むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所クラスター⑧

2019-07-04 09:47:48 | 小説
 東電の原発事故以来電力各社は、人工知能の供給をやめた。それまでは電力を消費すれば、読みとり器つきで人工知能を使えたわけだ。タイトルは防風林。

 昭和六年八月未明。吉林で地主の末っ子が、枯れた防風林の下で、刃物で胸を刺されて、死んでいる事件が起きた。公安(中国の警察)が小学生の息子(被害者幽霊を小学生に変換して対話する特殊能力がある)に聞くと、「木から落ちて」と言う。そばに「猿の腰かけ」が落ちていて、刃物が刺さったままであることから死んだ末っ子は木に登って、猿の腰かけを刃物で木から切りとっている最中に、足をすべらせて、刃物と猿の腰かけをかかえるように落ちて、自ぶんの胸を刃物で刺したようだ。公安は付近に並んでいる露店をまわって、一応聞きとりをする。子供が事故死したと、考えると普通だが公安は、なんだか胸さわぎがした。小学生の、息子の顔が恐怖で、ゆがんでいる。縦横五㎝ずつぐらいで漢字ひと文字を、鉄でつくったアクセサリーを、日本の通貨だと四銭ぐらいで、売っている露店で店主が「猿の腰かけを見るためにやってくる人もいる」と言う。いまのは、店主のことばでは、なかったような感じだったが公安は「日」の文字を一個買った。小学生の、息子が「八八年後の、日本のお金で一〇〇円だよ」と言う。公安は「千文字買うと未来の、日本のお金で約一〇万円だな」と思いながら他の文字も見た。年の文字が、大中小の、三種類の他に文字が細いタイプと、太いタイプがあって、「すり減ると同じになるよ」という注意書きがある。公安が店主に「一」の文字は「もう少し安くならないのか」と、聞くと店主は、「同じだよ」と言う。公安は収監された非行少年が削り出した鉄片を、死刑囚が文字の形に組みつける光景を、想像しながら他の文字を物色する。「平」の文字は、宙に浮いたふたつの線を針金で固定していた。公安が「万」の、文字の微妙なタイプ違いを見比べていると、小学生の息子が「犯人はあいつだよ」と言う。わらでできた人形を売っている露店の、男のことらしい。公安が男に事情を聞くと、「猿の腰かけには客を集める魔法があるから、木を蹴って落としたんだ」と言った。公安が「木に登ってた子供を落としたんだな」と聞いたら、男は「猿の腰かけも落ちて・・」となにかしゃべっていたが、公安は未来の、日本における金貨の負荷を感じながら、男を逮捕する。その日公安は、紀元初期の、日本の歴史を紙に書いて、露店で買った文字を上に置いた。はたして未来の、日本の子供たちにわかるかな。