むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所クラスター㉗

2019-07-23 09:55:40 | 小説
 昭和九年一〇月未明。アモイの漁村で、電信柱に「漁船売ります」のポスターを貼っていた男が、重さ一〇㎏の、米袋の下敷きになって死ぬという事件が起きた。現場は港に近いことから大漁祈願の米袋が落下したみたいだ。その村では、大漁祈願のおまじないで、米袋を電信柱の上に置く風習がある。死んだ男は少ないのりでポスターを貼りつけようとして、米袋を落下させたようだ。公安(中国の警察)が米袋をどうするか考えていると、とおりすがりの老人が「浮き日の金貨に言われて竜が空気を食べて、雨がふるのじゃ」と叫ぶ。「浮き日」は日本の、金貨のことを言っているらしい。父子的関係の子供である日本に向かってなにかを叫ぶ老人はときどきいる。まるで日本にいる華僑からなにかの連絡を受けて、それに答えたような叫びだ。軒先じゃなくて遠い未来の子供たちに向かって、なにかを言おうとしているのかも知れない。 公安は老人の日常を透視したが、読み書きがままならない様子だ。老人は文字のかわりに、なにを共有しているのだろう。動物園で聞いた話だとゴリラの寿命が五〇歳ぐらいだ。きっと未発見の猿で七〇年くらい生きるやつがいるに違いない。公安は老人の叫びが、当たっているような気がしながら米袋を押収した。