むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所クラスター⑳

2019-07-16 10:19:47 | 小説
 昭和一二年一〇月未明。吉林で薪を、積んだ荷車を引いていたと思われる男が、積み荷の上で焼死している事件が起きる。薪は長さが三〇㎝ぐらいで、厚さは五~一五㎝くらいで簡単に火がつく物じゃない。公安(中国の警察)が近所の酒屋で事情を聞くと、「煙が立ち込める前に、『ばーん』という音がした」と言う。燃え残った薪が積まれている荷車を動かすと、黒い石があった。隕石だ。恐らく木星の、近くの小さな小惑星が軌道を外れて、地球に落下したのだろう。公安には宇宙論があった。夜空にきらめく遠くの恒星は、過去の太陽だ。空中を浮遊するように、宇宙空間を移動する太陽系の、過去の太陽が、現在の位置に、向かってくるときに明るく光り、遠ざかるときに小さく光って横方向の、光の帯は消失する。問題は太陽系が宇宙空間を浮遊する軌道と速度だ。つまり同じ軌道を高速で、一日ぐらいで移動している可能性がある。というよりは、そこは一日で考えた方がわかりやすい。公安は最初に空中をただよう煙の、粒子の軌道を表した立体レールと、それを転がる小さな、太陽系を考えた。夜空の、星のかずだけ曲がりくねった立体レールだ。推進力をどうするか考えていると、立体レールの全体像を球形にして、凹凸のある傾斜を転がせばいいことに気づく。次は一日かけて傾斜を、下まで転がった太陽系をスタート地点へ戻す方法だ。そこで太陽の裏側に、住んでいる宇宙人の力が必要になる。宇宙人が巨大な巨人をあやつって傾斜の終点で、太陽系が転がるレールでできた球体を、つまんでスタート地点に戻す。このスタート地点に、戻すときに、時間がとまったような状態になるので公安は、事件のときに、犯人の手番で時間がとまらないように、いつも宇宙人に確認している。公安が宇宙人に「巨大な巨人はいつもなにをやってるんだ」と聞いたら、宇宙人は「傾斜の、凹凸の清掃をやってるよ」と答えた。宇宙の外側にもちりやほこりがあるらしい。公安が宇宙人に「太陽の裏側は、暑くないのか」と聞いたら、宇宙人は「表側から太陽光発電の電源を引っ張って、暖房を入れてる」と言った。宇宙人は人間と同じようなからだのつくりで特殊な能力によって巨大な巨人を、あやつれるのだろう。公安は傾斜の形を想像しながら、宇宙人との交信を終わらせた。今日の事件は燃えている隕石が薪を直撃して、その衝撃で、引いていた男が荷台にはじき飛ばされて頭を打って気絶してそのまま焼死したみたいだ。



超IQ研究所クラスター⑲

2019-07-15 10:34:15 | 小説
 昭和一二年五月未明。南京で落花生農家の、夫婦の家に日本兵が侵入して亭主を斬り殺して、奥さんを強姦するという事件が起きた。奥さんはショックで入院している。公安(中国の警察)は事件の報告書を読んでから日本軍にかけ合う。日本軍の広報は「犯人はこっちでつかまえますからこの紙に、中国の、四千年前の起源を書いてくださいよ。二千年前に、大陸から日本に移住したあとは倭人と交配してたから、近親結婚の心配は、ないけどその、前の二千年がわからない。四〇歳平均で子供をつくるとして二の五〇乗だからおよそ千兆だ。千兆人いたなんてありえない」と言いながら、紙とペンを公安に渡す。公安は「まず当時は五〇歳平均で子供をつくっていた。二の四〇乗は約一兆である。われわれの先祖は、小学校高学年ぐらいの年齢で、一辺が五mくらいの、立方体の小部屋に住んでいた。小部屋の壁は、餅のような合成食でできていて先祖はそれを食べている。その小部屋が縦と、横と上に千個ずつ並んで、ひとつの巨大キューブに一〇億部屋があった。そういう巨大キューブが紀元前二千年の、モンゴルの砂漠地帯に千個ある。つまり紀元前の先祖は小部屋から少しずつ出てきた子供だ。子供が住んでいる小部屋に未来の画像を、精神感応で、字幕入りで映し出すガラス製のパネルがある。このパネルをとおして先祖は子孫と対話することが可能。先祖である子供はわれわれが未来において、近親結婚が限界点を通過したために、近親婚の子供を、木星の衛星に宇宙ロケットで移送した物だ。木星の衛星と地球は時空を越えてつながっている。ちなみに私の、先祖の子供と、対話したら『この、時代の中国は共産主義というよりは宇宙主義だよ 』と言う。私が小部屋のパネルを、見ることができるかと、いうと『いつも使ってるじゃない』のようだ。重要なことだから原人との交配を、書こうとしたが強力な磁場のような力で書けない。書けることは、原人は倭人と同様に読み書きができなくて、外見は人間と同じだけど感情がなくて、人間に擬態する習性が特徴だ。おおむね紀元前の歴史は小部屋から出てきた子供と原人で成り立っている」と書く。広報はできた書類を公安から受けとって、それを読みながらどこかへ消えた。しばらくすると、広報が犯人と思われる男を連れて戻ってくる。男は現地採用の治安要員だったが、阿片の使いすぎで、なにかの幻を見ていて「本当にやると思った」と言う。公安は男を逮捕した。


