白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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謹賀新年

2022年01月01日 23時59分59秒 | 仕事・指導碁・講座

あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

ブログを開設してから5年と9か月が経ちました。
その間に世の中も自分自身もずいぶん変わりましたが、初心を忘れずに頑張っていきたいですね。


さて、それでは毎年恒例の棋譜紹介です。
今回は1886年8月6日、本因坊秀栄と村瀬秀甫の十番碁最終局をご紹介します。
秀甫は秀栄の兄弟子であり、本因坊秀策亡き後は本因坊家の跡目になるべき実力者でした。
それは権力争いや幕末の混乱により叶いませんでしたが、囲碁の団体である方円社を設立します。
しかし、次第に本因坊家と対立するようになり、最終的には和解のために本因坊家当主の秀栄と盤上で対決することになります。


1図(実戦黒1~黒37)
手合は秀栄の先(常に黒番)です。
両者には14歳の差があり、段位も実力も秀甫が上でした。
最初から秀栄に勝ち目が無いことは明らかだったでしょう。
しかし、秀栄としてははっきり白黒付けることが、囲碁界のためになると判断したのではないでしょうか。

左下黒37までは大斜定石の変化の1つです。
実戦例はあまり多くないと思いますが、私も20年近く前に打った記憶があります。



2図(実戦白38~黒61)
白1は模様の接点です。
白3は秀甫独特の打ち方で、黒4とがっちり守ったのも当時の秀栄らしい堅実路線です。
形を崩そうとする黒8のノゾキに対して、白9、11の手筋で抵抗しました。
白17、19の攻め、黒21と急所に守った手なども参考にして頂きたいところです。

このように、ためになる打ち方は多いのですが、私にとってはここまではどうでも良いのです(笑)。
本局の面白いところはここからで、右上黒24と力を溜めた場面でどう打つか?
普通のプロならノータイムで白Aと開き、弱い石を守ります。
そう打って悪いはずがありませんが、実戦は・・・。



3図(実戦白62~白68)
白1と上辺を広げ、黒2の挟みを許しました。
そこで白3を一本打ち、白5、7のツケ切り!
あえて隙を作り、攻めさせてから技を返そうというのです。
この発想、打ち回しには感動しました。



4図(実戦黒69~黒85)
上辺を目一杯に頑張り、右辺上の白も治まりました。
さらに右辺下の白を白14から捌きにいきます。
黒17に対して、生きるだけなら簡単ですが・・・。



5図(実戦白86~白93)
白1と出て、黒の外勢力にイチャモンを付けにいきました。
黒2と反撃されることは想定内で、白Aの利き筋を作ってから白7のツケ!
この手は下辺黒模様の荒らし、左側の黒への攻め、右側の白3子の救出という3つの可能性を見ており、黒の対応によって自在に変化していこうというのです。
この打ち回しには3図以上に感動したものです。



6図(実戦黒93~白100)
黒1と手堅く受けましたが、白2のハネが伸びのある捌きです。
白8まで、立派な形で進出することができました。
結局白は上辺を大きく地化し、右辺上の白も治まり、下辺黒模様を制限することができました。
そして白×も簡単には取り切られません。
勢いがあり、なおかつ美しい捌きですね。

白がやりたい放題やったようですが、秀栄も黒番のリードを失ってはいません。
最後は秀甫のミスを衝き、4目勝ちを収めました。


これで十番碁は5勝5敗の打ち分けとなり、秀甫が秀栄の先を支えきりました。
秀甫が碁界の第一人者であることが公式に示された形です。
秀栄は本因坊家当主の座を秀甫に譲り、碁界が統一されたかと思われました。
ところが秀甫は在位2か月で病没・・・。
本因坊家と方円社は再び分裂することになりました。
碁界が統一されたのは、約40年後の1924年です。
もし秀甫が長生きしていたら、歴史が大きく変わっていたことでしょう。

私が入段試験を受けていた頃、秀甫と後年の秀栄の碁をひたすら並べていました。
私の力ではとても全てを理解することはできませんでしたが、それでもできる限り学びたいと思える魅力がありました。
攻めが力強く、自由自在な捌きの秀甫。
一切の無駄を排除した、流れるような打ち回しの秀栄。
棋風は全く異なりますが、今でも最も好きな2人かもしれません。



永代塾囲碁サロン・・・武蔵小杉駅徒歩5分です。2020年7月から共同経営者になりました。

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現在、「やさしく語る 碁の本質」 「やさしく語る 布石の原則」 「やさしく語る 碁の大局観」 「やさしく語る 棋譜並べ上達法」の4冊を出版しています。

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