バーデン・バーデン復活祭音楽祭2023、リヒャルト・シュトラウス「影のない女」(全3幕)をテレビで観た、2023年4月5日・9日バーデン・バーデン祝祭劇場イースター・フェスティバル、あまり上演される演目ではなく、日本でも新国立で1回上演されただけのようだ
演出/リディア・シュタイアー
指揮/キリル・ペトレンコ
管弦楽/ベルリンフィル
出演
皇帝:クレイ・ヒリー
皇后:エルザ・ファン・デン・ヘーヴァー(Elza van den Heever、1979、南ア)
乳母:ミヒャエラ・シュスター
パラック:ヴォルフガング・コッホ
パラックの妻:ミナ・リザ・ヴァレラ
観劇した感想を述べたい
演出について
- リディア・シュタイアー(女性)による演出だが、最初の場面では10個くらいのベッドが壁に向かって並べられている霊界である女子修道院の室内、そこにこのオペラのキーとなる女子修道女が寝ている、そのセットの裏側は染め物師のバラック夫婦の作業場、これも壁に小部屋がいくつも並び中でパートの女性だろうか染め物の作業をしている、この2つが場面転換しながら物語が展開される演出であった
- 演出のリディア・シュタイアーは、テレビで「この演目はわかりやすく楽しめると同時に感動する、感性にあふれた素晴らしい作品なので、楽しめると同時に、考えさせる演出にしたい、上演時間が長く内容が複雑なので舞台上はかなり抑えた演出にした、ストーリーをわかりやすく示し、さらに「人間として生きることへの問い」にも焦点を当てた」と述べ、舞台を女子修道院の寄宿学校に置き換え若くして妊娠した女子生徒が見た悪夢として全体を構成している、と説明されていた
- ストーリーをわかりやすくということだったが、修道院の妊娠した女子生徒が最初から最後まで何回も登場するが、その役割がさっぱり分からなかった、妊娠していると言ってもお腹は膨らんでいない、この女子生徒はセリフは全くない、演技だけだ、そして最後には舞台に一人残り、舞台上にこんもりと積み上げされた砂山を両手で崩してめちゃくちゃにして終演となる、これが何を意味しているのかとても1回観ただけでは理解不能だった
- このような時代背景の置き換えははやりなのだろうがその意図がよく理解できない演出が多いのは不満である、「観客がそれを考えろ」と言うことなのかもしれないが私はそのような姿勢は自分勝手だと思うがどうだろうか、「あの演出は何だろう?」と議論を巻き起こすためにわざとわかりにくくしてるとしか思えない
歌手について
- 一番注目したのは、皇后役のエルザ・ファン・デン・ヘーヴァーだ、初めて見る歌手だが、容姿も皇后らしく、色っぽいし、美貌だし、歌唱力もあると思った、彼女はMETにも出演しているし、他の劇場でもタイトルロールを務めるほどの歌手のようだ
- 一方、皇帝や染め物師夫婦は3人とも超太目の俳優、染め物師夫妻はこのオペラでは重要な役割をするがそれにふさわしい愛らしさが二人ともあって微笑ましかった、特にバラックの奥さん役のミナ・リザ・ヴァレラが強烈な個性を発揮して演技に歌に活躍していたのが良かった
指揮者について
- ドイツでの公演なのでペトレンコは拍手喝さいを浴びていた、人気なんでしょう、演奏は初めて聴くオペラなので評価できないが、悪くはなかったと思う
音楽について
- この演目はリヒャルト・シュトラウスによる作曲で1918年に初演された、サロメ、エレクトラ、ばらの騎士、ナクソス島のアリアドネのあとの作品である、昨年、岡田暁生氏の「リヒャルト・シュトラウス(作曲家、人と作品)」を読んだが(その時のブログ)、同書で岡田氏は「影のない女」について辛辣な論評を述べていた
- 曰く「この作品にはシュトラウスの創作力の相当に深刻な衰えが刻印されている、評論家のベッカーは安手のワンパターンの旋律、わざとらしい情熱の高揚、力ずくの盛り上げるパターン、心理学的で描写的な作曲技法などの使い尽くされた決まり文句しかそこからは聞き取ることができないと評した」とし、シュトラウス自身も作品の出来栄えについて必ずしも満足していないと紹介していた
- 私ははじめて聞くオペラなので論評はできないが、そんなひどいとも感じなかった、第2幕など良いと思った
楽しめました
あらすじ
第1幕
舞台は架空の神話世界、皇帝はカゼルに化身した美女を皇后とした、彼女の正体は霊界の王カイコバートの娘、王の使者が皇后の乳母にメッセージを伝えに来る、「3日以内に皇后が影を手に入れないと皇帝は石にされ、彼女は霊界に戻される」、この世界は「影」がないと人の子を宿せない、皇后は影を求めて人間界へ向かう、
皇后と乳母が向かった先は貧しい染め物師夫婦の家、夫の兄弟たちが我が物顔で居候している、ふがいない夫に内心失望する妻、そんな彼女に乳母がアプローチしていく
第2幕
皇后の乳母はバラックの留守中に魔法で魅力的な男を呼び出し妻を誘惑する、皇帝は探していた鷹に出会ったことを喜ぶが「小屋にいます」と置手紙を残したはずの妻がひそかに人間と会ってことに気づく、乳母は薬でバラックを眠らせ再び魔術で男を呼び出す、またも幻惑された妻は男の手に・・・
皇后は自分のせいで人間たちが苦しんでいると罪の意識にさいなまれるようになる
第3幕
とらわれの身になったバラックと妻はお互いの存在に気づかないまま相手を思いやる、皇后と乳母は霊界の入口にたどり着く、念願だった人間の影を前に皇后は影はいらないという、そして父の裁きを待つ皇后、そこで下される審判は・・・
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