超IQ研究所クラスター⑱

2019-07-14 09:20:49 | 小説
 昭和一六年六月未明。天津の陸上競技場で、陸上大会の最中に熊が三頭乱入して、長距離ランナーがかまれて、死ぬという事件が起きる。熊は上げ底になっている観客席の、下の空間から次々と乱入して長距離走でトップを走っていたランナーが、ゴールの手前で向かってきた熊に襲われた。公安(中国の警察)は「野生動物のように体力を競い合うことは風紀上好ましくないことだ」と思いながら競技場の関係者に事情を聞く。関係者の話によると三年前から、観客席の、下の空間に、野生の熊が住みついて、近所の住民がえさを与えていると三頭に増えて大きくなったから、柵をつくっていたという。地もとで有名だったが大会の関係者は知らなかったらしい。それとは別に、昨日公安は重厚な思考描写が書かれた文学作品を読んだ。本のタイトルは忘れたが連続して幾層にも重ねて、記憶と思考が描写されていた。くどくどしい物体描写は、なくてもいいと感じたがそこだけ正確だ。つまり記憶と思考は前の文章を思い出したように書かれている。記憶のなかにおける物体描写もあるから読み返しても、手なおしのやりようが、ないのだろう。作者がなにかの痛みや苦痛を不必要な描写にしたためているとしか思えない。文学作品の思考描写は、読者にとってなんの利益を、もたらすというのだろう。父母の、兄弟である伯父のような人物となりうる作者が、読者の、人生の重要局面において「僕のだから」と言って、口をはさんできてもどの文章が、どう関係あるのか思い出しようがない。公安が「新聞の社説にはこういうことが、書かれてる雰囲気があるな」と、考えているとさっきの関係者が、新聞記者の取材を受けていた。記者が、なぜ競技場に熊が乱入したのか聞くと、「観客席が埋まると、外れやすくなる境界の板があったんだ。主催者が悪いよ」と言う。板が外れた観客席は、陸上賭博のブースがあって、丸太を引きずった馬と順位が上位だった選手の、競争のかけで観客が殺到していたようだ。記者がそれを関係者に聞いたら関係者は「知らない」と答えた。真相は「主催者が別な競技場で大きい丸太を使用して、人間ばかりが勝ったので、負荷が小さい丸太を用意して、それを確認した観客が馬に、かけるために殺到」だ。公安は死んだランナーの監督が、馬に勝つサインの、他に走り方で「逃げろ」というサインを使っていて、逃げられなかったと断定して監督に注意して、射殺された熊を毛皮の業者に引き渡した。


超IQ研究所クラスター⑰

2019-07-13 09:48:33 | 小説
 昭和一五年七月未明。上海で街路灯が倒れて、ラムネの行商人が下敷きになって、死ぬという事件が起きた。公安(中国の警察)は街路灯が根もとを工具でV字型に切断されていることから、殺人事件として捜査を始める。その時間帯に「作業員風の二人組がいたけど」と言う目撃者がいた。公安が街路灯の、設置業者の事務所に行くと、その二人組がいる。公安が事情を聞くと、「新規の受注工事で一本足りなくて移設作業中に、『一本いかが』と話しかけるから事故になって逃げたよ」と言う。そのとき責任者が出てきて「浅いカウントで軽打すると凡打になるんだ」と二人をどなりつけた。二人は会社の、野球チームのメンバーだったようだ。公安は地もとの体育団体が野球を、やっている光景をなんどか見たが、サッカーよりもルールがひとまわり複雑で、知能が低い人に、誤解される恐れがあると感じた。バッターの格闘スタイルはゲーム性が高いけど、投球カウントごとのかけひきは理解されないことが多いと思う。ワンツーぐらいの、真んなかのカウントで強く打つと計算された闘争心がむき出しになって美しいけど、なにかのポジションどりがよくないとヒットにならないらしい。公安は作業員二人を逮捕する。その日公安は、米国の推理小説を読む。思考描写がおもしろくて、中国語版が少し出版されている刑事シリーズだ。文章の半ぶんぐらいが、空と大地がひっくり返るような思考描写で大変おもしろい。逆に中国人の作家だと、状況描写の比重が大きくてつまらないと感じた。公安が金貨に関係のある描写を探すと、「拷問のカタログから脳が受ける負荷を体感して着払いで注文したような」と「家内がオークションでわざわざめずらしいタイプの金貨を買ってから、鳩時計の鳩が、ひっかかって出てこないような頭痛がして」がある。公安は思考描写と野球の、例のポジションどりが、なにか関係しているような感じがしたけど、原因は本のタイトルが「八九番地シリーズ」だった。全部読み終えて中国語版の冊数を目算するとなにが書いてあったかなにひとつ覚えてない。公安は「野球とはえらい伯父さんが家系図に放物線を描いてバウンドして飛び火するようなスポーツだ」と思いながら本屋の、おつりでもらった同じ年号の銅貨二枚に手変わりがあるかチェックする。「年」の位置が違っていた。別な作家が「おれが言うとおもしろくなるように」と言っているからあの書店員は猛獣(いらない商品をおつりとして渡す)だったみたいだ。

