今月の23日、絵本作家のエリック・カールさんが他界された。世界中で多くの人々に読まれ、親しまれた可愛い絵本「はらぺこあおむし」の作者である。この絵本の素晴らしい魅力は、シンプルでわかりやすいストーリーと鮮やかで美しい色彩だ。
カールさんは、91歳というご長命で天国へと旅立たれた。生まれはアメリカ合衆国のニューメキシコ州だが、両親はドイツ人で1935年に母国のドイツへ戻って暮らすことになった為、第2次世界大戦に遭遇している。実に波瀾万丈な展開だが、ナチスに支配された全体主義の戦時下においても、少年期のカールさんに1度だけマティスやピカソの自由に表現された絵を見せてくれた学校の先生がいたということだ。これは素晴らしい人生経験である。
テレビのニュース報道でも、カールさんの訃報が飛び込んできたが、生前のインタビューの映像では、強権的政府が人間社会から身近な日常生活の色彩さえ奪ってしまうのだという事実と、そのような戦争の時代で味わった悲しみを、戦後に絵本を作ることで、喜びに変えたと述べられていた。カールさんの生み出す豊かな色彩の世界が、自然を讃美し、生命の畏敬さえ感じさせるのは、絶望の中でも希望を捨てなかった魂が心に確りと残っていたからであろう。
「はらぺこあおむし」では、日曜日の朝に生まれた小さなあおむしが、月曜日にはリンゴを1つ食べて、火曜日以降にもいろんなものを食べながら成長していくのだが、やがて沢山のものを食べても空腹が満たされなくなり、土曜日には美味しい贅沢なお菓子まで暴食し、ついにはお腹を壊す。そしてとうとうお腹の痛さで泣いてしまう。ところが、ちょうど1週間が過ぎた次の日曜日に緑の葉っぱを食べて回復し、健康的に体も大きく成長してサナギになり最後は美しい蝶へと変身する。
絵本の王道をいく短い童話なのだが、この絵本のストーリーには、現代にも通じる普遍的なメッセージが感じられる。そしてそれは子供も大人も関係なく世代を超えて伝わってくる非常にわかりやすい内容だ。自然界に生息する昆虫の青虫は、この絵本のように欲張って食べ過ぎることはしない。そして絵本の主役あおむしが、自然の摂理にかなった緑の葉っぱを食べて再生し、やがて美しい蝶に変身する姿を、私たち人類は見習うべきであろう。つまり限度を無視した暴飲暴食のような搾取と戦乱の横行が、文明を暴走させている現状から軌道修正し、別の方向へと勇気をもって舵をきるべきなのだ。
生前にカールさんは、戦争を絶対に起こしてはいけないとも語っていたという。カールさんのような戦争体験を語れる高齢者の方々は、もう何年も前から日本でも減ってきているのが現実だ。ただしインターネットの時代になって、先人の貴重な言葉が、それ以前の時代よりも探しやすく、埋もれずに日の目を見る可能性もでてきたように思う。実際、経済学の分野では、競争を奨励して拡大路線の成長を目指すよりも、競争の少ない分野にこそ過大ではない健全な成長性が持続するという考え方が再認識されてきている。これは何も革新的な発想ではなく、昔からあった賢明な知恵に近い。それゆえ近現代の経済学が人間の心を追放するほど、効率主義に走り過ぎてきたことに対する反省である。
今そこにある大きな危機はコロナ禍だが、このパンデミックの猛威においても、私たちはエリック・カールさんのように希望を持ち続けることが大切だ。そしていずれ人類が戦争の愚行を確りと意識し、戦争を決然と放棄する、そんな日がやって来るとしたら、それは絵本に描かれたあのあおむしのサナギが、美しい蝶に変身するその時である。
カールさんは、91歳というご長命で天国へと旅立たれた。生まれはアメリカ合衆国のニューメキシコ州だが、両親はドイツ人で1935年に母国のドイツへ戻って暮らすことになった為、第2次世界大戦に遭遇している。実に波瀾万丈な展開だが、ナチスに支配された全体主義の戦時下においても、少年期のカールさんに1度だけマティスやピカソの自由に表現された絵を見せてくれた学校の先生がいたということだ。これは素晴らしい人生経験である。
テレビのニュース報道でも、カールさんの訃報が飛び込んできたが、生前のインタビューの映像では、強権的政府が人間社会から身近な日常生活の色彩さえ奪ってしまうのだという事実と、そのような戦争の時代で味わった悲しみを、戦後に絵本を作ることで、喜びに変えたと述べられていた。カールさんの生み出す豊かな色彩の世界が、自然を讃美し、生命の畏敬さえ感じさせるのは、絶望の中でも希望を捨てなかった魂が心に確りと残っていたからであろう。
「はらぺこあおむし」では、日曜日の朝に生まれた小さなあおむしが、月曜日にはリンゴを1つ食べて、火曜日以降にもいろんなものを食べながら成長していくのだが、やがて沢山のものを食べても空腹が満たされなくなり、土曜日には美味しい贅沢なお菓子まで暴食し、ついにはお腹を壊す。そしてとうとうお腹の痛さで泣いてしまう。ところが、ちょうど1週間が過ぎた次の日曜日に緑の葉っぱを食べて回復し、健康的に体も大きく成長してサナギになり最後は美しい蝶へと変身する。
絵本の王道をいく短い童話なのだが、この絵本のストーリーには、現代にも通じる普遍的なメッセージが感じられる。そしてそれは子供も大人も関係なく世代を超えて伝わってくる非常にわかりやすい内容だ。自然界に生息する昆虫の青虫は、この絵本のように欲張って食べ過ぎることはしない。そして絵本の主役あおむしが、自然の摂理にかなった緑の葉っぱを食べて再生し、やがて美しい蝶に変身する姿を、私たち人類は見習うべきであろう。つまり限度を無視した暴飲暴食のような搾取と戦乱の横行が、文明を暴走させている現状から軌道修正し、別の方向へと勇気をもって舵をきるべきなのだ。
生前にカールさんは、戦争を絶対に起こしてはいけないとも語っていたという。カールさんのような戦争体験を語れる高齢者の方々は、もう何年も前から日本でも減ってきているのが現実だ。ただしインターネットの時代になって、先人の貴重な言葉が、それ以前の時代よりも探しやすく、埋もれずに日の目を見る可能性もでてきたように思う。実際、経済学の分野では、競争を奨励して拡大路線の成長を目指すよりも、競争の少ない分野にこそ過大ではない健全な成長性が持続するという考え方が再認識されてきている。これは何も革新的な発想ではなく、昔からあった賢明な知恵に近い。それゆえ近現代の経済学が人間の心を追放するほど、効率主義に走り過ぎてきたことに対する反省である。
今そこにある大きな危機はコロナ禍だが、このパンデミックの猛威においても、私たちはエリック・カールさんのように希望を持ち続けることが大切だ。そしていずれ人類が戦争の愚行を確りと意識し、戦争を決然と放棄する、そんな日がやって来るとしたら、それは絵本に描かれたあのあおむしのサナギが、美しい蝶に変身するその時である。