白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

封じ手予想

2018年01月31日 21時18分04秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日は棋聖戦第3局の1日目が行われました。
井山棋聖が3連勝となるか、一力挑戦者が1勝を返すか・・・。
この1局は非常に重要ですね。



1図(実戦)
一力挑戦者の黒番です。
黒1の低い受け、そしてそこに潜り込む白2、4・・・。
一昔前では考えられなかった進行です。
AIの影響力は大きいですね。





2図(実戦)
黒△には驚きました。
この局面、私には黒Aと打って白×を制する手しか思い付きません。
一力挑戦者と同じ手を打つ棋士はほとんどいないのではないでしょうか?
あえて難しい戦いを求める、気合の一手です。





3図(実戦)
本日最も感銘を受けたのがこの一手です。
黒Aの割り込みを防ぎながら白Bの切断を見ていますね。
どっしりと腰を据えた一手で、地味ながらも迫力があります。
流石の一手だと思いました。





4図(打ち掛け局面)
白△と打った場面で打ち掛けとなりました。
黒×と白×、黒〇と白〇がそれぞれ競り合っている状況です。

左右どちらの戦いを優先するべきか?
また、その着点は?
何時間かけても結論が出せそうもない、難解な局面です。
簡単だった前局とは大違いですね。





5図(封じ手予想)
封じ手予想は黒1のツケにしました。
有名な手筋であり、プロはまずここに目が行きます。

ただ、これで上手くいくかは別問題です。
正直なところ、当たっている確信は全くありません。
確信があれば当たるというものでもありませんが・・・。

明日の展開も全く予想できません。
激戦に突入する可能性もありますね。
明日もぜひご覧ください。

なお、私は河野臨九段と対局します。
こちらも幽玄の間で中継されますので、よろしければご覧ください。
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書評・第15回 堅塁秀和

2018年01月30日 23時33分41秒 | 書評

皆様こんばんは。
本日は久しぶりに書評シリーズです。
今回扱う題材はこちらです。

歴代最強の囲碁棋士は誰か?
そう聞かれれば、多くの棋士は本因坊道策と答えます。

では、江戸時代で最も有名な棋士は?
それは恐らく、本因坊秀策でしょう。
ヒカルの碁を読んで知った方も多いと思います。
実力と人気を兼ね備えた存在と言えます。

本書の主人公である本因坊秀和は、その秀策の師匠です。
秀和は悲運の棋士とも言われます。
名人になるべき力量を持ちながらも、幕末の混乱期の中ついに八段止まりでした。
また、将来を託すはずの秀策も早世するなど、後年は本因坊家当主として苦しい時代を過ごしました。

ですが、秀和は600局以上の棋譜を残しました。
その中には井上因碩(幻庵)との熾烈な勝負碁なども含まれています。
また、弟子の秀甫や実子の秀栄はそろぞれに大きな業績を残しました。
秀和もまた、囲碁の歴史に大きな足跡を残しているのです。

本書は棋譜の解説本ですが、時代背景や登場人物のエピソードにも力が入っています。
碁盤を通して、物語を観賞するつもりで楽しめる構成と言えるでしょう。
著者の福井正明九段は有名な古碁マニアですが、いかにもという内容ですね。

堅塁秀和とタイトルが付いていますが、秀和の若い頃は黒番で確実に勝つ能力が必要でした。
先述の井上因碩との勝負などはその代表ですね。
強敵を相手にしても確実に数目残す打ち回しは、まさに堅塁と言えるでしょう。

一方で、白番が多くなってからは自由自在の打ち回しを見せています。
ある時は力強く、またある時は軽快にと、どんな碁でも打ちこなしました。
考え方が非常に先進的であり、現代の棋士が見ても驚くことがしばしばあります。
秀甫や後年の秀栄に大きな影響を与えたことは間違いないでしょう。

どちらからも学ぶものが多いですが、私としては白番の碁に大きな魅力を感じます。
常識にとらわれない打ち回しは、観賞していて楽しいですし、自分の碁の幅も広がるような気がします。
古い時代の碁の中に新しい考え方があり、まさに温故知新ですね。


時代が進むにつれて、どうしても過去の棋士は埋もれていってしまうものです。
しかし、残した棋譜の魅力は決して損なわれるものではないと思います。
秀和の碁の魅力を知らない方は、ぜひ本書で確かめてみて頂きたいですね。

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上野二段、女流棋聖獲得!

