白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

Master対棋士 第35局&ブログ休止のお知らせ

2017年04月09日 23時08分44秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
五反田の指導碁教室も、間もなく1周年となります。
新しくやりたい事は色々ありますが、仕事が溜まり過ぎて何もできない状況です。
来月から本格的に動き出すとしましょう。

また、仕事に専念するため、当ブログも2~3週間ほど更新を休止します。
その間私の生存が心配な方は、ツイッターをご覧ください(笑)。

さて、それでは連続更新最終369日目は、Masterの棋譜紹介を行いましょう。
対局相手は江維傑九段(中国)です。
江九段は現在26歳、2012年にLG杯で世界戦優勝を果たしています。



1図(テーマ図)
左下はツケ引き定石からの変化ですが、白△は比較的珍しい手です。
と言っても、何十年も前からある手で、現在も時々見かけます。

そして、今回のテーマは左上です。
これも何十年も前からある型ですが、非常に変化が多く、絶えず改良が行われて来ました。
手順中のこの黒1は大きな発明で、初期は黒Aと押さえていたようです。
しかし、黒Aは空き三角の形になる手なので、現在は黒1と打つ事が殆どです。





2図(変化図)
黒Aでも黒△でも、白は次に1と押さえるのが定石です。
それに対して黒2と守った時、黒△がタケフで2子と繋がる好形になっています。
これは空き三角になる黒Aに比べて明らかに勝ります。
ただし、黒△は離れた手なので、隙間を衝いて来る手に対策が無ければいけません。





3図(実戦)
それが白1、3で、隅の黒1子を取る事ができます。
しかし、黒8と切れば黒良しというのが多くの棋士の感覚でした。
白△の2つが腐っているように見えるからです。
ですから、白1を心配する必要は無いとされ、プロの実戦には殆ど現れていない筈です。
(少なくとも、私は1局も見た事がありませんでした)

ところが、Masterは平然と(?)この打ち方を採用!
とても白が打てるように見えないのですが、Masterは全60局中、この型を3回も採用しています。
そして、その打ち方を見たプロが研究した結果、公式戦にも数多く現れるようになりました。
Masterの打ち方の中でも一番人気かもしれません。





4図(実戦)
左上は黒の厚みに見えますが、そこに白1と近寄って行くのがポイントです。
白5までとなり、次に白Aが狙いです。
白△を救出できれば黒を分断できますし、黒Aと一手かけさせれば、それはそれで白△が役に立った事になります。
つまりMasterは、白1と打てば白△は腐らないと言っているのですね。

この打ち方は人間にも意図が分かり易いので、比較的真似し易いと言えるでしょう。
ただし上辺の白が狙われるので、捌きが得意な方向けと言えます。


それでは、これにてしばらく休みに入ります。
再開いたしましたら、またよろしくお願いいたします。
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本日の出来事

2017年04月08日 23時43分14秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
本日は永代塾囲碁サロンにて指導碁を行いました。
お越し頂いた方々、ありがとうございました。

永代塾ではゴールデンウイークに集中上達講座を行うそうです。
一応宣伝しておきます(笑)。

さて、今回は今日打った指導碁を題材にします。
と言っても、上達には一切役に立たない小ネタですが・・・。



1図(実戦)
3子局です。
白1とカカり、黒2の挟みに対して白3と三々に入りました。
次に黒AとB、どちらが正解でしょうか?
という問題は良くありますが、今回はそんな真面目な題材ではありません(笑)。





2図
その後、黒が下辺に大模様を張り、突入した白△を攻める展開になりました。
ここで私は、白1とツケる手を「発見」しました!
黒の受け方に応じて、中央の打ち方を決める作戦です。

当然のように打った手ですが、この手には大きな問題がありました。
皆さんは気付きましたか?
無理手、味消し・・・そういったレベルの問題ではありません。





3図
1図で黒はAではなく、△の位置に挟んでいたではありませんか!
途中で石がずれていたのです。
そして、私は本来石がある所に打ってしまいました。
碁には「石の下」という手筋がありますが、これはまさかの石の上です。