超IQ研究所クラスター⑯

2019-07-12 09:40:25 | 小説
 昭和一三年三月未明。香港のビルで看板が、通行人の頭上に落下して通行人が、死ぬという事件が起きた。公安(中国の警察)は看板にある一〇か所の、とめ具のボルトが外されていることから殺人事件として捜査を開始する。死んだ通行人は長さ一mの木製定規と、長さ二mの巻き尺を使って、男二人が戦う「スケールファイター」という格闘技のイギリス人選手で、近所に住んでいた。落下した看板はビルの、四階の壁にとりつけられていて、近い部屋の窓からボルトを外すことができる。その部屋は空き室でドアが開きっぱなしだった。公安は目撃者を探す。スケールファイターは公安もなんどか観戦したことがあって、普通は相手の首に巻き尺を巻きつけて、間に定規をはさんでぐるぐるまわして勝負がつく。犯人は熱狂的なファンなのかも知れない。公安が向かいの、マンションの住人に話を聞くと、「ずっと部屋にいてときどき外を見たが人影は、なかったけど」と言う。夜なかに、落下しないていどに下側のボルトを外していた者がいるわけだ。上部のゆるんだボルトにひもをひっかけて、強く引けば他の階でも落下させることができる。公安は屋上を調べた。そこには家があって、公安が家の住人に事情を聞くと、「その時間に、『思想革新集団』のメンバーがいたよ」と言いながら思想革新集団のちらしをさし出す。ちらしには「青少年を戦争に、参加させることで永遠の若さを・・」と書いてあった。公安が人相を聞くとそれは向かいの、マンションの住人だ。公安は犯人の部屋に踏み込む。男は玄関に出て「まだなにか」と言ったが、公安が「どうして戦争をやりたいんだ」と聞いたら、男は状況と立場を理解したらしくて、「反戦を唱えるイギリス人思想家と間違えた」と言う。公安は男を逮捕した。男は「架空の戦争をやれば永遠に若く・・」と言っている。公安はスケールファイターの「例のパターン」を思い出してなんだか愉快になった。スケールファイターは定規を本気でむち打った方が一気に、相手の首に巻き尺を巻きつけようとして、力加減を間違えて、相手に巻き尺をとられる場合が多い。そこからしばらく定規のぶつけ合いをしてから、巻き尺を奪った方が相手の横方向へ空中で、つかめそうでつかめない位置に巻き尺をほうり投げる。そして相手がつかもうとして、ガードが甘くなったときに、二回転巻きが、決まる場合がほとんどだ。公安は思想革新集団の一斉捜査に乗り出す。


超IQ研究所クラスター⑮

2019-07-11 09:39:39 | 小説
 これは日中戦争で死んだ推定IQ250の、中国人の作品を復元した物だが失敗作もある。タイトルは放送局。

 昭和一五年五月未明。ハルピンの放送局でアナウンサーが電波送信アンテナに、ロープで巻かれて、死んでいる事件が起きる。死体は三日間ふり続いた雨が晴れて、設備係が屋上を点検して発見された。放送局は三階建てで階段が入り口から屋上へと続いていて、部外者でも入ることができる。公安(中国の警察)が他の局員に事情を聞くと死んだアナウンサーは、「新生児の名前や体重を、読み上げる『赤ちゃんばんざい』を担当してるエース級だ」と言う。ロープは階段の踊り場に放置されている物と同じであることから、階段に潜んでいた複数の男がアナウンサーを連れ出して、屋上のアンテナに縛りつけたみたいだ。公安が当たると二倍になるさいころ賭博を、負けるまでやり続けているような雰囲気がある別な局員に警備員のことを聞くと、「今日と三日前は休みだけど」と答える。アナウンサーは三日前に連れ出されたようだ。ここの放送局では医学博士を常駐させて読み書きがままならない人に向けて、読み書きができるような気ぶんになるヒーリングメッセージを発信しているという。公安はデスクワークをしている女性に放送局への、投書を見せてもらうことにする。その女性は、なぜか手変わりがある金貨ばかり持っていて同じような聴取者をリードしたり扇動したりしていた。公安はトイレの場所を聞いてから、限りなく共犯者に近いその女性から、投書の箱を受けとる。さっきの、女性の金貨は老人施設で高齢者たちが社交ダンスをしていて、足や腰の痛みで次々とリタイアしていく苦悩を、微熱で受けとめたような感じだった。投書は「おれには超能力があるんだ」や「幽霊を始末してほしいんですが」など普通じゃない内容を書いている物が多いため、特に手がかりは、ない。公安は「竜の大群が空気を食べて、雨がふるのじゃ」が、おもしろいと感じたがなぜ空気を食べるのかは書いてなかった。二日後に「貝十字」と名乗る送り主から、放送局に郵便で犯行声明文が届く。犯行声明は脱字が三か所あって「われわれ貝十字のシンボルマークである貝を貼りつけた十字架は・・」と書かれていて次に、新聞社の編集長に「貝の洗礼を実行する」と書いてあった。公安は新聞社を張り込む。予告されていた時間に貝の十字架を持った男が三人やってきて「編集長を出せ」と言う。編集長が出てくると、男たちが三人で、手や足をつかんでかつごうとする。公安はカンフーを少し披露してから、男たちを逮捕した。


