恵比寿ガーデンプレイスシネマで「幻滅」(2022年、仏、クサヴィエ・ジャノリ監督)を観た。シニア料金で1,200円、フランスの作家バルザックが書いた「人間喜劇」の一編、『幻滅——メディア戦記』を映画化したもの。バルザックの人間喜劇の作品では「ゴリオ爺さん」、「あら皮(欲望の哲学)」を読んだことがある。もっと読みたいと思っていたところ、新聞の映画欄でこの映画のことを書いてあったので観たくなった。
19世紀後半、詩人になることを夢見ながら印刷会社で働く美男子のリュシアンは芸術家を支援する伯爵夫人ルイーズに詩を送り恋仲になりパリに駆け落ちする。しかし、世間知らずで未熟なため金を使い果たし夫人からも見捨てられ、生活のため野党系新聞社の記者になる、そこでは世間が騒いて新聞が売れれば内容は何でも良いという世界、驚いたが段々それに染まっていく。そして成り上がり、母方が貴族だったこともあり貴族身分になる一歩手前まで行くが浪費と怠惰な生活に明け暮れ、あげく政争に巻き込まれ夢破れ何もかも失い再び故郷に無一文で戻る。
映画はバルザックの原作とは一致しない部分も多いようだが、バルザックが「喜劇」として言いたかったことは何だろうか、原作のタイトルからして新聞などのメディアのいい加減さということが一つだろう、もう一つは自分の理想を捨ててまで上昇指向に走ることの馬鹿らしさ、また上昇指向に走るとした場合でも、必要とされる冷徹さの欠如を嗤う、というようなことか。主人公は新聞社で働き始め、その実態に驚くが、段々とうまく現実に合わせて仕事をすることを覚え、うまく立ち回るようになり金回りもよくなる、ここまではある意味成功であるが、その後がダメだった。小さな成功に自己を見失い、虚勢をはり失敗する。誰にでもありそうなことだ。
観る人が自分の境遇に照らし合わせ、どう生きるべきか考えさせられる作品だと思う。
ところでこの映画館であるが、映画が始まる前の注意事項の映像がたった一瞬、文字で書いた注意書きだけ映されて終わりだった。賢明な対応だと感心した。常々映画の前にしつこい位マナーを気をつけろ、著作権があるから撮影・録画するななど、くどくどと時間をかけて指導されるのを不愉快だと感じていた。もう少しセンスのあるやり方はないものか検討すべきだと思っていたが、この映画館の対応は一つの賢明なやり方だと思った。
出演
バンジャマン・ボアサン(26、仏):リュシアン
セシル・ド・フランス(47、ベルギー):ルイーズ
バンサン・ラコスト(30、仏):ルストー
グザビエ・ドラン(34、カナダ):ナタン
サロメ・ドゥワルス(ベルギー):コラリー
2023/08/17追記
本文の最後に、映画館で映画が始まる前のマナー等の注意の仕方についてコメントしていますが、先日、再訪問した際に確認したところ、この記載は間違えで、他の映画館と同様、マナーの注意、映画泥棒(著作権等)、映倫などの注意がありました。そして、最後にダメ押しで注意事項を一覧に書いた画面が出ていました。前回私が見たのはこの最後のところだけだったようです。