彼らが黒木が決定的に異なる点は、その生活態度の悪さだった。
大学に通っても席を置くだけの人間。
職もなく住所も定まらない者が殆どだった。
仮に黒木が犯行グループにいるとすれば、全く異質で、言わば野良猫の集団の中の気位の高いシャム猫と言う印象である。
ある事実を深く追及するあまり世間から遊離してしまう若い時の拓の欠点を、黒木はそのまま持っているようだった。
拓は優しく気弱な男と言う今の見かけとは違う、担当教授に対しても疑問点を鋭く突っ込む学生時代を送っていた。教師にもクラスメートにも一目置かれる代わり敬遠されていたのも事実である。黒木がその雰囲気をそのまま持っているのだ。
黒木は境遇ゆえか、周りの矛盾点に敏感な質であろう。
その黒木が悪事を承知で振り込め詐欺グループに加わっていたと仮定すればその動機は何だろうか?
拓が調べる内に、黒木が犯人グループに加わる意味が分かった。
そこでさらに慎重な調査が進められた。
黒木は西武新宿線沿線で下宿していた。
偶然拓も同じ路線に住処がある。
黒木が武蔵境、拓は野方に住んでいた。
新宿の盛場には非常に近い場所である。
拓は休日に黒木を尾行して新宿東口大通りを歩いていた。コンクリートの街にも仄かに甘い香りが漂っていた。どこかで春の息吹が聞こえる気がする。
さて黒木の表情はいつもと異なって見える。
心に潜む激情を抑えて何か決心するところがある様だ。
彼は歩き回った後に紀伊国屋書店に立ち寄ってパラパラ本を覗いて、喫茶店の隅でゆっくりコーヒーを飲んいる。
「俺の学生時代と同じコースだ」拓は苦笑した。
喫茶店の片隅で、黒木はスマホの画面を凝視していた。
拓は彼の本能的感覚を駆使して黒木の行動心理を読み取ろうとしていた。
と、黒木が立ち上がる。拓も目立たないように立ち上がる。拓は勤務中と異なるラフな学生っぽい服装で場所に溶け込んでいた。
黒木の行先は歌舞伎町である。
途中で小さなラーメン屋に入る。拓は肌寒いのを堪えて見張っているだけだった。
陽は完全に沈み、辺りは暗い夜空に変化していた。
黒木の歩く方向はごちゃごちゃと店の立ち並ぶ繁華街の裏手になる。昔神社のあった狭い場所で防犯カメラの死角になる。
程なくその場所に、スリムな美しい娘が現れた。どうも日本人では無いらしい。
「何なの?こんな早い時間に呼び出してさ」
形の良い唇を歪めて女は険しい表情をしていた。
「全てが闇に隠れない内に済まそうと思って」
「??」