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ギュスターヴ・ル・ボン「群衆心理」を読む(1/2)

2025年01月17日 | 読書

フランスの心理学者ギュスターヴ・ル・ボン(1841 - 1931)著「群衆心理」(講談社学術文庫)を読んでみた

著者はフランスの医学者、社会学者であり心理学者である、その著作の多さを見れば著者が百科全書家的な知識の所有者であることがわかる、著者の学的立場が18世紀の合理主義とは対蹠的であり、理性に対して意志と感情の優位性を主張し、民族の伝統的要素の影響力を強調している、本書はル・ボンの最も重要な書籍の一つであると訳者は述べている

人は個人として物事を判断するときは常識的な判断を下し、それに従った行動をするが、ひとたび集団となるとばかげた判断や行動をする、というのは一面の真実であろうし誰しも経験をしてきたところでもあろう

今回、改めてなぜ人間は集団になると馬鹿な考えをおこすのか考えてみるためにル・ボンの本を手に取ってみた、読了して各章の順番に従ってポイントとなる感じたところを書き上げ、私の感じたことをコメントとして書いてみた

序論

  • これまで老朽化した文明の破壊者が群衆であった、群衆が支配するときに混乱が起こる
  • 集団の支配者は群集の精神を極めて適切に知っていた
  • 理論上の正当性では群衆を操れず、群衆の心理に起こさせる印象こそが彼らを動かす

コメント
現代においてはマスコミによる特定の事項や人物に対する情緒的な印象操作が行われている

第一編 群衆の精神

第一章 群衆の一般的特徴

  • 群衆は各個人の性質とは異なる性質を持つ
  • 集団では個人が本能に任せて行動する、それが集団内で感染する、個人を抑制する責任感がなくなる
  • 人間は群集に加わることで文明のレベルをいくつも下げてしまう
  • 群衆は事情次第で良いこともするが、歴史に残るような良い行為はない

第二章 群衆の感情と徳性

  • 群衆は思考力を持たないし、持続的意思もない
  • 群衆は物事の批判精神を欠き、物事を極度に信じやすい
  • 感情は暗示と感染により群衆に広まり著しくその力を増大する
  • 群衆の心をとらえようとする者は強い断定的な言葉を使う
  • 群衆は偏狭であり横暴である、いささかでも反対するものがあればリンチを加える

コメント
政治家は確かに断定的な言葉を使って民衆に訴えかけるというのはその通りでしょうがメディアも負けてないでしょう、国民は常に政治家やメディアの声高な主張に懐疑的態度を持つ必要がある、例えば「人生100年」とか

第三章 群衆の思想と推理と想像力

  • 特殊な場合を一般化すること、群衆を御することを心得ている者がやることだ
  • 群衆が正しく推理するとができないために批判精神を欠き、適格に判断する能力に欠ける、群衆が受け入れる判断は他から強いられた判断で自分で吟味したものではない
  • 群衆の抱く確信は宗教的信仰と同じだ、崇拝、畏敬、盲目的服従、議論が不可能、教義を流布、拒むものを敵対者とすることなど

コメント
日本人は人や物事をすぐに信じてしまう傾向がある、国連勧告やWHO、WTOなどと言われればすぐに正しいものと信じてしまうお人よしさが悲しい、今まで信じ込まされてきたものに対して懐疑の眼で見る癖をつけることが必要でしょう、これは本来、新聞や学者の仕事だけど彼らはその役割を十分に果たしていない

第二編 群衆の意見と信念

第一章 群衆の意見と信念の間接原因

  • 民族の根本的な任務は伝統を少しずつ改めつつそれを保存することである
  • 伝統的思想の強固な支持者でその変化に最も反対するのが群衆である
  • 伝統は幾世紀にわたり緩慢に消耗に屈する
  • 民主主義などの政体ではなく民族の性格がその民族の運命を決定する
  • 民族はその性格に応じて統治される
  • 教育は有益ではなくやり方を間違えると有害となりうる、無政府主義者は諸学校の優等生の中からでる
  • 教育は教科書の暗記をさせることにより判断力や創意を養うことをせず、暗唱と服従をする人間を育てている
  • 教育は社会の下層ではプロレタリアを、上層では軽佻浮薄な有産階級を生み出す、無用の知識の獲得は人間を反逆者に変える確実な方法である
  • 職業教育こそが有用だ
  • 一国の青年に授けられた教育を見ればその国の運命の一片でも予測できる、学校は今日、不平家や無政府主義者を養成している

コメント
著者の主張には極論もあるが一面真実もある、学校成績が優秀なだけの世間知らずほど左派になるというのはその通りであろう、また、教師が愛国心や国旗・国歌を敵視し、自国の歴史に誇りを持てない教育をしている日本の将来が心配である

第二章 群衆の意見の直接原因

  • きわめて意味のあいまいな言葉が極めて重大な影響力を持つことがある、例えば、民主主義、平等、自由などだ、これらの言葉の意味は漠然としている
  • 同じ時代の同じ程度の文明があるが種族が異なる場合、民主主義という言葉は全く正反対に解される、ラテン系では国家の意思や創造の前に個人の意思は消滅し、ますます国家が指導、集中化、専売、製造の責務を負わされることになる、アングロサクソン系では警察と外交以外の国家意思はなく、個人意志の強烈な進展を意味する
  • 文明の黎明期以来、群衆は常に幻想の影響を受けてきた、群衆に幻想を与える術を心得ている者は容易に群衆の支配者になり、群衆の幻想を打破しようとする者は常に群衆のいけにえになる
  • 経験が群衆の心理に真実を伝え、幻想を打破する、例えばフランス革命、純理の示すところによっては社会を改造できないことを大きな犠牲を出して示した
  • 群衆の心を動かすことを心得ている弁士は、理性に訴えずに感情に訴える、合理的な理論は群集に何の作用も及ぼさない、道理は哲学者に任せておこう、感情はしばしば道理に反して生れ、あらゆる文明の大原動力となった

コメント
平和憲法を維持すれば戦争にならないという「幻想」を振りまいてきたのが新聞や政治家だ、これを打破しようとすれば長らくメディアのいけにえになってきた、今の日本の新聞やテレビの情緒的な報道を見れば著者の言わんとするところはよく理解できる(例えば、国のエネルギー政策で原発有効活用とすると「福島の教訓を忘れたのか」などの感情的な社説を書くのが情緒的報道のいい例だ)

(続く)