2005年に『時生』と改題されているのは、人気グループ「TOKIO(トキオ)」と紛らわしいからでしょうか。
時生は中流家庭の勤め人の一人息子です。優しい両親の下で、スクスク育った素直で元気な子ですが、決定的な弱点があります。
それは若くして命を終えねばならぬ難病の持ち主なのです。
愛する人がその遺伝子を持つ事を承知で男は彼女と結婚します。
その背景には、決して言えない彼の過去の秘密があったのです。
と、ここまではよくある物語なのですが、、、。
時生が20歳の時、もはや病いは全身に回り、彼は意識不明の瀕死の床にあった。
その時、父宮本拓実は妻に告白する。
「自分が23歳の時、20歳の時生と会って二度と出来ない冒険の旅をしたのだ」
死の床に就いている時生は、文字通り時間を超えて父親の運命を一変させる旅に出たのです。
会いに行った場所は1979年の浅草花やしきでした。
舞台は20世紀末の何不自由のないサラリーマンの一家の住む住宅街を離れ、1979年の貧しいその日暮らしの若者のたむろす下町へ移ります。
そこで、底辺の生活をしている宮本拓実は不思議な青年トキオと出会い、命拾いをするのです。
そこから2人の波乱に富んだ旅が始まりました。
名古屋、大阪、作者の馴染みの街の風景が次々描写されて、かなり面白いものがありました。
以前の図書館での読書体験とまるきり違う印象です。
以前見逃していた作品中の「明日だけが未来じゃない」という言葉が胸を打ちます。
もう一つ、「配られたカードで精一杯勝負するしかないやろ」と大阪のヤクザの姉さんに言わせた言葉も響いてきました。
作者がコロナ禍を予測していた筈も無いのですが、どうも「明日には未来が開ける」と期待するより「与えられたカードで勝負する」時期なのかなと暗示してる様に思えてきました。
私的には、年を経て読み直す価値ある本だと思いました。