2018年01月29日 23時59分59秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日は第21期ドコモ杯女流棋聖戦挑戦手合第二局が行われました。
結果はこちらのニュースの通り、上野愛咲美二段謝依旻女流棋聖を破り、2連勝で女流棋聖を獲得しました!
16歳3か月、入段からまだ2年経っていない新星の快挙です。

実力があることは明らかであり、タイトル戦に出てきたことには全く驚きはありませんでした。
それにしても、いきなりのタイトル獲得はやはり凄いです。
内容としても、2局とも普段通りの自分を出せていたと思います。
対局内容は特設サイト幽玄の間をご覧頂くとして、ここでは上野二段の強さを分析してみましょう。

<読みが正確>
読みのスピードが速く、正確です。
30秒の秒読みの中でも、全く乱れた様子が見られませんでした。
最後の決め手なども、何十手も前から見えていたことが伺えます。

<寄せと計算が正確>
読みと関連性が高い分野なので当然と言えば当然ですが、寄せと計算が正確です。
第2局も終盤で盤面10目ぐらいの差かと思っていたら、ぐんぐん差を広げていきましたね。

強いAIの登場で広く知られるようになりましたが、プロでも19×19の広い碁盤の中で正しい答えを出すことは容易ではありません。
ですから、序盤・中盤で大きく形勢を損なってしまうこともあります。
それこそ、ある意味では運によって左右されることすらあります。
しかし、寄せや計算は答えの出やすい分野であり、実力が直接結果を左右します。
そこで強いということは、トップで活躍するために必須です。

<自信>
上野二段の碁を見ていてよく感じることは、「自信を持って打っているな」ということです。
自分の強みを理解しているので、序盤や中盤で無理をしません。
その結果、得意分野での勝負に持ち込むことができるのです。

今回も一方的に押し切ったわけではありませんが、戦いぶりが非常に安定していました。
ですから、謝女流棋聖のミスも的確に咎めることができたのでしょう。


囲碁は男女による有利不利が非常に少ないゲームですから、女流棋士が一般棋戦で活躍しても不思議ではありません。
全体的にはまだ差がありますが、その壁を打ち破れる可能性のある女流棋士もいて、上野二段はその内の1人ですね。
また楽しみな若手が出てきました。
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昇段システム

2018年01月28日 23時59分59秒 | 囲碁について(文章中心)
皆様こんばんは。
本日はプロアマ名人戦が行われました。
井山名人に逆コミで挑戦したのは大関稔アマです。
大関さんは学生5タイトルを独占した時期もあり、アマ最強クラスの打ち手ですね。
対局の模様は幽玄の間で中継されましたので、ぜひご覧ください。
流石に迫力のある戦いでした。

さて、本日は日本棋院の昇段制度についてお話ししましょう。
段位については以前も話題にしましたが、今回はシステムそのものがテーマです。
なお、具体的な規定はこちらをご覧ください。

<タイトル獲得等による昇段>
これは分かりやすいですね。
棋聖を取ったら九段、名人リーグに入ったら七段などがあります。
「飛び昇段」もあり、最近では芝野虎丸三段が一気に七段に上がった事例などがありますね。
近年は若手のレベルが上がっており、飛び昇段する棋士も毎年のように現れています。

また、昇段の条件はなるべく平等になるように設定されています。
ですから女流棋戦はもちろん、予選の無いNHK杯などは対象外になっています。
個人的には、NHK杯で優勝したら七段ぐらいにはなって良いと思いますが・・・。
今のところ六段以下でNHK杯優勝した棋士はいないはずですが、近い将来出てくるでしょう。

<通算勝ち星による昇段>
これも比較的分かりやすいですね。
現在の段になってから、既定の勝ち星を挙げれば昇段できるというものです。

対象棋戦についてはちょっと分かり難いところがあるでしょうが、基本的には参加条件が緩やかな公式戦ということになるでしょう。
新人王戦や広島アルミ杯などの若手棋戦も入っていますが、これは誰にでも若い時期はあるということでしょうか。

