シム論争といっても携帯電話のSIMロック論争とは全く違います。ネックとボディがセパレートするデタッチャブルネック・ギターのポケットに
角度を調整するスペーサーを入れるか入れないかの論争です。ギター弾きでも興味のない人には面白くない話題ですが、ギターをクラフトする関係者やハイエンドギターマニア、スラップベーシストの方たちには結構盛り上がるお話です。
拘るマニアは「ネックとボディの接地面にスペーサーなんて入れると音の伝達を減少させて鳴りが悪くなる。」「ビンテージフェンダーはどうなんだ!」等と会合での酒の肴になります。結論はそれぞれの楽しみ方で科学的な根拠もあってないような感じですが、要するに気持ちの問題かもしれません。
しかし、半世紀以上前にデタッチャブルネックギターの大量生産を始めて開始したレオフェンダーもボディとネックジョイントの加工精度の面で後にマイクロティルト機構を作るくらいギターのセットアップ上重要な部分には変わりありません。80年代に入ってからコンピューター制御のカッティングマシンが導入されたり、タイトに加工されたハンドクラフトメーカーの職人技を競い合う部分の代名詞になり、いつの日かネックポケットとネックのサイドの隙間があったりシムを仕込んでいたり、マイクロティルトのフェンダーは品質が悪い!なんていう人もいる時代もありました。特に80年代はタイトな作り、HSH、フロイドローズ、ヘビーウエイトなボディ、ラックエフェクター等が話題になっていた時期。紙のスペーサーを入れるなんて許されるわけがありません。しかし、同時にビンテージギターのブームも始まっていましたし、オールドギターを深く掘り下げたムック本などの情報からシムを拒否する部分も和らいでいった感じもありました。そのシムも紙、ファイバー、木、プラスチック等様々。どれがいいとかいう話もあります。
また、ネックポケットの精度の問題もいろいろな解釈があります。デタッチャブルネックの構造上避けては通れないネックの仕込み角度というものがあり、この部分は弦のアクション、テンション、弾き心地にかなりの影響を与えます。ブリッジにはあるレベル以上の弦のテンションがないといけません。確かに一寸の狂いもなく加工されているとギタリストは安心しますが、ネック材とボディ材の違いによる経年変化でジョイントポケット部分に亀裂が生じたりする場合もあります。
一方で60年代のビンテージフェンダーを見てみるとネックとボディの隙間があって緩く、シムがしっかりと仕込んであり、ジョイント面には塗装が大盛りに乗っていたりしますが音は素晴らしくエアー感がたっぷりある音です。現在はビンテージの研究が進んでいて違いますが90年代のハイエンド工房系のギターメーカーでさえビンテージサウンドと歌っていても実際は全く違うというのがほとんどでした。鈴鳴りのシングルコイルビンテージフェンダーの音を再現するには度合いもありますがネックポケットの緩さ、シムは絶対条件かもしれません。実際、ネックポケットがかなりタイトに仕上げてあるフェンダーカスタムショップのストラトの両サイドの塗装部分を軽く削ってシムを入れた瞬間、ビンテージフェンダーサウンドになったこともあります。これも主観なので絶対的ではありません。持論ですが、マイクロティルトネックはネック部分とポケット部分に金属プレートがありそのプレート同士が連結するので音の伝達性は一番かもしれません。シムより微妙な角度調整が出来るしこれはかなり高度なパーツですが評価を低くしているのはギター制作側だったりもします。
また、フェンダーは各パーツのネジの締め具合でもサウンドに影響してきます。ペグのネジやネックジョイントプレートのネジも必要以上に締め付けると鳴りが変化します。それだけ特にストラトキャスターはパーツ点数も多いのでそれらの塩梅でサウンド、トーンの幅もかなり大きく変わります。そのどのあたりを自分のビンテージサウンドと評価するか、イメージや好きな音がジミなのか、リッチー、ギルモア、ギャラガー、レイボーン、クラプトン、クレイ、ノップラー、はたまたバディーホリーかと基準の幅が広すぎて悩ましくもなりますが。
セットネックのギブソンやPRSとビンテージフェンダーサウンドは基本的に全く違います。そこを製造加工上の観点から同じに評価すると作り手の考えと出てくる音とのズレからオカルトが生まれます。それもまた商売の一つですけどね。