写真:コウモリラン(ビカクシダ)[花の文化園(河内長野)にて]
<家宅侵入生物>
I 虫
今の家はアルミサッシや新しい建材のパネルで機密性が高い。とりわけコンクリートの基礎を打ちスリットの開いた床下通気口を持つ家。あるいはさらにベタ基礎となり通気口の目立たない家。動物は効果的にシャットアウトされている。
昔の家はとてもルーズであった。僕の家は谷川の横にあり、暖房は火鉢、炬燵だったので冬は川風が入りとても寒かったものだ。冷たい朝飯を冷えきった畳の上で食うのでガタガタ震えていた。むろん飯の保温器なんてものはない。せいぜいお茶漬けで暖かさを感じる程度であった。そんな家だから夏は今よりだいぶマシだった気がする。また30度を超える日もそう多くなかったような記憶がある。冷房がなくてもまあまあといえる。
その代わり、家には虫が沢山入ってきた。
蝿は暖かい季節なら何匹も舞っているのが普通で、ハエたたきで叩き、天井から吊り下げるハエとりリボンや、ハエ取り紙、大きな底抜けの壺のような硝子の蝿取り器などで対処していた。
帽子行く払へど集(たか)る量子雲 (虻曳)
蚊は戦後の僕の時代、通常は蚊帳で防いだ。部屋の四隅に下げた紐の取っ手に引っ張って吊るすもので、とても風情があるが、今のように部屋に多くのものがあっては吊ることができない。
さらに昔は、農家では野草を燻して蚊が寄りつけないようにしたという。燻蒸することは藁葺き屋根の強化にもなると聞いた。
蚊取り線香も有効であるが効力は1年限りのようだ。
網戸の導入は本当にありがたいことだ。でも外国に行くとこれが無いことが多い。オーストラリアのシドニーのクリスマス・正月を留学生用の安い宿で過ごしたことがあったが、冷房もなかったから苦労した。南半球だから正月は夏なのである。
今は暖房をつけるから冬でも現れることがある。
冬の蚊に導かれ行く隠し部屋 (虻曳)
むかし佐賀の中心部で、ラブホテル改造の安いホテルに泊まったことがある。寝ようとすると蚊が多く現れる。換気口を見に行くと網に寒気がするほどビッシリ蚊がとまっていた。いくらかは網目を抜けるのだろう。佐賀はクリークといって街中でも水路がとても多く走っている。それが夏はホテイアオイの美しい花で覆われている。これが水流を滞らせ、腐っては悪臭を放ち厄介なのである。おそらく蚊も滞る水で量産されたのであろう。
ホテイアオイを含む佐賀のクリークの問題は少々古い(2004?)がここにまとめがある。
ゴキブリは丹波にいた頃は記憶が無い。かって北海道がそうであったように、上に述べた寒さでは越冬ができなかったのか。あるいは僕が台所の夜間観察ができてなかったためか。
生駒に来てからは部屋に現れるゴキブリは少い。やはりコンクリートの基礎とシロアリ防除の薬のせいであろう。しかし今年は結構よく現れる。原因は不明。
昭和70年頃、宇治にいたときはトビケラが大発生して、食べ物の上に落ちるので食堂などで気持ち悪かったものである。大発生自体は続いているようで、昨年(平成26年)にも報告書が出ているほどである。
カゲロウも大発生することがある。僕ら兄妹の学費に窮した親が小さな小売を始めたとき、無数に押しかけて商品を汚すので困った。甲虫のほうが気持ちいいのである。そこを行くと、コメツキムシなんてパキパキしていて、触っても気分がイイ。
これらカゲロウやトビケラは川の近くで現れる昆虫である。トビケラの幼虫は川の瀬にいるので石をひっくり返して取り、ハヤ釣りの餌にした。
難儀なのはムカデ。盆地の京都市内にはよく出る。
吉田山の裾に棲む知り合いの女子学生は始終現れるのでノイローゼ気味だったし、北白川の奥に下宿する友人の一人は、布団の襟の部分を這うムカデを見てから、深夜に起きている完全夜型人間に変身した。
ムカデはお茶に含まれるタンニンでノックアウトされるという。子供の頃何度かやかんを持って追いかけた。効果があったようなおぼろな記憶がある。タンニンは咬まれたとき毒を中和するとも聞く。
