想:創:SO

映画と音楽と美術と珈琲とその他

今年の「漢字」

2024-12-28 14:39:11 | 日記

「今年の漢字」が京都の清水寺で発表された。毎年恒例の行事だが、選ばれたのは「金」である。

 漢字の総数は膨大でこの世に10万字ほど存在する。人間の数で約10万人といえば、日本の市区町村を例にすると神奈川県の伊勢原市辺りか。ひょっとするとこの選定の過程は、伊勢原市の総人口から一人の市民が選ばれるようなものかもしれない。しかし選ぶ側からすると、膨大な10万字から厳選する感覚はほぼ無いと思われる。人間社会の1年間に相応しい漢字のリストは、いくらなんでも10万種類には及ばない。しかし今年の応募総数が22万1971票だったことを考えると、さぞ多種多様なイメージが湧き出てきたはずだ。実際、選ばれた1位から10位までの漢字のリストは以下の通りである。

1位 「金」 / 2位 「災」 / 3位 「翔」 / 

4位 「震」 / 5位 「新」 / 6位 「選」 / 

7位 「変」/ 8位 「暑」 / 9位 「楽」 / 10位 「米」

  このリストを見ると、やはり1位に選ばれた「金」は納得できる結果かもしれないが、興味深いのは「金」が1位で登場した年は過去にもあり、2021年と2016年と2012年と2000年がそれに相当する。しかも共通するのはどれもオリンピックが開催された年であったこと。要は光り輝く金メダルのイメージが「金」という漢字の象徴になっているのだ。

 しかし無論、そんなボジティブなイメージだけで完結しているわけではない。スポーツの祭典のメダルのような健全さとは無縁の生臭い政治とカネの問題の象徴としての裏金も、当然「金」の意味の範疇に入る。そして闇バイトの強盗事件や過酷なインフレにも金銭としての「金」のイメージがつきまとう。

 裏金は庶民とは異次元の経済感覚と金満状態にある政治家が、なおも欲深く集金して暴利を貪るシステムだ。闇バイトも犯罪の司令塔は暴利を貪ろうとする強欲な金の亡者であり、それに利用される現場の犯罪者もギャンブルで浪費するなどして借金で首が回らなくなってしまったケースが多い。そして現在進行形の日本社会の物価高は、賃上げや年金支給では補えないほど危険水域に達している。物価高で国家の税収が増えるのとは逆に、税を納めている国民の大多数はお金に困る生活を余儀なくされており、この2024年の現実は非常に厳しい。

 日本の政・官・財の中枢にいて、国を動かす影響力を有する人々は、この「金」という漢字から何を感じているのか、今一つ判然としない。しかし是が非でもことの深刻さや重大さを肝に銘じていただきたいものである。国債の発行額は増え続けているが、赤字国債を国の借金と短絡的に定義するのは不可解なことこの上ない。借金の概念を当てはめるならば、国債よりも奨学金制度のほうが遥かに近いといえる。奨学金制度は国が運営するサラ金事業のようなものだからだ。

 そもそも国の借金というワンフレーズによる印象操作で、実は国債の概要を知ろうとしない国民も多いのではないか。奨学金制度の利用者は学校を卒業したら、学費として借りたお金を働いて返済しなければいけない。しかし国債は家計の仕組みとは本質的に違うものである。借りたお金が返せなくなったら、刷ったお金で返せる仕組み、それが国債を発行して歳出するということである。これは冷静に考えると借金とはいえない代物だ。しかも政府は日本の総資産を全部ひっくるめた上で、借金のフレーズを連呼しているわけではない。これでは借金という脅し文句で、国民に危機感を植え付けているようなものである。

  こうした印象操作で、増税や利上げをしても事態は好転しないであろう。日本は古くから国民が政府を信じる力よりも、政府が国民を信じる力が弱い国だ。典型的なのは古代律令制の遥か昔から為政者が重税を課す圧政が多かったことで、要するにそんな過酷な状態に耐える被支配層の強靭性に、支配層が甘えているわけである。そしてそうした甘えは現代でも殆ど変わらない。ここは一つ、今の政府は国民を信じ、国民に投資する強い気概を持ち、インフレ手当を定期的に支給してはどうか。

 コロナ禍の2020年に国民一人当たり10万円の特別定額給付金が支給されたが、残念ながら10万円は少な過ぎたとしか思えない。あの折に50万円以上支給していたとしたら、パンデミックでしか生まれない社会福祉的なアイディアや志を持つ人々が起業して、ビジネスチャンスを掴み成功への道を邁進し、コロナ禍のマイナスをプラスに変える世界的潮流が日本から生まれた可能性さえある。そして何よりも老若男女問わずに助け合いの輪がもっと広がったのではないか。

 国民を信じ国民に投資する姿勢があれば、年々税収が増えているにも関わらず、国民への還元が不十分なことは異常である。また利上げの動きも、国民目線の発想ではなかろう。確かに日本の金利が低いのは自明の理だが、マイホームを購入して住宅ローンを組んだばかりの人々にとって、日常生活を圧迫する物価高と、賃上げが実現していない現状から、金利が上がっていくのは非常事態かもしれないからだ。それに給料を支給している日本の事業体が全て賃上げを実施できる状態ではない以上、まず政府が国民全てにインフレ手当を支給すべきであろう。

「今年の漢字」に来年も同じ「金」が選ばれることは、流石に想像し難い。なぜなら社会は大きく動かなくとも、必ず変化しているからだ。来年にどんな漢字が選ばれるのかは未知の話だが、今年よりも私たちの世界が良くなったと実感できる、そんな1年後が来ることを切に望む。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする