むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所クラスター㉘

2019-07-24 10:13:26 | 小説
 昭和一六年三月未明。香港の大学で、思想改造集団のメンバーが、一〇~一二㎝おきに珊瑚が結ばれたひもでぐるぐる巻かれて、天井に太いゴムひもでつるされて、死んでいる事件が起きた。大学は開校記念週間で、現場の教室は、人の出入りがない。死んだ男は三日ぐらいつるされてゴムひもが切れるように努力しながら衰弱死している。死んだ男はわざわざ思想改造集団の名札をつけているため、大学内でメンバーを、増やすためのデモンストレーションで天井につるされたらしい。つるした他のメンバーは学生が発見すると思ったんだろう。公安(中国の警察)は死んだ男が首と足先を動かして、脱出しようとしてゴムひもを伸ばしたり、縮めたりしている様子を想像しながら「IQが高い若者を募集してるようだ」と思った。公安は開校記念週間明けの大学で、一〇㎝かける五〇㎝ぐらいで持ち手がついた思想改造集団の旗を配っている男から、事情を聞く。その男は「メンバーがひとり減ったから、おれがこうして働いてる」と言った。大学内のメンバーに働きかけてドイツで研修を、受けた講師を送り込んで、ファシズムの研究課程を新設するという。公安が「どんな講義をやるんだ」と聞いたら、男は「まずアリストテレスの例文から実践して、前の席に、座ってる学生に『君はソクラテスだ』と命令する。次に『ソクラテスは白いな』と言う。そして他の学生が命令された学生をソクラテスに見立てて『ソクラテスは白い』と認識する。そこである学生が『ソクラテスが白い色をしてる状態に見立てるんですか』と聞いたら、『ソクラテスは白いという文字列を認識するんだ』と言う。質問がないときは、ソクラテスは白い状態で『ソクラテスに墨をかけると、灰色になる』のように進めるんだ。他にハードカバーの本を用意して『この本は三角形だ。鋭角のページが折れやすい』や『この、空間に一立方mの有毒ガスがあって吸引すると死ぬ』や『この、万年筆は未来の、日本における天皇の記念金貨だ』と言ったら、学生が全員で「あんたのじゃない」と言う。こんな風に時間いっぱい命令をして、ゲームのように学生が想像して楽しむ」と言った。公安は「ファシズムの授業は楽しそうだな」と思いながら大学内を張り込む。翌日に大学内を、歩いていた女子学生の口に旗を押し込もうとした男が逮捕された。男は開校記念週間を知らないで、メンバーを、つるしたことを認める。その日公安は「ファシズムの研究」というノートをつくった。