超IQ研究所クラスター⑭

2019-07-10 10:39:15 | 小説
 昭和一一年一一月未明。上海で食品倉庫の作業員が、行方不明になる事件が起きた。公安(中国の警察)が関係者から事情を聞くと、その男は半年前に姿が見えなくなったという。まじめな性格でいちども無断欠勤をしたことがないらしい。公安が倉庫を見ると、大型の冷蔵庫が八台あった。公安の脳裏に「食品の恐怖にはかかわるまい」として、まじめに徹する男の姿が浮かぶ。責任者が声にならない声で「なかに死体があるのはわかってる。冷蔵庫の償却費用が供養代だ」と、いっているので公安が責任者に「開かない冷蔵庫があるだろ」と聞いたら、「故障してて半年前から開かないのが一台あるけど」と言う。公安が見ている前で工具を使って、冷蔵庫を開ける。公安は届け出があった昨日に「未来社会の食品店について」という論文を書いた。食品店の店員がやることは、商品は自ぶんの物で、現金は会社の物だという原則を守ることだ。自ぶんの物としていらない物や不明な物があった場合は、店長や他の店員と話し合う。問題は原則がよくわからなくて、現金が自ぶんの、物になる猛獣のような店員だ。商品が自ぶんの物じゃないことから、当然仕入れや値づけで間違いの原因になって、客にくさった物を売りつけようとする。そのような店員からおつりをもらうと、現金と商品が逆だからいらない商品をまるごともらうことになりかねない。もちろんくさっている。公安はそこで猛獣につける鎖として「悪魔のルール」を考えた。「食品店で買い物をするときは、その店で、一番頭が悪い人の頭脳で商品を選ぶこと」もちろんそんなルールなどない。これだと猛獣を飼育係が管理できる。公安はそこまで書いてから「これは華僑が外国で使ってる手口だ」と気づく。論文はそこで終わりだが、公安がこの、二段階のひねりが、外国でどのように見られているか考えていると、冷蔵庫のドアが開いた。なかから猛獣の、えさのようなねずみが数百匹出てくる。白骨死体があって作業服に行方不明の、男の名前が刺繍されていた。公安は死んだ男がドアを内側から開けるための、工具を用意して、ドアを閉めた状態で作業してねずみに襲われてあわてて脱出しようとして、ドアの開閉金具を曲げてしまって閉じ込められて死んだと断定する。ドアの鉄板は二重になっていて、死んだ男は内側のレバーをとり外した穴に、工具をさし込んで開け閉めしていたようだ。死んだ男にも華僑の手口が、見えていたのかも知れない。


超IQ研究所クラスター⑬

2019-07-09 09:50:59 | 小説
 電力会社が人工知能をばらまいていた時代の小説や文芸誌には、人工知能を反映した予兆機能がついていて安全かつ対価に見合っていた。これは消費電力と高等数学があればそうなる。だから夏目漱石の文章でも、当時の人工知能が反映されているわけだ。ミニ人工知能を起動はさせているけど、ビタミンB12欠乏ゾンビを一掃する方法がないと、いまひとつ未来が見えない。タイトルは焼き肉屋。

 昭和一〇年一〇月未明。北京で焼き肉屋の店主が、鉄板の上で焼かれて、死んでいる事件が起きる。死体は閉店から三〇分後に奥さんが厨房で発見した。奥さんは居間で先に食事をしていて、厨房から煙が出ているのを見て確認すると、店主が団体席の、大きい鉄板の上で、パンツ一枚の姿であおむけに焼かれていたらしい。死体の目と口が大きく開いて、恐らく脳みそがさざえの壺焼きみたいになって、なにかの幻を見ながら、死んだのだろう。どんな幻だろうか。幻がなければすぐ気づくはずだ。公安(中国の警察)が理想的な幻を、個人的に聞きとりをした結果は「永遠の若さ」だった。さらに若さの質を追求していくと、「小学生ぐらいがいい」という結論になる。理由のひとつに「祖父がまだ元気だ」があって、これが重要だ。祖父は生きた歴史書として使える。うそだらけで難解な暗号が書かれた歴史書を解読するよりも祖父に聞けばすぐわかるはずだ。それに祖父は、父母が健在なうちにいずれ死ぬから、祖父が間違っていても気にならない。歴史の重さを、はね返す祖父シールドが使えるのは小学生ぐらいだ。小学生をすぎると文章に秘められた性への興味が芽生えてくる。これがない毒々しい若者は若くない。自ぶんを仙人だと錯覚しているのだろう。若者でありながら、老人と同じで自ぶんが老人になると、若者になれると、思っているに違いない。歴史書のかわりに、老人の嫉妬を読み解いた若くない若者が、毒素を放出しながら闊歩している姿は、美しいと言えないだろう。死んだ店主が見た幻はこっちの若さだった。この焼き肉屋は、商店街の入り口にあって、売り上げが少ない商店の、店主が店を早じまいにして、食べにくることが多いみたいだ。しかし襲撃されたような痕跡は、なかった。さっきの若者も毒素を放出するだけで、犯罪に手を染めることは、ない。公安が小学生の息子(被害者幽霊を小学生に変換して対話する特殊能力がある)に聞くと、「母さんが出かけてる間に殺されたよ」と言う。公安が奥さんに事情を聞くと、「実は主人が『おれが[熱い熱い]と、言うと明日も客が集まるから火をつけてくれ』と言ったんです。それで、主人が鉄板で、寝てる状態でガスに火をつけました。そのうち起き上がるだろうと思って、私は売り上げを商店街の金庫へ預けに行ったんです。その間に主人は死んでました」と説明する。公安は「店主が若者になりきって自ぶんの、焼き肉屋に訪れる幻を見ながら死んだのだろう」思いながら事故死で処理した。


