読書の森

忍ばずの恋 その2



通常、退社時刻が過ぎても、由芽子は依頼された作表の仕上げなどで居残りする事が多い。
その日も一心にパソコンに向かっていた。

「よう、宇佐美君頑張ってんな!先日は僕の資料まとめてくれてありがとう!」
ぽんと肩を叩いたのが広崎である。

いやらしさの欠片もなかったと後から由芽子は思う。
「どうだい、その仕事一段落ついたら、僕と付き合わない?この前のお礼にご馳走したいのだけどね」

一瞬、由芽子は耳を疑った。
今彼は何を言ったのか?
確か「付き合わないか」と言ったよね、と由芽子は自分に問うた。

後にも先にも、彼女にとって初めて聞く言葉である。
大げさに言えば卒倒しそうになった。

卒倒しそうになった割には、次の瞬間立ち直り、「喜んで!」と受けてしまう彼女だった。

広崎が一見冴えないが、実にシャープな頭脳を持っているのを知ってるからである。
その男から誘われて断る手はないと思った。
しかも異性から初めてアプローチされたのである。

作表のスピードは上がり、程なくして由芽子は広崎と共に、街路灯の青い光が照らす夜の舗道を歩いていた。

読んでいただき心から感謝です。ポツンと押してもらえばもっと感謝です❣️

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