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東京二期会オペラ「カルメン」を鑑賞

2025年02月24日 | オペラ・バレエ

東京二期会のオペラ「カルメン」を鑑賞した、場所は東京文化会館大ホール、この日は4階、C席、10,000円、8割くらいの座席が埋まっていた、14時開演、16時50分終演

ビゼー:オペラ「カルメン」全4幕<ワールドプレミエ>
指揮/沖澤のどか
演出・衣装/イリーナ・ブルック
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:二期会合唱団

演出のイリーナは、演劇界の巨星ピーター・ブルックを父に持ち、フランスのレジオン・ドヌール勲章をはじめ数多の栄誉に輝いている、日本では新国立劇場「ガラスの動物園」やSPAC「House of Us」などの演出を手掛けてきたが、オペラの国内での演出は初となる、ただ、今までスカラ座やウィーン国立歌劇場などの主要歌劇場でオペラを手がけてきている、実は「ガラスの動物園」はあの映画「ピアニスト」のイザベル・ユペール主演というので観に行った演劇である

沖澤のどかはテレビでは何回か観たが、コンサートで観るのは初めてなので期待したい

出演

カルメン:和田朝妃⇒加藤のぞみ(交替)
ドン・ホセ:古橋郷平
ミカエラ:七澤結
エスカミーリョ:与那城敬
スニガ(上官):斉木健詞
モラレス(士官):宮下嘉彦
ダンカイロ(密輸団):大川 博
レメンダード(密輸団):大川信之
フラスキータ(ジプシー仲間):清野友香莉
メルセデス(ジプシー仲間):藤井麻美

開演前、舞台に公演監督の永井和子氏が登壇し、本日のカルメン役の和田朝妃が数日前から体調を崩し、まだ完全に回復していないため降板し、ダブルキャストの加藤のぞみが代役を務めると説明し、お詫びの言葉があった、タイトルロールの交替とはよほどのことでしょう、本人が一番ショックを受けているのではないか

観劇した感想を述べたい

ビゼーについて

  • 私にとってビゼーと言えば「アルルの女」であった、これは宮城谷昌光著「クラシック千夜一曲」(集英社新書)で氏が推薦する10曲に入っていたからだ、氏の本ではビゼーは当時の音楽界で鳴かず飛ばずだったが、「アルルの女」で成功して自信をつけた、2年後に「カルメン」を作曲したが、その翌年(1875年)の初演から3か月後に死亡したとある、まさか没後150年目たっても日本で多く演奏されるなんて想像できなかったでしょう、感慨深いものである
  • 「アルルの女」の作風からは同じビゼーが「カルメン」を作曲したとは信じられないが、第3楽章のイントロなどを聞くと、「アルルの女」っぽいビゼーらしさが出ているな、と思った

物語について

舞台はセビヴィリア、当時の大都会、ホセの故郷から700キロも離れている、小宮正安著「オペラ 楽園紀行」(集英社新書)ではカルメンについて以下のような観察が示されている

  • カルメンにはスペインらしい要素がぎっしり詰まっている
  • 当時、産業革命の成功と資本主義の発達により欧州各国は発展していたが、市民は将来に漠然とした不安を抱いていた
  • このため異国へ寄せる熱烈な思いが生まれた、ビゼーの故郷フランスをはじめ北ヨーロッパに国にとってはスペインはあまりに魅力的だった
  • こうした渦中にあって「カルメン」もスペインに寄せる憧れを踏まえた楽園オペラだった
  • ホセにとっての楽園は生き馬の目を抜くような大都会セヴィリアではなく、のどかな故郷であった
  • こうした状況でカルメンと出会うと、カルメンはホセに大都会の軍隊にはない自由を強調したが、カルメンの自由は定住社会とは正反対であった、彼女は危険を承知の上で恋愛だけでなく、人生そのものに自由を求め、大都会に代表される定住社会を嫌悪した
  • ビゼーも当時主流であったグランドオペラに一石を投じてカルメンを作曲した、ビゼーとカルメンの両者には既存の社会に定住しない潔さである
  • カルメンのような自由な生活を送るにはそれなりの力が必要だということをホセは気づいていなかった、カルメンのような徹底した自由を獲得できないホセは奔放なカルメンとの生活に疲れを覚えた
  • しかし、一度非日常の魅力を知ってしまうと元の世界に復帰するのはあまりに困難だ、ホセがその典型だった、ホセは自由奔放なカルメンに惹かれながらも、彼女が忌み嫌う定住社会への思いを捨てきれないために悲劇は起こった

