高階秀爾(たかしな しゅうじ)著の「カラー版名画を見る眼Ⅱ(印象派からピカソまで)」を読んで見た。この「名画を見る眼」という本は以前からあったが、最近カラー版として再出版されたもの。やはり絵画の本はカラーで見たいので、早速買ってみた。ⅠとⅡがあるが、16世紀以前のヨーロッパ絵画はあまり興味がないので、Ⅱをまず読んで見ようと思った。また、本書はKindle版がない。久しぶりに紙の本を買ったが、やはりこの手の本はKindleではダメだろう。
著者は昭和7年生まれ、大学で美術史を研究し、パリに留学、文部技官、東大教授、国立西洋美術館館長などを経て、現在、大原美術館館長となっている。日本美術界の大御所なのだろう。
この本は、14人の画家を取り上げている。それぞれの画家の名前と誕生国、生存期間を書いておこう。
- モネ(仏、1840-1926、81才)
- ルノアール(仏、1841-1919、78才)
- セザンヌ(仏、1839-1906、67才)
- ゴッホ(蘭、1853-1890、37才)
- ゴーギャン(仏、1848-1903、55才)
- スーラ(仏、1859-1891、32才)
- ロートレック(スペイン、1864-1901、37才)
- ルソー(仏、1844-1910、66才)
- ムンク(ノルウェイ、1863-1944、81才)
- マティス(仏、1869-1954、85才)
- ピカソ(スペイン、1881-1973、92才)
- シャガール(露、1887-1985、98才)
- カンディンスキー(露、1866-1944、78才)
- モンドリアン(蘭、1872-1944、72才)
これを観て驚くのは、
- よくこれだけの画家が同時期にでたものだ。クラシック音楽の作曲家も同じだが。1789年にフランス革命が勃発して王制が倒れて、既存の秩序が破壊された歴史の転換点だからだろうか。
- 圧倒的にフランス人が多いが、クラシック音楽の世界ではそうでもないのが面白い。また、プロイセン、イギリス、イタリアがないのが興味深い。
- 30代で亡くなった画家が3名(ゴッホ、スーラ、ロートレック)もいる一方、モネ、ピカソ、シャガールなどは長生きした。
この本を読んだ感想を述べよう
- この本は250ページの比較的ボリュームの少ない本だが、内容的には類書に見ない素晴らしさがあった。これから絵画を勉強しようという初心者向けの写真付き入門書とは違う、内容の濃い、ある程度の知識のある人を対象とした本である。その意味で、絵画をある程度見てきた人が今一度、知識を確認するために読むのに適している本と言えよう。
- 具体的には、それぞれの画家ごとに、著者が考える代表的な絵を2,3取り上げ、その絵の技術的な特徴をわかりやすく解説し、時の経過とともに起こった画風・様式の変化を説明している、そして、それらの歴史的背景などが書かれている。
- 例えば、ルノアールの場合、彼は一時期印象派と接して色彩感覚、形態の輪郭線にとらわれない自在なタッチを体得したが、1880年代には、彼自身本質的には人物画家だったこともあり、印象派と決別して、アングルのような人物の堅い線描表現をするようになり、やがて色彩によって対象を肉付けして行く彼独特の様式を確立した、など。
さて、この本で取り上げられている絵であるが、美術館で実際に観たことがあるものも少なくない。その中で、写真が撮れたものから一つ、ニューヨーク近代美術館のピカソ「アヴィニョンの娘たち」を紹介したい。結構大きな絵であることがわかる。大きな絵画はその大きさを忘れないために、あえて人が写っているこのようなアングルで写真を残すことがある。
絵画好きにはお勧めしたい本だ。