店を出ると美しい月夜だった。
「今日はご馳走様でした」
「ううん、変な事聞かせちゃってゴメン。でもエスパーなんて証拠全然ないよね」
確かに、話の内容だけだと思い込みの強いナーバスな人とも思える。
「編集長に出した『謎』という原稿読んでくれる?そしたらエスパーと信じてくれるかも」
いつもの健康そうな表情に戻った智恵子は悪戯っぽく笑った。
「実は智君の事好きだったの。初恋の人にそっくりだからね」
又々驚いた智に手を振ると、彼女は駅と反対方向の道をかけて行く。
「大丈夫ですか?」
「ハハ。バス停へ行くのよ。バスの方が近いから。
智君、気をつけてね!」
あっと言う間に彼女の姿が消えた。
その日を境に、彼女は智の前に姿を見せなかった。
智は智恵子の最新原稿を見せてもらった。
『謎』は10年前の東京郊外の一家殺人事件の真相を解明したものだった。
それは全く新しい視点で書かれ、しかも犯人特定までしてある。
「ちょっとこれは被疑者から訴えられそうで出来ないと言ったんだが。
一応保留にしてあるがね」
一月ほどしてその一家殺人事件の犯人が挙がった。
それは、智恵子が指摘した人物だった。
「高村君はルポを凄い勘で書く人だから。あの人は努力じゃなく才気で書いてる」
「最近高村さんの姿見ませんけど」
智はオズオズ尋ねた。変な勘ぐりなどされそうも無いが。
編集長はさりげない様子で言った。
「彼女、暫く休むそうだ。旅に出るんだって」
その旅は永遠に終わらないのかも知れない。
高村智恵子という名前自体本名かどうかわからない。
原稿料を振り込む口座の名前は別名である。
年齢不詳である。
そして住所が一定しない。
彼女に関する胡散臭い情報を聞きながら、智はこう思い込む事にした。
「やっぱエスパーだから仕方ないんだ」
^_^当然ですが、私自身はエスパーではありません。
一面、極めて雑な神経の持ち主です。
為に気がつかない点があったら申し訳ないです。
読んでいただき心から感謝です。ポツンと押してもらえばもっと感謝です❣️
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