時代背景がよくわかった、新聞などは人々に自由が何よりも大事だと思い込ませているが、カルメンの生き様の通り自由に生きるには力がいるし、責任が伴う大変なものだ、戦前の反動であろうが自由の礼賛は人々をミスリードしていると思う、自由と規律・責任は常にセットだ、などとも感じた

演出について

  • この日は、第1幕と2幕は同じ舞台、ホセのいる駐屯地(たばこ工場かもしれないが)とそこに隣接するロマのジプシーのテントのようなものが並んでいる配置、第3幕はがらりと変わり時間も現代になり、空港かホテルのロビーと思しき場所、密輸団の集団が密輸品の税関のチェックを心配している、第4幕は闘牛場の赤いテントの前という設定だった
  • 今回の演出についてイリーナは、「オペラを演出するときはストーリーを歌で伝えることを一番大切にしているので、物語を伝えるのに妨げになる要素を省きました」と述べ、「公演ビジュアルや、カルメンの衣裳はスペインに寄せてもらいましたが、本番ではスペインの民族性が濃い要素を除いています」と述べている
  • そして、「カルメン」にはロマの人々が登場しますが、このプロダクションでは、現代では東欧に多い彼らに焦点を当てるのではなく、想像上の世界を作り上げますとし、「今から20、30年後の近未来を舞台に、“ノーマンズランド”(誰にも支配されない中間地帯)で旅をしながら生きる人々を描きますと説明し、「第1幕の舞台美術のイメージは、“美しいガレキ”です」と述べている
  • 実際に鑑賞してみて、闘牛士のエスカミーリョと第4幕の闘牛場の場面だけはスペインを感じたが他の場面や衣装はスペイン色が確かになかったように思った、こうした演出は小宮正安氏の所論からするとおかしいということになるが、このような演出がむしろ最近の欧州では主流なのでしょう
  • また、本プロダクションの特徴として、「長くなりがちなレチタティーヴォをすべてカットしました」と明かす、イリーナは「どんなに歌手が素晴らしくても、音楽のないしゃべりが多くなると、歌う時のエネルギーと同等のものにはなりません」と述べているがセリフに相当する部分はある程度は残していたと思う、演奏時間も通常のものとあまり変わっていない
  • 総じて、スペイン色を出さない点と特に第3幕の時代設定に違和感があるが、全体としては奇抜なところはなく、許容範囲だと思った

歌手について

  • タイトルロールのピンチヒッターとなった加藤のぞみであるが、声量、歌唱力共に素晴らしかった、見た目もカルメンにふさわしい単なる美人タイプではないところがよいし、へそ出しまでしてジプシー女をよく演じていた、本日のMVPでしょう
  • ホセの古橋郷平はスリムな体形で口元にひげを少し生やし精悍な感じがして、田舎出身の母と恋人を愛する真面目な軍人という感じがしなかった、容貌がライバルのエスカミーリョの与那城敬と同じような感じがして違和感があった、また、歌については特に第1幕で声量不足を感じたが、2幕以降は調子が出てきたようだった
  • エスカミーリョの与那城敬だが、調子が悪かったのだろうか、声が細くオーケストラの演奏に負けて4階席の私のところにはよく響いてこなかった、ただ、ピンク色の衣装は非常に似合って闘牛士のイメージにピッタリだった
  • ミカエラの七澤結は、歌は素晴らしいと思ったが化粧がイマイチだ、目の周りが黒くなりすぎて、とても田舎の純情な娘と言う感じには見えなかった

指揮、演奏について

  • 沖澤のどか指揮の読響の演奏は素晴らしかった、メリハリがあってよかった

 

楽しめました、この日は「カーテンコール時の写真撮影が可能」との張り紙がホワイエに何か所か出ていたし、幕間には放送でその旨伝えていたのは評価できる、どんどん写真を撮ってもらい、SNSなどで拡散してもらうのが知名度向上、ファン増加に大きな効果があると思うので是非今後も続けてもらいたい、この点は先日の藤原歌劇団より素晴らしいと思った



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