多面打ちの指導碁では碁盤を見ていない時間がありますから、稀に2手打ちをしてしまうような事もあります。
しかし、こんな事は初めてです。
石がずれる事はそう珍しくありませんが、普通は新たにその位置に打ってしまう前に気付きますからね・・・。
もちろん、指導碁なので無かった事にして続行しました(笑)。

こんな事がプロの棋戦で起こった例を知りませんが、ルールからすればこれは両負けになるケースでしょうね。
秒読みの無いアマの大会では、持ち時間が残り少なくなった時に盤面がぐちゃぐちゃになる事もあるので、同じような事も起こっている筈です。
しかし、両負けになったという話はあまり聞かないので、そこは両対局者の合意など、超法規的措置?が行われているのかもしれませんね(笑)。
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手合日雑感その2

2017年04月07日 23時59分59秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
まずはお知らせです。
明日は永代塾囲碁サロンにて指導碁を行います。
その場で対局の棋譜をお渡しするサービスも行っております。
ご都合の合う方はぜひお越しください。

また、ツイッターの日本棋院若手棋士アカウントの担当者が、上野愛咲美初段から田尻悠人四段に交代しました。
初代担当者の田尻四段、2回目の登板です。
面白い投稿を期待しましょう。

さて、本日は昨日に引き続き、幽玄の間で中継された対局についての感想を述べたいと思います。

<本因坊戦リーグ>
棋聖戦名人戦本因坊戦は所謂三大棋戦と呼ばれています。
リーグ戦形式を採用している事は同じですが、運営方法はそれぞれ違います。
本因坊戦リーグの特徴として、8人中4人が陥落するという厳しさがあります。
なお、本因坊戦のウェブサイトはこちらです。

〇本木克弥七段-黄翊祖八段
棋士の対局では勝てば1、負ければ0という事はよくあります。
しかし、挑戦者争い中の黄八段には、マイナス(陥落)になる危険もありました。
こんな重たい1局もあるのですね。
結果本木七段が勝って挑戦権を獲得しましたが、黄八段も陥落は免れました。
黄八段は複雑な気分でしょうね。

〇羽根直樹九段-張栩九段
「四天王」対決その1です。
張栩九段は稀に三々打ちの趣向を見せる事がありますが、この大一番で採用したのは気合の現れだったでしょうか?
二人の碁らしい持久戦模様でしたが、気が付いたら羽根九段が勝勢になっていましたね。

〇高尾紳路名人-山下敬吾九段
「四天王」対決その2です。
力と力がぶつかり、何とも派手な1局でしたね。
羽根-張戦と比べると、とても同じゲームとは思えません(笑)。

〇結城聡九段-三谷哲也七段
既に陥落の決まった両者の対決でした。
しかし、プレッシャーが無いからこそ思い切った事ができる意味もあります。
序盤早々、ハメ手の本に載っていそうな手を仕掛けて行ったのは、研究熱心な結城九段らしいですね。
積極性が功を奏したか、最後に意地を見せたのは結城九段でした。

<棋聖戦>
棋聖戦Bリーグ、林漢傑七段-王銘エン九段戦はメイエンワールド全開といった1局でした。
昔からこんな打ち方だったような気もしますが、やはりAIに触発されている感もあります。
私には真似できない世界ですね。

マスターズカップ
大竹英雄名誉碁聖は碁界屈指の早打ち、二十四世本因坊秀芳もかなりの早打ちです。
持ち時間各1時間の対局でしたが、2時間かからずに終局しました。
序盤からコウ争いをするような碁で、何故こんなに早く打てるのか不思議です。

<女流本因坊戦>
女流本因坊戦本戦、木部夏生二段-青木喜久代八段戦は、木部二段の豪快な打ち回しが目を引いた1局でした。
しかし、私にとって最も印象的だった場面はヨセに入ってからです。
白石が1線に11本ずらずら並ぶ珍形!
勝負には全く関係ありませんが、滅多に現れない光景にちょっと感動しました(笑)。
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手合日雑感その1(十段戦、本因坊戦等)

2017年04月06日 23時52分32秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
本日は扇興杯(協賛・センコー株式会社)2回戦、藤沢里菜三段-鈴木歩七段戦の週間碁での解説者として一日中観戦して来ました。
実力に定評のある両者の戦いは熱戦でした。
途中鈴木七段が優勢に立っていましたが、気付いた時には難しくなっていましたね。
藤沢三段の勝負勘は相当なものです。
詳しくは週刊碁をご覧ください。

