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「夜蝶」と証券マンとエリザベス女王杯

2024-11-11 04:51:02 | 競馬コラム

夜蝶と証券マンとエリザベス女王杯


薄暗いバー「夜蝶」のカウンターで、美咲はグラスを傾け、静かに祐一を見つめていた。

妖艶な雰囲気が漂うその姿は、まるで夜の蝶が羽を広げようとしているようだった。


「祐くん、どうしたの?そんな顔して」


美咲が、隣に座る祐一に声をかけた。祐一は、美咲から目を離すことなく、肩を落としている。


「あの…、ライラック、惜しかったですね…」

美咲の声はかすれていた。


彼は、今回のエリザベス女王杯で、10番人気の穴馬ライラックから買っていたのだ。


ゴール前で見せた豪脚は、多くの競馬ファンを驚かせたが…


「勝ったのは…薔薇一族のスタニングローズって馬さ…」


「3着争いに3頭が並んでね、差せー!って大声で叫んじゃったよ」



祐一は、あと一歩のところで勝利を逃してしまったのだ。


「そうね。ライラック、よく頑張ったわね。でも、祐くん、そんなに落ち込まないで。競馬って、そういうものよ」

美咲は、優しく祐一の頭を撫でた。祐一は、美咲の温もりに包まれながら、ようやく顔を上げた。


「でも、美咲さん。僕は、ライラックに賭けたんです。僕の人生も、ライラックみたいに、一発逆転のチャンスを掴みたいんです」

祐一は、本音を打ち明けた。彼は、証券会社に勤めてはいるものの、優柔不断で、将来への不安を抱えていた。競馬に賭けることで、何かを変えたいと願っていたのだ。


「祐くん、それは素晴らしいことよ。でも、競馬と同じように、人生も予想がつかないものなの。大切なのは、どんな結果が出ようと、諦めずに前に進むことよ」

美咲は、祐一の瞳を見つめながら、そう告げた。


「でも、美咲さんみたいに、自信を持って生きていくなんて、僕にはできないですよ」

祐一は、ため息をついた。


「祐くんは、まだ若いんだから、これからいくらでも変われるわ。それに、祐くんには、私にないものを持っているのよ」

美咲は、微笑んだ。


「僕にですか?」

祐一は、首を傾げた。



「そうよ。祐くんは、純粋でまっすぐなの。それは、とても素敵なことよ。それに、祐くんは優しいから、きっと誰からも好かれると思うわ」

美咲の言葉に、祐一の表情が少し明るくなった。


「でも、美咲さんは、僕なんかよりずっと魅力的ですよ」

祐は、照れながらそう言った。


「そんなことないわ。私たちは、それぞれ違う魅力を持っているのよ。だから、お互いを認め合い、尊重しあうことが大切なの」

美咲は、祐の手を握った。


「美咲さん…」

祐は、感動して言葉が出なかった。


その夜、二人は「夜蝶」を後にして、近くの公園へとやってきた。満天の星の下、二人はベンチに座り、しばらくの間、何も言わずに夜空を見上げていた。


「美咲さん、僕、これからもっと頑張ります。そして、いつか、美咲さんに素敵な男だと認めてもらえるようになりたいです」

祐は、決意を込めてそう言った。


「応援しているわ。祐くんなら、きっとできる」

美咲は、優しく微笑み、祐の頭を撫でた。

二人は、これからも、それぞれの道を歩みながら、お互いを支え合い、励まし合って生きていくことだろう。



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