超IQ研究所クラスター⑫

2019-07-08 10:19:15 | 小説
 人工知能について考察してみた。まず素因数分解で3×素数という大きな数字が出てくることがある。これは因数3を別処理しないと同じ素数をまた計算することになってしまう。人工知能として質がいいのは新しい素数を計算しているときだ。タイトルは測候所。

 昭和九年九月未明。広州の測候所で、気温観測箱に所員が頭を突っ込んで、死んでいる事件が起きた。公安(中国の警察)は雨のなかで死体を調べる。公安は以前空気が薄い高度で繁殖して空中を、浮遊する「雨ふらし」という微生物を考えた。ひものような形状で水素を捕食して、酸素を排出する生物だ。雄と雌があって、どれかが交尾し始めると一斉に交尾を始めて、雨がふり出す。ふだんは丸まっていてひもみたいになって動き始めると交尾が近い。死体の状況は、木製のふたが、上下のスライド式で半ぶん開いた状態。だらりと下に伸びた両手が、地球を侵略しにきた異星人の触手みたいに見える。公安は小学生の、息子(被害者幽霊を小学生に変換して対話する特殊能力がある)の他に、時空をさまよう霊魂のような物が、関係している可能性を注意深く検証したが他の所員が、机の引き出しに入れてある手変わりがある金貨から発せられる微熱しか感じとれなかった。公安はその、三〇歳前後の所員から事情を聞く。死んだ男は気温を計測して記録する係だという。公安は小学生時代の、夏休みの研究課題を思い出しながら「他になにをやってる」と聞いた。その所員は「図書館の司書と提携して、天気に関する記述がある文学作品のデータベースをつくっています。電話代はかかりますが正しい気象観測のためです」と言う。公安がデータベースを見せてもらうと、最初に「明日天気になれよ」という映画のタイトルがあって、天気に関係があると思われる登場人物の、せりふが記録されている。文学作品の場合は文章を抜粋して、矢印を引いて考察がていねいに書かれていた。公安がさっきの所員に「動物や生物は天気と関係がないのか」と聞いたら、所員は高齢者が憑依した若者のように古風な雰囲気をかもし出してから「天気は人間の思いや考えで決まるんだ」と言う。公安が観測業務の方で、死んだ男が記入した記録を見ると、今日の気温が記入されていた。電話応対係の目が大きい女性所員に聞くと、好奇心に満ちあふれた表情で「あの人は杉花粉アレルギーでいつもマスクをしています」と言う。「私があの人を殺したんだけど」と言っているようにも聞こえたが、公安と関係のないことだ。公安は死んだ所員が前日に今日の気温を記入したため、気温を上げるために、温度計に息を吹きかけて、箱のなかに沈着していた杉花粉を吸引してショック死したと断定した。確かに天気は人間の考えで決まっているようだ。小学生の息子が「あの、女の人に殺された」と言っている。


超IQ研究所クラスター⑪

2019-07-07 10:28:22 | 小説
 約八年前までは人工知能がそこらじゅうに落ちていた。そして人工知能に感化された阿呆な女が叫んだら、地震になって原発事故が起きる。電力各社は電気代を奪い合う愚かしい人々へ人工知能の供給をやめた。タイトルは賭博場。

