昭和一一年三月未明。長春でめがね屋の店主が、頭にリスの剥製を巻きつけて、首をロープのような物で絞められて、死んでいる事件が起きた。店主は椅子のそばに倒れていて、机でリスの剥製につけるためと思われるめがねをつくっていた様子だ。公安(中国の警察)が奥さんに事情を聞くと、奥さんは「首の傷が見えるように、剥製を首から頭に動かしたけど」と言う。公安は昨日まで三日ほど図書館にかよってプラトンを読んだ。作業机を見ていて思い出さずにはいられなくなった。全集を読み終えて結論は、ソクラテスは空想の産物じゃなくて、未来世界で最初にタイムマシンをつくった男らしい。プラトンの対話編は未来からタイムスリップしてきたソクラテスと、古代ローマにあったであろう小部屋から出てきた子供が成長した人物との対話である。公安は歴史年表から逆算して古代ローマにあった小部屋のかずを三万人ぶんぐらいと推定した。つまり原人の方が多い。原人の先祖は猿だが、小部屋の外壁を食べると、人間と同じ姿になるようだ。対話編の方は本来知能が、高いであろうソクラテスが原人に、言い聞かせるために徳やイデアなどのことばをなんども使って、思いや考えの原型とも言えるような文章になっていた。これは未来の世界で絶版になって、消失したためにソクラテスが開発中のタイムマシンで、古代ギリシャに向かったと考えられる。公安は文章をよく読んでソクラテスが、対話している場面を想像したが、相手が小部屋から出てきた子供の、その後じゃなくて原人になるみたいだ。そして古代ギリシャの原人が、読者である公安に擬態している感じがした。古代ギリシャで原人に擬態されることは恐怖なのかも知れない。対話編は原人が未来の読者に、擬態するように書かれている。ここまで考えたら古代ギリシャの女と対話することができた。公安が「政治家は全員人間なのか」と聞いたら、古代ギリシャの女は「ギリシャの議会では、原人を未来の人間に擬態させることがテーマよ」と言う。公安が「どういう時代を狙うんだ」と聞いたら、古代ギリシャの女は「戦争があって、なにも知らない人ばかりで本がある時代よ」と言った。公安が「原人で金貨の負荷をどうにかできるか」と聞いたら、原人が出てきて「それはあんたのだよ」と言う。公安が古代ギリシャと中華民族の、歴史関係と時空がつながる現象について、思いをめぐらせていると床に長さが、二mほどの蛇がいる。店主は蛇に絞め殺されていた。