が予想していましたね。
「井山名人が打ちそうな手」という事でしたが・・・なるほど、いかにもという感じです。





16図(変化図)
ツケに対して白1と出て来れば、そこで黒2と守るのが良い調子です。
次に黒AとBが見合いで、白が困ります。





17図(実戦黒141~黒143)
実戦は黒1のツケに対して、白2と左辺の白を守りましたが、黒3に回り、今度は上辺の白が危なくなりました。





18図(実戦白144~黒151)
白1から懸命に凌ぎを図りますが、一転して黒8!
今度は左辺の白の攻めに戻りました。
目まぐるしい展開です。





19図(実戦白152~黒157)
左辺の白を生きていると、また上辺の白が危なくなりそうなので、開き直って白5まで守りました。
しかし黒6となって、いよいよ左辺の白がピンチです。





20図(実戦白158~黒163)
白1から眼を作ろうとしますが、黒6が決め手です!
井山名人は、ここで勝ちを意識したとの事でした。
次に白Aと受けていれば、左辺の白は生きられるのですが・・・。





21図(変化図)
白1には黒2が先手になるので、黒4、6の出切りが成立します。
中央の白が取られてしまいます。
<追記>上辺か中央の白が取られてしまいます。





22図(実戦白164~黒167)
白1、3と、黒Aを防ぐ打ち方を選択しましたが、黒4でとうとう白の命がかかったコウになってしまいました。
最終的にはコウ替わりで右辺白△が死に、黒の中押し勝ちとなりました。


1日目は井山名人の足早作戦、高尾挑戦者の手厚さが目立った進行でしたが、2日目は一転、井山名人が猛攻をかける展開になりました。
高尾挑戦者が悪い手を打ったようには見えませんでしたが、結果的には井山名人が上回りました。
見所の多い名局だったと思います。

さあ、次はとうとう最終局です!
最終局というのは盛り上がるものですが、それが3連敗からの3連勝となればひとしおですね。
最初に高尾挑戦者が3連勝した時は、ちょっと心配していました。
せっかくの名勝負が、4局で終わってしまうのではないかと・・・。
ですから普段は中立の私も、今回ばかりは途中から井山名人を応援していました(笑)。

しかし、まさか本当にここまで来れるとは・・・。
第4局以降、毎局調子を上げて行く井山名人には戦慄すら覚えました。
途中に王座戦天元戦を挟む過密スケジュールでしたが、むしろ集中力を増す結果になったようです。
間違いなく、最終局にも最高の状態で臨むでしょう。
一方の高尾挑戦者も、このシリーズでは毎局自分らしさを発揮して来たと思います。
百戦錬磨の高尾挑戦者の事ですから、最終局でも全力を出し切れる事でしょう。
最終局では、一体どんな名局が生まれるのでしょうか?

最終第7局は11月2日(水)、3日(木)に山梨県甲府市「常磐ホテル」で行われます。
間違いなく、後世に語り継がれる一局になるでしょう。
絶対に見逃せない戦いです。
お楽しみに!
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