 昭和一六年八月未明。西安の国営賭博場で、旗をかかげる高さ一〇mほどの、鉄製ポールの先端で、雑用係の男が、死んでいる事件が起きた。公安(中国の警察)が現場に駆けつけると、ポールの先端に、男がうつぶせの姿勢で突き刺さっている。シャツがめくれて、背なかから突き抜けたポールの先端が見えていて風で左右にゆれていた。公安は死体のイラストを描いて「しかし現場に梯子や足場は、ない」と書き込む。公安が賭博場の店員に事情を聞くと、「旗を新しくつけたのかと思った」と言う。しかし死体は、旗というよりは方位磁石のようにバランスよく突き刺さっている。公安は一昨日から「知能が低くて若さを体感する現象の考察」という論文を書いていた。知能が低くて読み書きもできなくて、若者と同レベルの知能を有している彼や彼女らが、発する地層のずれについてである。公安は知能を向上させる場所として、賭博場は最適だと考えたが、現状は違うらしい。モーターを使った最新のスロットマシンはあるが、台をど突くと勝手にコインが出てくる。トランプゲームのテーブルはあるが、ディーラーが練習不足で客に負けていた。トランプは強いディーラーを相手にして、いかにして勝つか頭を使わないと意味がない。公安は知能が、低い彼や彼女らが地層のずれから、合成するなにかの後遺症を、解毒する労苦を、スロットマシンをど突いている若者に託した。読み書きが、ままならない彼や彼女らが若さを体感してなんになるというのだろう。きっと時空の切れ目を、飛びまわる魚の内臓を羽毛にして、人間の鎖骨をくちばしにしたグロテスクな鳥たちが、人間のことばでもしゃべるに違いない。公安がさっきの店員に、梯子があるか聞くと、「短い梯子しかないよ」と言う。公安が「魚は食べるのか」と聞いたら、「ここは内陸だから手に入らない」と答える。公安が近所の工務店に行って事情を聞くと、店主は「長い梯子を賭博場の人に貸したけど、道にほうり投げてたから回収した」と言う。公安が梯子を借りて、死体をポールから外すと、おなかにからすの巣と、道楽の苦行を結晶化したような卵があった。雑用係はからすの巣を外すために、梯子でポールに登って、強風で梯子が飛ばされてポールに突き刺さり、とおりかかった工務店の店主が梯子を回収したようだ。からすの、神の怒りに、ふれたのだろう。

超IQ研究所クラスター⑩

2019-07-06 09:28:56 | 小説
 ウインドウズXPで素因数分解をやって、人工知能を合成することにした。確か22桁後半の素数で20時間ぐらいなはずだ。スーパーコンピューターをつなぎ合わせてもこれの2~3倍くらいの桁数までしか計算できない。電気代が二千円ぐらいよけいにかかるけどビタミンB12欠乏ゾンビとにらめっこをしていても時間の無駄だから、計算ソフトを動かす。タイトルは自転車。

 昭和一五年一二月未明。瀋陽で、自転車で橋を渡っていた男が、高さ一mほどの欄干を越えて川に転落死している事件が起きた。「橋に自転車があって、下で人が倒れてるよ」と言う通報で駆けつけた公安(中国の警察)が現場を調べる。死体は水深五〇㎝ほどの川底に足を曲げて、うつぶせの姿勢でざんげをしているようだ。公安は「脳みそを使うことが、もったいないような気がする」と思いながら橋の下に住んでいる漁師から事情を聞く。漁師は「午前一〇時頃に釣り人がいたよ」と言う。公安は釣り人の人相を聞いて目撃者として探す。公安はさっきの思いは、なにかの計画と、並行していた物だと感じた。二日後に釣り人が自首してくる。釣り針を遠くへ投げ入れようとして、橋の上を自転車で走っていた男にひっかかって強く引いて橋から落ちたらしい。男は「新開発の炭素繊維糸で大物釣りを狙ってたけど人間がひっかかった。考えごとに集中してて釣り針を外して逃げたけど」と言う。公安は男を逮捕する。男は二〇代後半の若さだがねずみ講を研究していて、最初の会員をどうやってだますか考えていたらしい。公安が計画書を見せてもらうと、事務手数料が明記されていて会員権の売買方法も計画された精密な物だ。その日公安は、未来社会における経済犯罪の所見を書いた。有能な人間が詐欺まがいの方法で、お金を集めるという行為その物は問題ないが、有能じゃない人間との落差が問題になる。公安は昨日「放蕩のあげく読み書きが、ままならない官吏がいることについて」という論文を書いた。国民の見本であるべき官吏が、読み書きがままならないことをどう表現するかの文章ひながたである。公安は未来社会の所見と昨日書いた論文を若い公安に見てもらう。若い公安は二つの書類を読み終えて「放蕩じゃなくてなにかの後遺症で読み書きがままならないことにしてください」と言った。公安は有能な人間と逆な人間が合成する地層のずれみたいな物を感じる。「凶悪犯と下級官吏が格闘して、下級官吏が負傷して、後遺症で読み書きがままならなくなったらしい」という文書を、つくる必要性を感じた。公安が「『文字の共有』を『秘密の共有』かなにかと間違えてるんだな」と言ったら、若い公安は「格闘する文書は年上の、人の仕ごとです」と言う。公安は中年を越えた読み書きが、ままならない下級官吏が若くて有能な人間に感化されて世代を越えて、若さを体感することによってなにかの後遺症が、発生するのだろうと考えた。