また、日本棋士が参加可能な国際棋戦は数多く、予選からの勝ち星を認めているとインフレにつながりそうです。
そこで、国際棋戦は本戦のみが対象となっていますね。

また、誤解されがちですが女流棋戦は対象外です。
男性棋士と女流棋士の昇段条件は全くの平等となっています。
これは大手合があった時代から変わっていません。

<賞金ランキングによる昇段>
年に1回、同じ段の中から1年間の賞金ランキング上位者が昇段します。
ここで言う賞金が実際には賞金+対局料を示していることは、昨日お話しした通りです。

ただし、昇段に関しては対象棋戦がかなり限られています。
具体的には七大棋戦のみが対象です。
主な理由として、通算勝ち星は個人が積み重ねるものですが、ランキングの場合は段の中での競争になるということがあります。
ですから、全棋士参加でない、若手棋戦や国際棋戦は対象外になっています。

また、通算勝ち星による昇段と賞金ランキングによる昇段は重複しません。
例えば、2017年3月に五段になった棋士が、2017年の賞金ランキングで五段の中で1位になったとしても、六段にはなれないということです。
時々、「なんであんなに活躍した棋士がランキングに入ってないの?」ということもあるかと思いますが、こういった理由があります。


棋戦で勝ち進めるかどうかにもある程度運が絡みますが、昇段も同様です。
昨年の私の場合は、棋聖戦Cリーグに入れたことに尽きますね。
色々な意味で運にも恵まれたと思います。
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賞金と対局料

2018年01月27日 23時26分59秒 | 囲碁について(文章中心)
皆様こんばんは。
今回は賞金と対局料についてお話しします。
まずはこちらの2017年賞金ランキング(日本棋院棋士)をご覧ください。

(1)井山裕太七冠 1億5981万4000円
流石に圧倒的ですね。
通常だと1位は7000万円~1億円ぐらいのイメージがありますが、七冠全部集めてNHK杯も取ればこのぐらいは行きますね。
既に上限近く、このレベルを維持するだけでも大変ですが、もし大きく更新することがあるとすればそれは国際棋戦での活躍です。
LG杯にはぜひ優勝して欲しいですね。

(2)一力 遼八段   2523万7300円
(10)六浦雄太七段   1699万6200円

今回の2位以下は稀に見る団子状態でしたね。
各棋戦で大活躍の一力八段はもちろん、阿含桐山杯で優勝を果たした六浦七段も食い込んできました。

(4)藤沢里菜女流名人 2404万9700円
(8)謝依旻女流本因坊 2047万2400円

女流三冠と二冠の2人も目を引きます。
ひと昔前では考えられなかったことですが、最近は当然のように女流棋士がランキング上位に入ってきますね。
現在、国内の女流棋戦は5つあり、優勝賞金だけで総額2900万円にも達します。
なんといっても、タイトルホルダーは強いですね。

対局で十分な収入が得られると、勉強にも集中しやすいです。
近年の女流棋士のレベルアップの一因でしょう。

ちなみに、賞金ランキングと称していますが、この中には対局料も含まれます。
ここはゴルフなどとは違うところですね。
囲碁では賞金を得られる棋士は非常に少ないです。

例えば、棋聖戦の場合ですと優勝賞金が4500万円、そして2位にも賞金が出ます。
しかし、その他の棋士が得られるのは対局料のみです。
もしもランキングが賞金のみの集計だと、予選Cで負けても挑戦者決定戦で負けても同じになってしまいますね。
棋士の活躍度を正しく表せるよう、賞金・対局料の合算になっているのです。

このランキングは、通常公表されるのは20位ぐらいまでです。
ですが、実際には日本棋院の現役棋士約340人全てのランキングが集計されています。
ただ、私も含め、ほとんどの棋士は自分の正確な順位を順位を知りません。
聞きに行ったら教えて貰えるのかもしれませんが、あまり興味を持てないからです。
自分がどのぐらいの位置にいるかということよりも、具体的にリーグに入るとか棋戦で優勝する、あるいは何勝を挙げるといったことを目標にしている棋士が多いでしょう。

次回はランキングとも絡みますが、昇段制度についてお話ししたいと思います。
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