祐一と美咲の夜の会話
「美咲さん、またやらかしてしまいました…」
いつものようにバー「夜蝶」を訪れた祐一は、いつもの席に腰掛け、美咲に顔を向けた。表情は冴えなく、肩を落としている。
「あらあら、祐一さん、また競馬で何かあったの?」
美咲は微笑みながら、祐一にいつものカクテルを手渡す。
「はい。マイルチャンピオンシップで、ナミュールっていう馬に賭けたんですよ。去年勝った馬で、今年も2番人気だったんで、絶対来ると思ったんです。ところが…」
祐一はため息をつき、グラスを傾ける。
「ところが、最下位。タイムが1分37秒8ですよ。未勝利のダート戦みたいじゃないですか。まさか、骨折でもしてたんでしょうか?」
美咲は、祐一の話に聞き入る。そして、静かに言った。
「競馬って、本当に面白いわよね。どんなに強い馬でも、予想外のことが起こる。それが競馬の面白いところじゃない?」
「でも、美咲さん。こんなに惨敗するなんて、予想の範疇を完全に超えてますよ。一体、何が起きたんでしょうか…」
祐一は、まだその出来事が信じられない様子だ。
「祐一さん、もしかして、ナミュールに感情移入しすぎてるんじゃない?」
美咲は、そう言うと、祐一の目を見つめた。
「え?」
祐一は、美咲の言葉に顔を紅潮させた。
「だって、祐一さんはいつもそうでしょ。好きな馬に感情移入して、その馬が勝つことだけを願う。でも、競馬はそんなに甘くないのよ。色んな要素が絡み合って結果が決まる。だから、予想外の結果が出ることもある。それは、競馬の面白いところじゃない?」
美咲の言葉に、祐一は考え込む。
「でも、こんなに大差で負けるなんて…」
「競馬は、人生の縮図だと思うの。どんなに計画を立てていても、思わぬ出来事が起こる。でも、大切なのは、その出来事をどう受け止めるか。祐一さんは、今回のことで何を学んだのかしら?」
美咲の問いかけに、祐一はしばらく言葉を探していた。
「…そうですね。競馬は、予想通りにいかないことの方が多いんだってことを改めて実感しました。そして、感情に振り回されずに、冷静にレースを見ることが大切だっていうことも」
美咲は、祐一の言葉に頷いた。
「そうね。競馬も、人生も、大切なのは楽しむこと。勝つことだけが全てじゃないのよ。祐一さんは、これからも競馬を楽しむつもり?」
「はい。もちろん。でも、これからはもっと冷静に、そして色んな要素を考慮して予想したいと思います」
祐一は、そう言うと、グラスを空にした。
「そうじゃなきゃ、美咲さんに笑われちゃうもんね」
二人は、声を揃えて笑った。
「そうだね。でも、祐一さんは、いつも一生懸命で可愛いから大丈夫よ」
美咲は、そう言うと、優しく祐一の頭を撫でた。
祐一は、美咲の温かい掌に包まれ、心が安らぐのを感じた。