むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所クラスター㉒

2019-07-18 09:49:13 | 小説
 昭和一二年三月未明。北京のカウンターバーでマスターが宙づりになって、死んでいる事件が起きた。現場は天井の横木と、マスターの両足が鎖で結ばれて、南京錠がかけられている。マスターは鬱血死していた。公安(中国の警察)が横木を切断して、死体を下ろす。横木には爪でひっかいた形跡があり、他に外傷がないことから、顔見知りの犯行に見える。ここの店では、幻灯機でポルノ写真のスライドを、客に見せることで有名だった。公安は三千枚ぐらいあるスライドのどれかにヒントが、あるような気がしてひとつずつチェックする。おかっぱ頭で、一五歳ぐらいの少女が裸で竹馬に乗っている写真は陰毛もきちんと写っていた。肩より短いくせ毛で三五歳くらいの女が両手をやや後ろについて、両足を広げて、陰部を膣が見える位置まで、おしりを突き出した写真は、色情をそそられる。スライドには男女が、交わっている写真がなくて、フレスコ画がかなりまざっていた。公安は無意識のうちに被写体がしゃべる写真とフレスコ画をよりわける。公安はこれらの被写体が、誰かの物になることはいけないことだと思った。永遠に、スライドのなかに存在しているべきだと考えたっ。国語辞典で膣の文字を読むと、見えるようにするべきだと思った。息づかいや恋愛感情のような思いも読めば体感できるようにする必要があると思ったっ。スライドは国際的な規格があって華僑の組合でつくっているみたいだ。一五分ぐらいたつと常連客がきて、「ここのマスターは脱出手品が得意で南京錠を外してガッツポーズしてたよ」と言う。公安が「かぎはどうしてる」と聞いたら、「そこの壁へほうり投げるよ」と言った。公安がカウンターの下を残念そうに調べると、南京錠のかぎが二つある。死んだマスターは脱出手品を練習していて、脱出用のかぎをほうり投げて脱出できなくなったようだ。脱出手品はスライドの女が「あれをやって」としゃべるときにやるらしい。ポルノ写真のスライドはオークションで、ロットで仕入れていたという。その日公安はノートに小説を書いた。スライドが見ほうだいの時空バーだ。まずスライドが見やすい席に座って、マスターに年代を注文する。現在のスライドを見ているうちに、少しずつ注文した年代に近づいて、その年代に到達すると、スライドの女がしゃべり出す。なんのために、やるのかと、いうと犯人の先祖にしゃべる女がいるためだ。公安は金貨の負荷を感じながら、せりふを書いた。