読書の森

秘密の張り込み その2



女性の名は小山麻美、医学書の翻訳をして暮らしを立てている。
藤堂が調査したところ、必要な用事以外は外出せず、在宅でパソコンに向かって仕事をしているようだ。
知的な印象の美しい女性ではあるが、寂しい影があって明るさに欠けていた。

わからないのは秋田の依頼目的である。
麻美のパソコンやスマホのアドレス、電話番号、を掴んだ上に、工事業者にわざわざ金を出して修繕装い盗聴マイクまで付けてまでしている。
その上探偵(藤堂)を近くに置いて、彼女の状況を逐一報告させている。
恋愛感情を持つ金持ちのストーカーというなら理解出来ない事はない。

しかし、それにしては関心の的は彼女ではないようである。
藤堂の推理では、秋田は彼女の所持する「何か」に強い関心を持っているようだった。



何かとはかなり価値のある物らしい。
秋田がうっかり間違って売ってしまった価値のある古美術を取り戻したいだろうか?
それなら、わざわざ探偵にお金を出すよりも秋田自身が容易にお金で解決出来ることだと思う。

さらに秋田は彼女の部屋を探るために、藤堂に個人的に彼女と親しくなって欲しいと迄言うのである。
秋田自身がかなり怪しい秘密を持っている感じである。
おそらく「何か」とは一見価値がわからない物なのだろう。
彼女自身も分かっていないのかも知れない。いやそうに違いない、と藤堂は思った。


その内、藤堂はだんだん寂しげな麻美に同情する気になった。収入が欲しいだけで依頼を引き受けて、その内に気持ちが全然違ってきたのである。

心に傷を受けて、人付き合いを避けて地道に暮らしているとしか見えない彼女の個人情報を探らせるのは明らかに違法である。
違法だからこそ、藤堂のような言わばアウトローに調査を依頼しているのではないか。
そこに人間的な優しさのカケラもない。

藤堂は逆に秋田の依頼する真の目的を探り出す気になってしまった。


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