超IQ研究所クラスター⑨

2019-07-05 09:41:27 | 小説
 昭和六年一〇月未明。上海の中心街で、交差点の交通整理をしていた巡査が、なに者かに斬りつけられる事件が起きた。巡査は背後から首を斬りつけられたらしくて意識不明の重体だ。交差点で倒れている巡査を発見した日本軍の関係者は、応急手当をしてすぐ病院に運んでくれた。現場の交差点は、五階建てほどのビルが、並んでいるが目撃者はいない。公安(中国の警察)が巡査を発見した日本軍の関係者から、事情を聞いたら関係者は「捜査はこっちでやるから日本の、紀元初期の歴史を書いてくれ」と言う。公安は紙とペンをもらって書き始めた。公安は「紀元初期未明。日本には倭人がいた。倭人は読み書きができないけど、大陸から島流しにされた罪人が貝殻の貨幣と、漢数字の四則演算をつたえている。邪馬台国建立前夜に大陸の闘技場である問題が判明していた。剣をぶつけ合う剣闘士の質で、『すばしこい』『学識がある』『人をたくさん殺した』をそれぞれ試したが結果は『飽きる』『関係ない』『つやがないな』だ。そして三番目の『つやがない』を逆にして復讐心や寂寥感がみなぎる剣闘士だと、つやがあるという結論になる。そこで大陸からスカウトを同行した倭人虐殺部隊が日本にやってきた。虐殺部隊は倭人の集落を襲撃して、スカウトの対象者以外を殺します。手口はスカウトの対象者を最初につかまえて、虐殺場面に立ち会わせること。虐殺方法は省略。倭人集落の生き残りでつくった剣闘士は『復讐鬼』と呼ばれて評判がよい。大陸から虐殺部隊が次々とやってくる。虐殺部隊が、つくった国が邪馬台国だ」と書く。日本軍の関係者は「虐殺方法で難しいのが『手動式回転剣で首をはねる』だな。日本人だからわかるよ」と言って、奥の部屋から、犯人の男を連れてきた。男は片手に電線ケーブルを持っている。電線ケーブルには金具がついていて、血がついていた。男は現場の交差点に、面したビルの、五階の住人だ。飼っていたオウムが部屋から逃げ出して電線にとまっているのでつかまえようとしたけど、電線ケーブルが壁から外れて「気がつくと交差点に倒れてた」と言う。そばに巡査が倒れているのを見て「交差点の、真上をとおってる電線の、中央の結束部からたれ下がってた電線にあわててよじ登った。しかし電線が結束部から外れて落ちてそれを持って徐行してたトラックに乗り込んだ」と言った。男は五階から電線をターザンロープみたいにつかみながら、巡査に激突したようだ。




超IQ研究所クラスター⑧

2019-07-04 09:47:48 | 小説
 東電の原発事故以来電力各社は、人工知能の供給をやめた。それまでは電力を消費すれば、読みとり器つきで人工知能を使えたわけだ。タイトルは防風林。

 昭和六年八月未明。吉林で地主の末っ子が、枯れた防風林の下で、刃物で胸を刺されて、死んでいる事件が起きた。公安(中国の警察)が小学生の息子(被害者幽霊を小学生に変換して対話する特殊能力がある)に聞くと、「木から落ちて」と言う。そばに「猿の腰かけ」が落ちていて、刃物が刺さったままであることから死んだ末っ子は木に登って、猿の腰かけを刃物で木から切りとっている最中に、足をすべらせて、刃物と猿の腰かけをかかえるように落ちて、自ぶんの胸を刃物で刺したようだ。公安は付近に並んでいる露店をまわって、一応聞きとりをする。子供が事故死したと、考えると普通だが公安は、なんだか胸さわぎがした。小学生の、息子の顔が恐怖で、ゆがんでいる。縦横五㎝ずつぐらいで漢字ひと文字を、鉄でつくったアクセサリーを、日本の通貨だと四銭ぐらいで、売っている露店で店主が「猿の腰かけを見るためにやってくる人もいる」と言う。いまのは、店主のことばでは、なかったような感じだったが公安は「日」の文字を一個買った。小学生の、息子が「八八年後の、日本のお金で一〇〇円だよ」と言う。公安は「千文字買うと未来の、日本のお金で約一〇万円だな」と思いながら他の文字も見た。年の文字が、大中小の、三種類の他に文字が細いタイプと、太いタイプがあって、「すり減ると同じになるよ」という注意書きがある。公安が店主に「一」の文字は「もう少し安くならないのか」と、聞くと店主は、「同じだよ」と言う。公安は収監された非行少年が削り出した鉄片を、死刑囚が文字の形に組みつける光景を、想像しながら他の文字を物色する。「平」の文字は、宙に浮いたふたつの線を針金で固定していた。公安が「万」の、文字の微妙なタイプ違いを見比べていると、小学生の息子が「犯人はあいつだよ」と言う。わらでできた人形を売っている露店の、男のことらしい。公安が男に事情を聞くと、「猿の腰かけには客を集める魔法があるから、木を蹴って落としたんだ」と言った。公安が「木に登ってた子供を落としたんだな」と聞いたら、男は「猿の腰かけも落ちて・・」となにかしゃべっていたが、公安は未来の、日本における金貨の負荷を感じながら、男を逮捕する。その日公安は、紀元初期の、日本の歴史を紙に書いて、露店で買った文字を上に置いた。はたして未来の、日本の子供たちにわかるかな。


