昭和五年七月未明。長春の、貴族の屋敷で壁に特殊金庫をつくっていた板金職人が、弓矢で頭を射られて死ぬという事件が起きた。弓矢は屋敷の居間に数点飾ってあったどれかだ。貴族は四人家族で、家長の夫婦が五〇代で、二〇代の息子と娘がいる。貴族の一家は事件当時、町の運動会で全員外出していたという。死んだ男は留守の日に作業をしているため公安(中国の警察)が、板金屋の責任者に死体を見てもらうと、「うちの職人じゃない」と言った。金庫は明日完成させるという。貴族は清の、王族の遠縁として有名だが屋敷にある骨董品は、軍人の装備品みたいな物ばかりで、息子が「おれの金貨を使いやがって」と声にならない声で、叫んでいたけど熱気を帯びた負荷は手変わりがある金貨のようだ。公安が「死んでる男に見覚えがあるか」と、家長夫婦に聞いたら夫婦そろって「見たことがない」と答えた。息子に聞くと、「小学生のときに、行方不明になった兄がいる」と言う。娘は「知らない」と言った。家長に行方不明の、息子のことを聞いたら家長は毅然とした素振りで、「軍の少年隊に入隊して病気で死んだ」と答える。しかし公安が軍の書類保管庫で調べると入隊した記録は、ない。公安は中世の奴隷が家長に全身をむちで打たれて、創傷が原因で、頭が熱くなる感覚に襲われた。公安が家長にもういちど聞くと 、家長は威厳がある表情で「子供が三人いると、官位がもらえないので孤児院に預けたよ」と言う。公安が孤児院に電話で確認すると、「元気でいる」とのこと。公安は官位の話がおかしいと思って、役所に行って確認すると、長椅子でずいぶんと待たされてから、職員が「そんなとり決めは、ない。あの家族は実業家」と言う。貴族の家族は小作人を、派遣する会社を経営して官位に関係なく収入があるらしい。息子はトラックの運転手をやって、娘は小作人の宿舎を管理する会社で働いている。その会社は金庫をつくっていた板金屋ととりひきがあった。公安は娘を張り込む。娘は板金屋の、責任者の男と肉体関係があった。公安が板金屋の、他の職人から事情を聞いたら「職人仲間がひとり行方不明になってる」と言う。その男に恋人がいたかどうか聞くと、貴族の娘だった。公安が板金屋の、責任者の男から事情を聞くと、「金貨の持ち主がおれになるから殺した」と言う。娘が死んだ男に、負荷がある金貨をプレゼントしたと思っていたらしい。犯人は落ち着いた声で殺害状況を説明し始めた。