よく観ると非常にハイセンスなジャケットのニックデカロの「イタリアン・グラフィティ」。AORの名盤中の名盤。全てカバー曲だがアレンジで原曲を超える作品に仕上げるスーパーアレンジャーのセカンドソロアルバム。
ニックデカロは60年代からA&M、ワーナーでの仕事で頭角を現し、70年代に入りアメリカの名盤といわれているポップス、ロックのストリングスアレンジには必ずニックデカロが絡んでいたといわれるぐらいの売れっ子アレンジャー。そんな中1974年にリリースした全曲自身のヴォーカルをフューチャーした作品。70年代のフュージョンブームを作った旧友の名プロデューサー、トミーリピューマとの共同プロデュース。当時のブラコンやフュージョンの独特のサウンドを作り出したエンジニアのアル・シュミットなど音楽制作のプロ中のプロたちが完璧な仕事をしている。
全体がメローでスウィートなアレンジだがどこか角があってテンションがある。それは起用しているミュージシャンの力も大きい。ドラムにポールハンフリーとハービーメイソン、ギターがデビットTウォーカー、アーサーアダムス。ベースがクルセイダーズのウェルトンフェルダーとマックスベネット。それだけでも黒いファンクネスだ。打ち込みなんて一切無い、完璧なスコアを解釈するミュージシャンの出音まで考えられたセッティング。その生のセッションを捉えるエンジニアと本物の音楽制作はどういうものかがこれを聴くと理解できる。
妙なヒネリやメッセージは全く無く、あくまで王道のアメリカンミュージック。その後のAORの元祖のようにいわれているがこれは60年代からのスタンダードのポップスの凝縮版だ。選曲のセンスの良さとアレンジの質感の素晴らしさ。同じ製作スタッフでその2年後にリリースされたマイケル・フランクスのデビュー・アルバム『The Art Of Tea』とは肌触りが違う。
こういう作品はちょっといいオーディオセットでちょっとだけヴォリュームを上げて聴くと最高だ。
でも一番ヒネリが効いているのはこのジャケットと自身の非力でスウィートなヴォーカルでした。