読書の森

セカンドハウス 最終章



「救われないな。踏んだり蹴ったりの人生じゃないか。由比さん」
御代田の同僚の恩田が呟く。

安酒を飲ます薄暗い酒場は、混んでいてムンムンしていいた。
しかし二人の心は冷えていた。

「恋人だった男どうした」
「女と別れたそうだ」

おそらく由比に悪戯電話をかけたり、家まで見に行ったらのは梨沙だろう。
女の嫉妬を敏感な由比は感じて、神経が尖った。
戸田は自分が由比を二度殺したようなものだと思った。
一度は心の死を二度目は本当に死を招いてしまった。

皮肉な事に懐かしい昔の恋人に会った事が、戸田にも梨沙にも、勿論由比にとっても最悪の結果になった事だ。

悄然とした戸田の姿に御代田は声を掛けられなかった。


由比は医師を信じきり全てを打ち明ける前に、誰か親しい人に相談すべきだった。
医者は病気としてしか人が分析出来なかった。
由比が率直にありのままの悩みを打ち明ける人がいたらこの事件はなかったろう。
それで彼女の心が癒され優しくなれるからである。

萱を無視出来ず、しなくてもいい喧嘩をしたのも、誰にも本心を打ち明けられなかったのが一番の原因だろう。

「病気!」
心の病いと聞いた萱は吐き出す様に言った。
「キチガイか。キチガイの為に俺の人生がメチャクチャになった」
御代田は萱を張り倒してやりたかった。



「可愛い女だったのに」
「彼女はそんな風に見られる事を望んでないさ。要するに普通の神経を持ちたかっただけだよ」

例えばアブノーマルと言われる人がいたとする。
環境的要因でアブノーマルに見える事は多々あるのではないか?

御代田が由比の事件を振り返ると、必死で不器用に生きる女が、一見恵まれて見える故の悲劇としか思えない。
確かに当麻由比は相当の収入があり、家を購入する余裕があった。
由比がどれ程心の闇を抱えていても、人はそれを理解してくれない。
男から性的対象としてしか見られず、女からライバルとしか見られない状態に由比はいたと思う。

何でもかんでも心の病気のせいにしたり、表面的なもので相手を判断するのは止めようと御代田は心に誓った。

御代田は生きている内の由比を知らない。
知っていたらそっと抱きしめてやりたかった。
ただそっと抱きしめてやろうと。



由比はカーテンを外しながら
「本当に私ってバカみたい」
と呟いた。
無駄金を使って、手間を掛けて、得たかった安らぎとはなんだろう。

ふと窓の下の雑草に目を止めると、可憐な勿忘草を見つけた。
過去を忘れたい、でも忘れなくても明日も生きていける。
ふとそんな気がした。

新しい自分を冷静に積極的に見つけよう。
社外で交友関係を探してもいいのかも。

由比は心が解放された気分でカーテンを外し終えた。
途端激しい疼痛が襲った。
薄れていく意識の中で由比の心の目は勿忘草を見ていた。

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