<十段戦>
森ビル杯十段戦(主催:産経新聞社)第3局は、余正麒挑戦者が敵陣深く踏み込み、それを井山裕太十段が猛然と取りに行く驚きの展開に!
一時は井山十段防衛の声が支配的でしたが、そこからの余挑戦者の粘りが素晴らしかったですね。
難解な読み合いを制して、余挑戦者が見事初勝利を挙げました。
やはり、こうした複雑な碁では持ち味が存分に発揮されるようです。
第4局も楽しみになりました。

<本因坊戦>
また、本日は本因坊戦毎日新聞社主催)リーグ最終戦の4局が一斉に行われました。
そして、今回はその4局を全て幽玄の間で生中継!

本因坊戦リーグは毎日新聞に観戦記が載りますから、今まで棋譜は外部に公開されていませんでした。
それをあえて公開して頂けたのは毎日新聞社の英断だと思いますし、棋士としては非常に嬉しく思います。
これが新聞観戦記の需要に繋がれば、こうした試みが今後も続けられる事でしょう。
宣伝の仕方など、棋士も努力が必要ですね。

肝心のリーグ最終戦の結果ですが、本木克弥七段が黄翊祖八段を破り、見事挑戦権を獲得しました!
本木七段らしい、ストレートな戦いぶりが印象的でした。
タイトルを争うような棋士は、碁に信念を感じます。
七番勝負でどんな碁を見せてくれるのか、楽しみに待ちましょう。
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Master対棋士 第34局

2017年04月05日 23時58分00秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
本日で、2016年4月6日からの365日連続更新達成となります!
更新が厳しい時も、この目標を達成するために頑張って来ました。

当ブログはアルファ碁の記事から始まりました。
そこで、節目の回もアルファ碁の記事にしましょう。
Master対棋士 第34局、党毅飛九段(中国)との対局です。
党九段は22歳、今年のLG杯で世界戦初優勝を果たしました。



1図(テーマ図)
白△と隅を守り、同時に左下黒の根拠を奪いました。
黒の対応が問われています。





2図(変化図1)
弱い石を逃げ出す、黒1は素直な手です。
ただ、白6までと飛び合う展開は、黒にとって少し不満があります。

左辺は黒石が増えましたが、白△の構えは堅固であり、何ら影響を受けません。
一方、黒△の構えはいかにも薄く、どこからでも入って来られそうです。
2間締まりの弱点が目立つ進行です。





3図(変化図2)
逃げても上手く行かないとなれば、当然捨てる事を考えます。
人間としては、まず黒1、3のような打ち方が思い付きますね。
右下を中心に、黒模様を大きく広げて行く作戦です。





4図(実戦)
ところが、Masterは左辺から持って行きました!
黒1、3、5と利かし、一転して大場へ向かっています。

こういうパラパラした打ち方は、人間にはなかなか思い付きません。
3図なら黒石が明らかに右辺にプラスになっていますが、本図の黒1、3、5は右辺との連携が希薄です。
しかし、Masterは全局的に、将来的にはこちらの方が役立つと見ているのです。
具体的な手としてはAとBがありますが、それらは実際に盤上に現れます。





5図(実戦)
後に黒1が良いタイミングで打たれました。
白3と押さえるのは黒Aの当てを利かされ、つらすぎます。
実戦は白2と反発しましたが、黒3と連打して根拠を万全にしつつ、地を得する事ができました。





6図(実戦)
また、黒1の押さえにも回る事ができました。
白10の受けに黒11と打って全体が繋がり、中央に地ができそうです。
黒△が立派に役立っている事が分かります。

もちろん、Masterが当初からこうなる事を想定していた訳ではありません。
膨大なシミュレーションの中で、本図も含めて黒△が役立つ展開が数多く存在したという事でしょう。
当然ながら、人間には不可能な判断方法です。
ですから、ただMasterの手を真似しても上手く保証は全くありません。
人間の考え方で理解する事が必要でしょう。

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