むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所クラスター⑤

2019-07-01 10:37:02 | 小説
 ビタミンB12欠乏ゾンビがビタミンB12を少しでも摂取すると、自覚症状が出る。そうだ。牛乳を飲もう。牛乳なら菜食主義的観点から問題ない。自覚症状が出たら病院で診てもらおう。タイトルはサーカス。

 昭和一一年四月未明。天津のサーカス小屋で曲芸をしていた女子団員がライオンにかまれて、死ぬという事件が起きる。当日は観客が四〇〇人ほどいて長さ七〇㎝ぐらいの、棒の上で女子団員二人が逆立ちして、男がそれを持ちながら、一輪車に乗る曲芸をやっている最中だった。予定では一輪車の後ろをぞうが歩いて、ぞうの背なかに、ライオンが乗ることになっている。しかしぞうが歩き出す前に、ライオンが出てきて曲芸をしている女子団員に次々とかみついた。警備係が猟銃を用意している間に、ひとりが致命傷を負って、ひとりは顔をかまれているようだ。ライオンは腰付近と顔の二か所から血を流して倒れている。公安が一輪車に乗っていた男から事情を聞くと、「ライオンがおれの両肩に前足をかけたんだ。爪が立ってていつもと違うから身の危険を感じて逃げた」と言う。どうやら女子団員をほうり投げて逃げたらしい。公安は射殺されたライオンの調教師に事情を聞く。調教師は「これはサーカスのライオンじゃない」と言った。手足の肉づきが違うという。公安は鉄道管理局や港湾管理局と連絡をとって調べたが、ライオンらしき積み荷が入ってきた情報は、なかった。どんな法律をつくっても、犯人を逮捕するまでは逃走ゲームの、先物プログラムの範囲内でしか思考や想像をすることができない。範囲の外はあらゆる不快な事象が待ち受けている。公安が逃走ゲームのチャンスカードをめくると、「動物園に行け」と書いてあった。公安が動物園に行って、飼育係に事情を聞くと、「飼い慣らされてるライオンでもえさと、間違えられると襲われるよ」と言う。公安の脳裏に、サーカス団員の死体を、病気で死んだ幽霊たちが人殺しの死体と間違えて、むさぼり食っている光景が浮かんだ。先物プログラムが限界点を通過すると、ゲームを終わりにするヒントの、幻が脳裏に浮かぶ。公安は女子団員が顔につけていた白粉を調べる。白粉にチキンの粉末がまざっていた。えさの管理も調教師がやっていることから、公安は調教師の男を逮捕してとり調べる。先物プログラムが終了したあとは、なにもかもが予定どおりのように、進行する場合が多い。公安が調教師の男に、「顔の肉はおいしくないだろう」と言いながら顔にけがをした女子団員の、写真を見せると男は、その女子団員に関係を迫って「拒否されたから仕返しでやった」と白状する。たぶん男の人間関係に対する秩序が、ライオンと一体化したのだろう。