あばら屋の板の間で寝転がって読書しているとき、脇腹に激痛が走った。見ると小さなムカデが咬みついてぶら下がっていた。紫色に腫れ上がって何日か痛かった。でもムカデはゴキブリをよく食ってくれるそうだ。
ムカデの極めつけは、アラン・ロブ・グリエ『嫉妬』か。もう記憶も定かでないが、バルコニーに執拗に現れるムカデの染みと幻影が浮かぶ。
ゴキブリを食うので有名なのはアシダカグモだ。初対面の人はぎょっとするほど大きくて迫力がある。
一度アシダカグモがネズミの赤ん坊をくわえているのを見たことがある。ネズミの赤ちゃんは外傷があるようだったので、元気なものをクモが自分で捉えたのではなかっただろう。しかし哺乳類を節足動物がくわえているシーンは感覚的に恐ろしかった。トカゲ、ヤモリの類を捉えた写真はネットにある。
でも僕の観察ではクモは蚊取り線香に弱いのではないだろうか。古家で香取を焚くとコイツが本当にフラフラになって現れる。嗅覚もないのだろうか、煙をしたたかに喰らってしまうようだ。まあこれは勝手な推測である。
実は僕も蚊取り線香に弱い自覚がある。最近アレルゲンのテストを受けると、雑草と蛾と出た。この雑草に当たるのではないだろうか。その有効成分であるピレスロイドは、電気蚊取りに入っているがこれは大丈夫のようだが。
最近蚊取り線香はあまり使われないが、アシダカグモが住まうにはどこも家も隙間があまり無くなったのではないだろうか。
さてこの季節(秋)に危ないのはスズメバチである。獲物を求めて植木の周りや軒先を物色している。部屋にも入ってくる。獲物はスズメバチであることも。
コイツ等との恐ろしい遭遇は、別のところに書いたので繰り返さない。
虫あまた身にあそばせて桜朽つ (虻曳)
いつか続編「家宅侵入小動物」について書く予定である。
見出しの写真は加工されているので、誤解のないように最後にオリジナルを出しておきます。
<家宅侵入生物>
I 虫
今の家はアルミサッシや新しい建材のパネルで機密性が高い。とりわけコンクリートの基礎を打ちスリットの開いた床下通気口を持つ家。あるいはさらにベタ基礎となり通気口の目立たない家。動物は効果的にシャットアウトされている。
昔の家はとてもルーズであった。僕の家は谷川の横にあり、暖房は火鉢、炬燵だったので冬は川風が入りとても寒かったものだ。冷たい朝飯を冷えきった畳の上で食うのでガタガタ震えていた。むろん飯の保温器なんてものはない。せいぜいお茶漬けで暖かさを感じる程度であった。そんな家だから夏は今よりだいぶマシだった気がする。また30度を超える日もそう多くなかったような記憶がある。冷房がなくてもまあまあといえる。
その代わり、家には虫が沢山入ってきた。
蝿は暖かい季節なら何匹も舞っているのが普通で、ハエたたきで叩き、天井から吊り下げるハエとりリボンや、ハエ取り紙、大きな底抜けの壺のような硝子の蝿取り器などで対処していた。
帽子行く払へど集(たか)る量子雲 (虻曳)
蚊は戦後の僕の時代、通常は蚊帳で防いだ。部屋の四隅に下げた紐の取っ手に引っ張って吊るすもので、とても風情があるが、今のように部屋に多くのものがあっては吊ることができない。
さらに昔は、農家では野草を燻して蚊が寄りつけないようにしたという。燻蒸することは藁葺き屋根の強化にもなると聞いた。
蚊取り線香も有効であるが効力は1年限りのようだ。
網戸の導入は本当にありがたいことだ。でも外国に行くとこれが無いことが多い。オーストラリアのシドニーのクリスマス・正月を留学生用の安い宿で過ごしたことがあったが、冷房もなかったから苦労した。南半球だから正月は夏なのである。
今は暖房をつけるから冬でも現れることがある。
冬の蚊に導かれ行く隠し部屋 (虻曳)