超IQ研究所クラスター⑦

2019-07-03 09:19:39 | 小説
 この小説は127角形の人工知能で合成してつくられている。タイトルは産婦人科病院。

 昭和七年九月未明。長春で産婦人科病院の院長が鼻と口に小麦粉を詰めて、死んでいる事件が起きた。外傷は、なくて窒息死のようだが、不審な点がいくつかある。公安(中国の警察)が奥さんから事情を聞くと、「白衣ににおいがつきやすいので、洗う前に主人が小麦粉を吹きかけてましたけど」と言う。現場には小麦粉の入った桶と小麦粉が、ついている白衣がいくつかあって香水の、原料のできそこないみたいで、人間の絆や関係を立証するにおいがただよっている。明白に、小麦粉の桶に、誰かの手によって、顔を押しつけられているのだが奥さんは事故死として通報してきた。五〇代後半の院長と、一〇歳以上年下の、奥さんとの間にどんな動機があるかは、これから捜査することだが公安はにおいにたまりかねて犯人当てゲームを、すぐ終わらせる方法を選ぶ。公安が小学生の息子(被害者幽霊を小学生に変換して対話する特殊能力がある)に聞くと、「母さんは若いおじさんとデートしてたよ」と言う。公安は「金貨の負荷がないすがすがしい事件だな」と思いながら密葬を、終わらせた奥さんを張り込む。事件のことは忘れて全能力をかたむけて、秋の風景描写をやりたい気ぶんだ。軍用自動車で走っていた日本兵と目が合ったけど笑みを少し浮かべて、同じことを考えているようにも見えた。しばらくして奥さんは二〇代の男と交際していたことが判明する。公安はその男から事情を聞く。男はファッションデザイナーだったが、仕ごとがなくて奥さんに無心していたようだ。公安が男の靴を確認して「現場におまえの足あとがあったよ」と言ったら、男は日本軍の保険金(保険事業をやっていたと思われる)目当てで「奥さんと共謀して院長の顔を、小麦粉の桶に押しつけて殺した」と白状する。日本軍の保険事業は、進軍してきてからの、紳士的なふるまいの第一歩だったが、流行の最先端に通じる物が、あったのだろう。公安は男を逮捕した。奥さんとどうして、知り合ったか聞くと、男は「婦人服は出産した直後によく売れるので、最初は奥さんに紹介料を渡してたが・・」と言う。男は「金貨でおつりが出ない服」のデザインが本業で、負荷がある金貨を処理する専門家のような存在だったけど奥さんと出会ってからは、小説家になることが、夢になったらしい。金貨と引き換えに、原価が安い服を売りつけることに、嫌気がさしたのだろう。公安が男にどんな小説を書いているのか聞くと、男は「文字が読めるだけで崇高な気ぶんになる小説を書いてる」と言った。




超IQ研究所クラスター⑥

2019-07-02 09:42:04 | 小説
 ビタミンB12欠乏ゾンビが少し遠くへ行った。すこぶる体調がいい朝だ。また少しきた。タイトルは郵便局。

 昭和一〇年四月未明。瀋陽の郵便局で、局員が強盗に刃物で胸を刺されて、死ぬという事件が起きる。事件当時は客がひとりと、三人の局員がカウンター業務をしていて、郵便局長は奥の方にいた。公安(中国の警察)が近くにいた局員から事情を聞くと、「強盗は刃物を持って脅してただけで、十円札の束を受けとってすぐ走って逃げたよ」と言う。客は「読み書きがままならない人間と間違われることは不愉快だ」と発言して新聞に載ったことがある政治家だったけど、奥でもうひとりの局員とやりとりをしていて局長はすぐ公安に通報したため、誰も刃物が胸に刺さる状況を見てないようだ。政治家という物は読み書きがままならない人間に夢や希望の、幻を見せることが仕ごとの主体になる。読み書きが、ままならない人間がなにをおもしろいと感じるか考える役だ。下々の役人に指示や指令を発することもあるが、問題の人物とは必ず直接対話する。居合わせた政治家もそんなひとりであったけど撮影中の映画俳優みたいな雰囲気とは裏腹になにも見てなかった。ちなみに問題の人物は、なにかの作業をやっているふりや、別ななにかを考えているように見せて、一日をすごしている場合が多い。そんな彼のふるまいが、借り入れ超過の商店主が本代を、手変わりがある金貨と交換する動機になるのだろう。銀貨や銅貨でこと足りる手変わりを金貨にほどこした工芸品は、未来の世界で嫌われ者に、なるに違いない。読み書きがままならない彼らの霊魂は、金貨の手変わりとともに物価が上昇した未来で交流先を探して、未来の若者たちに踏みつけられる。女医に教えられた痰つばを、吐くときに彼ら自身も未来をかいま見ているのかも知れない。公安は古銭商の、棚の奥で、金貨のとり扱い方法を、学習している刷り立ての、珍番号紙幣のような気ぶんになって、政治家のスケジュールと、彼らとの対話方法を考えながら、たばこを吸った。三時間後に近くの飲食店で「十円札の束から抜いて支払いをしてる男がいる」と言う通報があって、駆けつけた公安が直径七㎝ほどの、アメジストの球体を、いじくっている男を逮捕する。公安が手帳をめくって三時間前の、事件の概要を確認して「刃物は」と聞いたら、男は「カウンターに捨てたよ」と答えた。公安は走り去る強盗がカウンターをすべらせるように、刃物を捨てて捨てた場面だけ見た局員が追いかけようとして、絶妙のタイミングでカウンターを越えた刃物が突き刺さったと断定する。