むかし佐賀の中心部で、ラブホテル改造の安いホテルに泊まったことがある。寝ようとすると蚊が多く現れる。換気口を見に行くと網に寒気がするほどビッシリ蚊がとまっていた。いくらかは網目を抜けるのだろう。佐賀はクリークといって街中でも水路がとても多く走っている。それが夏はホテイアオイの美しい花で覆われている。これが水流を滞らせ、腐っては悪臭を放ち厄介なのである。おそらく蚊も滞る水で量産されたのであろう。
ホテイアオイを含む佐賀のクリークの問題は少々古い(2004?)がここにまとめがある。
ゴキブリは丹波にいた頃は記憶が無い。かって北海道がそうであったように、上に述べた寒さでは越冬ができなかったのか。あるいは僕が台所の夜間観察ができてなかったためか。
生駒に来てからは部屋に現れるゴキブリは少い。やはりコンクリートの基礎とシロアリ防除の薬のせいであろう。しかし今年は結構よく現れる。原因は不明。
昭和70年頃、宇治にいたときはトビケラが大発生して、食べ物の上に落ちるので食堂などで気持ち悪かったものである。大発生自体は続いているようで、昨年(平成26年)にも報告書が出ているほどである。
カゲロウも大発生することがある。僕ら兄妹の学費に窮した親が小さな小売を始めたとき、無数に押しかけて商品を汚すので困った。甲虫のほうが気持ちいいのである。そこを行くと、コメツキムシなんてパキパキしていて、触っても気分がイイ。
これらカゲロウやトビケラは川の近くで現れる昆虫である。トビケラの幼虫は川の瀬にいるので石をひっくり返して取り、ハヤ釣りの餌にした。
難儀なのはムカデ。盆地の京都市内にはよく出る。
吉田山の裾に棲む知り合いの女子学生は始終現れるのでノイローゼ気味だったし、北白川の奥に下宿する友人の一人は、布団の襟の部分を這うムカデを見てから、深夜に起きている完全夜型人間に変身した。
ムカデはお茶に含まれるタンニンでノックアウトされるという。子供の頃何度かやかんを持って追いかけた。効果があったようなおぼろな記憶がある。タンニンは咬まれたとき毒を中和するとも聞く。
あばら屋の板の間で寝転がって読書しているとき、脇腹に激痛が走った。見ると小さなムカデが咬みついてぶら下がっていた。紫色に腫れ上がって何日か痛かった。でもムカデはゴキブリをよく食ってくれるそうだ。
ムカデの極めつけは、アラン・ロブ・グリエ『嫉妬』か。もう記憶も定かでないが、バルコニーに執拗に現れるムカデの染みと幻影が浮かぶ。
ゴキブリを食うので有名なのはアシダカグモだ。初対面の人はぎょっとするほど大きくて迫力がある。
一度アシダカグモがネズミの赤ん坊をくわえているのを見たことがある。ネズミの赤ちゃんは外傷があるようだったので、元気なものをクモが自分で捉えたのではなかっただろう。しかし哺乳類を節足動物がくわえているシーンは感覚的に恐ろしかった。トカゲ、ヤモリの類を捉えた写真はネットにある。
でも僕の観察ではクモは蚊取り線香に弱いのではないだろうか。古家で香取を焚くとコイツが本当にフラフラになって現れる。嗅覚もないのだろうか、煙をしたたかに喰らってしまうようだ。まあこれは勝手な推測である。
実は僕も蚊取り線香に弱い自覚がある。最近アレルゲンのテストを受けると、雑草と蛾と出た。この雑草に当たるのではないだろうか。その有効成分であるピレスロイドは、電気蚊取りに入っているがこれは大丈夫のようだが。
最近蚊取り線香はあまり使われないが、アシダカグモが住まうにはどこも家も隙間があまり無くなったのではないだろうか。
さてこの季節(秋)に危ないのはスズメバチである。獲物を求めて植木の周りや軒先を物色している。部屋にも入ってくる。獲物はスズメバチであることも。
コイツ等との恐ろしい遭遇は、別のところに書いたので繰り返さない。
虫あまた身にあそばせて桜朽つ (虻曳)
いつか続編「家宅侵入小動物」について書く予定である。
見出しの写真は加工されているので、誤解のないように最後にオリジナルを出しておきます。
私は、ざくろの木に大きく育っていたスズメバチの巣を取ってもらって、それをみてぞっとしました。自然界の造形のすごさ・・。